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遺跡建設

ユキのチートの能力全開の回です。

 時は少し戻り、高野1193年10月26日

 俺とユキは昨日に引き続き、朝から戸覇威山脈の東側に来ていた。

 光矢軍の基地の基礎と古代遺跡の跡地の模造ためである。

「この辺でいいか」

 俺は戸覇威山脈の山裾を北に10km程行ったところで『ハリー』を停車した。

「ユキ、頼む」

 俺が特に細かい指示をしなくても、ユキは砂漠の下の岩盤が現れるまで砂を異次元空間に吸い込んでいく。どんどん砂が崩れていて何作業になるかと思ったが、壁になったまま崩れてこなかった。

山裾から5km四方ほど岩盤が剥き出しになったところで、ユキがトンネルの掘削の時に貯め込んだ土石を細かく粉砕して少し盛り上がるくらいに敷き詰めて行く。10分もしないうちに砂漠がしっかりした地盤の平地となった。

「ユキは凄いな」

「こんなこと考える丈二も凄いと思うけど」

 とにかくこれで基地の基礎は終了だ。後は光悦に整地させてトンネルの電灯敷設工事で電気を引っ張ってきた後に上物を順次建てて行けばいい。整地が終わったら舗装工事を行って、軍事車両を中韓大国に発注しよう。軍事車両と一緒に実弾訓練が出来れば練兵も捗り荒仁も喜ぶはずだ。

「このあとがちょっと大変だな」

「そうね、下手したら夕方までかかるかもね」

 俺達は『ハリー』でトンネルまで戻り、トンネルから真っすぐに東に伸びる街道もどきを左に曲がり『ハリー』を走らせた。3km程進んだところで途切れている。まずはこの街道もどきの増設だ。

「ここからやるぞ」

「石油の埋蔵している場所まで50kmってとこかしら」

 荒比谷から西都に飛行機で飛んだ時にユキがサーチした油田までは、砂漠の中を行くとなると結構な距離である。

 ユキが砂漠の砂を岩盤が見えるまで異次元空間に吸い込んで行くと、切り立った砂壁の渓谷の様になる。長さ500m幅10mまで広げたところで、異次元空間に貯めてあった土石を元の高さよりも1m程高く砂漠に頭を出すように積み重ねる。

「表面を平らに出来るか」

「OK」

 ユキは腕を3mの刃物に変えて、積み上がった土石を切りつけてデコボコを切り飛ばすと石畳のような模様を残した道となった。切断面が鋭すぎる気がしたが、それもまた古代文明の謎としていいかもしれない。

「作業5分か。よし、この調子頑張ろう」

「OK。ジュバーッって吸って、ドドドって入れて、シュパーッね」

「そうだな」

 俺はユキを乗せて『ハリー』を500m走らせて停車した。


 俺達はこの単純作業を三時間ほど続け、場所によって岩盤までの深い浅いの差があったが開始して30kmは進んだろうか。陽も高くなってきた。

「そろそろ飯にするか」

「やったー、今日は何」

 俺は昨日の寿司桶を西崎漁港に返しに行ったときに、フライを百人前と梅、昆布、おかかの具のおにぎりを100個ずつ注文しておいた。迷惑かなと思ったが、何だかまた喜ばれた。

今日と同じように冷凍倉庫の脇に置いておいてもらえれば、積み込んで持っていくと代金は前払いしておいた。タルタルソースと中濃ソースはスーパーで買って置いた。

 戸覇威山脈に向かう前に、ピックアップしたがフライもおにぎりも10人前に小分けにして風呂敷に包んであったので、ユキは中身が気になっていたのだろう。

「今日はフライだ」

「こっちはおにぎりだな」

 風呂敷を広げるとエビ、白身魚、アジ、イワシ、カキ、ホタテ、イカリングなどがきつね色に揚がっていて食欲をそそる。

「お好みでこっちのソースをつけて食べてみてくれ」

 俺は味が混じらないように皿を2枚出してもらった。ユキはまずエビをタルタルで頬張った。

「うん。歯ごたえは変わらぬが、天麩羅とは違って濃厚な味だな」

「うん。魚もサクサク感が段違いだな」

「おっ、これは初めて食べるがクリーミーな味が癖になるな」

 俺は仕事の時と食べる時のボキャブラリの差はなんなんだと思いつつ、素材の名前を教えた。

「それはカキだ。生も美味いぞ」

「生も食べてみたいぞ」

「今度な」

 おにぎりは食べてみないと中身が分からない。ユキは梅干しのおにぎりの不意打ちにウッとなったが、酸っぱさにも慣れて口直しにいいなどと口にしながら、「次はソースで食べてみようっと」と言って次の10人前を異次元空間から取り出した。

