球団買収
ネーミングセンスが無いので、ちょっと古いかなと思われるかもしれません。
高野1193年10月30日
帝国の新聞、TVのスポーツ面を光矢石油のプロ野球買収記事が報道され世間を騒がせた。
帝国ではアメリゴ合衆国から渡来した野球と、中央大陸から渡来したサッカーが二大人気スポーツでプロリーグがある。
プロ野球は12球団がセントラルリーグとオーシャンリーグの二つに分かれ、両リーグの優勝チームが帝国シリーズで帝国一を決める形式で運営されている。今年の帝国シリーズは東都エンペラーズの6連覇で幕を閉じてシーズンオフに入っていた。
12球団は以下の通りである。
セントラルリーグ6球団
東都エンペラーズ(皇国石油、皇国新聞、東寺重工がメインスポンサー・本島)
荒比谷アラビアンナイツ(荒比谷王族、荒比谷の企業がメインスポンサー・西島)
金川ホワイトソックス(前栄田一族、金川の企業がメインスポンサー・本島)
籠島レッドソックス(縞津一族、籠縞の企業がメインスポンサー・本島)
大堺タイガース(大堺市の企業がメインスポンサー、関西人に人気・本島)
東都ウッドペッカーズ(東都の企業がメインスポンサー、関東人に人気・本島)
旧支配階級系の財閥がメインスポンサーになっている球団に、本島の統一の過程で同じ大和民族ながら関所山脈を挟んで東西で気質や方言が違うため、関西(本島西部)人と関東(本島東部)人と呼び合って庶民的対抗心から集客している6球団で、アラビアンナイツ以外は本島に本拠地を置いている。
オーシャンリーグ6球団
北都バイキングス(北島の企業がメインスポンサー・北島)
南都パイレーツ(南島の企業がメインスポンサー・南島)
西都マリナーズ(西島の企業がメインスポンサー・西島)
旧都テンプルズ(神言寺院、旧都の企業がメインスポンサー・本島)
藤浜バトルシップス(藤浜の企業がメインスポンサー・本島)
舞網オリエンタルランズ(舞浜リゾートがメインスポンサー・西島)
海を越え各島の島都に拠点を置く3球団と宗教マネーをバックにしたテンプルズ、帝国第二の都市藤浜の経済力、帝国随一の集客数を誇る舞浜リゾートをバックにした6球団で構成されている。
この12球団の中で、光矢石油が買収したのは西都マリナーズである。オーシャンリーグの6球団の中で北島と南島の島都の球団は島に1球団しかないので集客に事欠かない。本島の2球団もスポンサーがしっかりしている。加えて西島は東西に分断されていて、セントラルリーグを含めて3球団もある。必然的に西島西部海岸で集客を争う事になるがオリエンタルランズと比べ特色が無く、マリナーズは集客力も弱く万年最下位の赤字球団であった。
高野1193年11月1日
俺は新球団の本拠地を光矢マリンスタジアムにすると発表した。西都での活動を資本援助するのだと思っていたマスコミの反応は大きかった。球団が本拠地を移動するのは初めてのことだからである。
「しかし、何でプロ野球球団など買収したのですか」
「何もないところから始まったこの町には顔となるランドマークが必要だ。サッカースタジアムが完成したらTリーグにも参加する予定だ。最初はT3からになるが3年でT1まで上がりたい」
「プロチームを維持できるほど観客が集まりますでしょうか」
「やり方次第だろう」
俺から見れば野球もサッカーも企業努力もなく、地球で言えば昭和のようなファン任せで碌な営業戦略もない経営状態だ。新興の利を生かしてこれから町を作り上げていく市民達とおらが町のチームを育てていけばいい。
光矢市の開発を始めて幹線道路の建設や鉄道施設の準備、軍事施設とオフィス街、商業施設の区割り、住宅地の整地など100万人規模の都市整備ほぼ完了した。人の住まわない土地だったので、思うままに綱張りすることができた。上物を建てる前に上水道・下水道の整備もしっかり大なった。