 100人前などユキにとっては朝飯前である。昼食は1時間かからずに終了した。

「よし、あと20km頑張るぞ」

「どんどん、ジュバーッって吸って、ドドドって入れて、シュパーッってやるわね」

 2時間ほど単純作業を繰り返していたユキが、『ハリー』から降りた。ユキは砂漠に手を添えて険しい表情をした。


 ユキは暫くして悄然として俺に言った。

「ごめんね丈二。ここ油田の端っこ何だけど、中心地は東じゃなくてここから北に5kmくらいみたい」

「そうかあ、ここから急に曲がるのも不自然だから、あと東に2km街道を足してから北上しよう」

「怒らないの」

 俺は、東寺重工で実験台にされていたときは虐待されていたのだろうなと推察した。

「怒るわけがないだろう。人間だれだって失敗するものさ」

 俺は言ってからユキを人間と認定していいのかと思ったが、液体生命体も完璧ではないことに逆にほっとした。

「丈二、愛してる」

ユキが急に抱き着いてきたが、俺と一緒に行動を始めて初めてのミスなので不安になっていたのであろう。気の済むまでほって置いた。

「さあ、気を取り直して次行くぞ」

「うん。頑張るね」

 俺達は街道を2km延長した後、北に道を5km作って油田の中心地に到着した。

「遺跡ってどんな建物なの」

「別に石を積むだけでもいい。3m位の高さで幅5m位の四角い石を少し離して並べて、その上に10m位の長さの石を乗せればそれらしくなるさ」

「そんなんでいいんだ」

 ユキは異次元空間からそれに近い大きさの石を取り出し、砂漠の砂の上に無造作にドスドスっと2つ置いて、その上にガシッと長い石を乗せた。

『うーん。これだけじゃ何か寂しいな。ユキ、直系1mで長さ5m大理石の切り口がギザギザの柱をこの石の周りに、突き刺すことは可能か』

『大理石ね。こんな形ね、任せて』

 念話で俺のイメージを受け取ったユキが、異次元空間で大理石の柱を創造して砂漠に突き刺した。

「おお、いい感じになってきたけど、数が足りないな。全部で10本刺そう」

「OK、すぐに創るね」

 どこから運んで来たのか謎の岩、綺麗な円柱の折れた大理石の柱、なんとも不思議な古代の遺跡の完成であった。


 陽がだいぶ戸覇威山脈に近寄ってきたが、まだ今日中にやってしまいたい事があった。

「ユキ、ここの油田はどれくらいの規模だ」

「この偽遺跡を中心に3キロ四方かしら」

 土地自体は10k㎡購入してあるので全域カバーできるが思っていた以上に大きい。

「量も海のやつの軽く2倍はあるわ」

「そんなにか」

 海底油田はプラントに煙突が1本しかなかったが、これだけ広い土地があるのなら4本煙突を建てることにした。

「よし、偽遺跡から北に2kmの所に500m感覚で採掘ポイントを4つ作るぞ」

 俺は『ハリー』が砂まみれになるのを承知で、砂漠をさらに北に進んだ。『ハリー』の距離カウンターが2kmを示したところで砂丘の尾根に停めた。

「ユキ、海底プラントのパイプの口径を覚えているか」

「大丈夫だ。正確にメモリーしてあるぞ」

 ユキの記憶機能は大したものだといつもながら感心する。

『砂の中を30m掘削して大理石でコーティング、最後に玉葱みたいなオブジェを乗せて欲しい』

 俺は工程と飾り物のイメージをまた念話で送った。

『了解、終わったら当然、ご褒美はいただけるんでしょうね』

「わかったよ」

 俺が快諾した。

 4本の採掘ポイントは『ハリー』での移動とユキの作業合わせて1時間ほどで完了し、偽遺跡に戻って来た時は、陽は戸覇威山脈に半分顔を隠し、砂漠の東から闇が迫っていた。

「約束よ。夕闇の古代遺跡で愛し合うなんて、ちょっとロマンチックじゃない」

「そうだな」

星が俺とユキは空に星が煌めく砂漠のど真ん中で愛し合った。

街道を作ったので帰りは早い。1時間もかからずトンネルを抜け、光矢市の街明かりを目にすることができた。帰って来たと安堵の思いが伝わったのかユキが念話で話しかけて来た。

『丈二、二人目出来たみたい』

『早く会いたいな』

 ユキはいつでも生める状態らしいが生まれた直後の子供の成長を考えると、あと3年は待たなくてはならない出生届はすでに出してあり、辻褄を合わせられるようにはしてある。3年は中々に長いが、やるべきことの多さが気を紛らわしてくれるだろう。

『ごめんね』

『いいんだ。愛してるよユキ』

『うん、愛している丈二』

 俺は、ユキと一緒にこの世界で生きるんだという思いを強くした。


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