市役所は本来は帝国の施設なのだが、面倒なので俺の方で区割りしたところに建設して、社員に住民台帳を管理させ、企業なのに行政サービスをしている。社員からは人口20万人を超えたと聞いているが、空港が無く西都とも距離があるので住み着いている工事事業者を除くと実質10万人ほどか。
「過剰と思われる都市開発ですが、破綻しないでしょうか」
都市計画を指示通りに推し進めてきた紗波璃の心配は当然だろう。町の中心部に建設中の地上60階の本社ビルの建設現場から辺りを見渡すと、碁盤の目のように張り巡らされた道路が海岸線から戸覇威山脈の裾野まで20km、放射線状に広がっている。南は畑や牧草地を挟んで西崎市と隣接している。
西崎市も光矢市の開発に影響され、人口が5万人と増加の一歩をたどっている。将来的には光矢市の台所となってもらうべく、漁だけでなく魚の加工やこの世界に無かった養殖の技術も資金を援助して1年前から初めてもらっている。
「大丈夫だ。必ず人は集まる。いや集めてみせる。資金は石油がなくなるまで問題ない」
俺は自分に言い聞かせるように言葉にした。
翌日、早速にスタジアムの取材に来たTVや新聞雑誌の記者たちは、スタジアムが建つマリンパークには市民の憩いの場として造成した広い芝が広がり、三千台収容の立体駐車場、舞浜リゾートには及ばないものの大人も楽しめるアトラクションに大観覧車などが付設されていることに度肝を抜かれた。
なによりも驚いたのは近代的な全天候型のドーム球場である。プロ野球の球場は築数十年が経過したスタジアムがほとんどで、蔦が絡まっているのを伝統や歴史の証と思っている節もある。
TVスタッフは光矢市のネタ集めをして、他局と違った切り口の映像で視聴者を引き付けようと、無料で帝国全土に放送してくれた。
「光矢市から中継です。球場も凄いですが、光矢市では税率は3%のまま、税率が上がっても光矢石油が差額を納入してくれるということです。そしてなんと、中学生以下のお子さんは医療費無料、当然出産費用も無料との事です。驚きの福利厚生です。また移住をお考えの方は3か月家賃無料の市営住宅も用意されているとのことです。詳しくは市のホームページを」
「光矢市から中継です。光矢市長の長谷川民雄市長によりますと、光矢市では、来年4月から採用の市役所職員、警察官、消防官などの新規採用は新卒問わずということです。公務員住宅は3LDKで家賃2万8千円ということですので驚きです。詳細は光矢市のホームページをご覧ください」
俺はとりあえず市長がないとまずいだろうと、西崎漁港の漁労長を名前だけ借りて市長に据えて実務は光矢石油の社員が代行している状態である。
「光矢市から中継です。これが、光矢石油の誇る石油コンビナートです。そしてあの沖合に見える海上プラントの下の海底に荒比谷油田に匹敵するという油田が眠っているということです。中韓大国やモスコー共和国の旗を掲げた大型タンカーが何隻も給油を待って停泊している姿が見えます。この利益がすべて地元に投資されるのですから、光矢市が益々発展するのは間違いないと思われます」
TVや新聞が石油王とう名前が先行している俺の会社や町の事を、タダで宣伝してくれるのだからありがたい事この上ない。
翌日から市役所には連日問い合わせが殺到し、時間外まで対応することになった。
新生光矢マリーンズは、セントラルとオーシャン両リーグで監督経験のある名伯楽である大村勝也を監督に迎えて、コーチィングスタッフを編成して来年春のリーグ開幕を迎えることになった。
ドラフト会議ではチームの司令塔となる捕手を、自身も捕手であった大村監督も眼鏡に叶うドラフト1位に、他は投手に重視してスカウトしてもらう事にした。
「大堺大学、新田敦也、光矢マリーンズ」
「よっしゃ」
球界では無名と言っていい捕手を単独1位で指名した大村監督がガッツポーズを決め、したり顔でテーブルに戻って来た。
「そんなにいい選手なんですか」
「オーナー、捕手ってやつは頭が良くなかあきません。そして捕手が投手を育てる。まあ、結果が出るまで2、3年かかりますけど、見たってください」
俺が買ったのは万年最下位のお荷物球団だ、1年で劇的に変化するとは思っていない。
「藤浜高校、中津臣吾、光矢マリーンズ」
この選手も単独指名だった。
「監督、有名選手を競合して狙わないんですか」
「オーナー、うちらマリーンズでっせ。複数の球団から指名があった選手を抽選で当てて来てくれると思いまっか。大学や社会人に逃げられて終わりや。うちからしか指名されてないってところが味噌なんや」
そう言われれば納得である。俺は大村監督からは学ぶことが多そうだと感じた。大村監督はその後も単独指名で高卒の田中一郎、宮藤公康、菅原寛己、佐々木和弘の四投手、大卒の遊撃手中村謙二郎の交渉権を得た。
ドラフト会議が終わって会場を後にしようとした俺に、大村監督が出前を注文するような調子で言った。
「オーナー、アメリゴ合衆国のメジャーリーグからバッティング重視で、二人頼むわ」
「右左の希望は」
「使えればどっちでもええわ」
「わかりました」
俺は大村監督に確約し、アンソニーに電話を掛けた。
アンソニーは着信相手の表示を見て何事かと緊張した。社長から直接電話がかかってくるなど初めてのことである。
「急で悪いのだが、アンソニーにお願いがある」
「何でしょうか」
内容が分からないものは社長であっても簡単に請け負えない。
「メジャーリーグに詳しい知り合いがいたら、うちの球団にバッティングセンスがいい選手を雇いたいので、4,5人ピックアップしてもらいたいんだが」
アンソニーは全く考えていなかった角度からの要望にびっくりしたが、頼ってくれたことが嬉しかった。
「分かりました。帝国に呼ぶのならメジャーより、その下の3Aがいいと思いますが」
「そうなのか、アンソニーに任せるよ」
「わかりました。母国の知り合いに連絡を取ってみます」
「助かる。頼んだよ」
アンソニーはエージェントの情報網を駆使して、次の日には5人の3Aの選手をピックアップした。
翌日、アンソニーが社長に選手のデータを入手したと連絡した。
「随分早かったな。申し訳ないが、光矢マリンスタジアム近くにある球団事務所に10時頃に届けてもらっていいか」
「大丈夫です」
アンソニーが球団事務所の扉を開けると、受付嬢が出て来て「こちらです」と先に立って案内してくれた。部屋に入ると社長と大村監督が立って待っていた。
「まあ、そこに座ってくれ」
「失礼します」
アンソニーは社長に声を掛けられ、小さなテーブルを挟んで大村監督の正面に座った。
「早速、見せてもらいましょうか」
アンソニーは封筒から、ファイリングされた資料を5つ取り出して並べた。
「この二人は年が行き過ぎとるな」
大村監督は早々に二人の選手を弾き、残りの選手の資料に真剣に見入った。
「よく、1日でここまでのデータ手に入れはったな。兄さんいい仕事するやないか」
「で、監督どの選手にします」
「全員や。試合に仕えるのは二人やけど、人間やから調子の良し悪しはある。そん時のスペアも確保しときたいねん」
「わかりました。この3名との交渉を始めます」
「アンソニー引き続き頼む」
「兄さん。ありがとな」
アンソニーにとっては大したことではなかったが、妙な達成感があった。アンソニーはもしかして今までの仕事で人から感謝されたことなどあったかなと回想した。
誤字脱字の指摘。登場人物や地名の整合性がおかしい所がありましたら、御指摘お願いします。




