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何でこうなった

1人称で作ってみました。

 何でこうなった。

今までの曼荼羅は大した議論もなく、『例年通りに』という魔法の呪文でなんの紛糾もなく会議が進んでいた。俺は内閣総理大臣鈴木晋太郎である。俺は、これまでうまく調整をはかり曼荼羅を運営してきたつもりだが、天海様から代が変わって全てがおかしくなった。

 空海様はその原因のほぼすべてが自分にある事を分かっていない。

「陛下、我が帝国は財政面で未曾有の危機を迎えております」

 財務大臣の金田銀蔵は、視線が宙を彷徨っている空海に訴えた。

「財政危機なら西崎の光矢石油を差し押さえてしまえば済むことではないか」

 空海様は抜本的な問題に目を向けず、懲りずに短絡的な解決をするしか能がないのか。

「陛下、帝国内だけでなく、もっと世論や社会情勢に目を向けてください。光矢石油に軍を動かしたら、中韓大国との戦争に発展してもおかしくありません」

 外務大臣の西野渉が釘を刺した。

「我が帝国が何故に中韓大国との戦争を恐れねばならぬ」

 世界の石油を支配していたかつての帝国であれば、陸海空軍の燃料である石油の輸出をストップさせ、機能不全に陥れることができた。だが、今は中韓大国籍の企業と言っていい光矢石油の存在がある。開戦前にいくらでも備蓄することができる。

 空海様かつての栄光の上に立ち、現実を認めない。反省すると言うことを知らないのか。

「陛下、先の東都ホテル事件以来、国民は国の治安力が低下したのでは危惧しております。テロにあったホテルに国が素早く支援を行なわなかったのに対し、その日の内に支援を申し出た光矢石油の林社長は今や皇室に次ぐ国民的カリスマになっております」

 内務大臣の蓮池慎一郎は空海の機嫌を損ねるのを覚悟して苦言した。

 テロの実行もホテルへの補償もすべて空海が判断したことである。それにも拘わらず空海は自分の非を振り返ることなく激高している。

「余の命に逆らったあんな男が国民の人気者だと。ふざけるにもほどがある」

 命に逆らったという一言がどうにも耳に残った法務大臣の誓井尾守が質問した。

「いかなる命に逆らったのでございましょう」

「皇国石油との会談の折、恐れ多くも余も同席して原油の輸出を25%までなら許してつかわすと言うのを断ったのじゃ」

 空海様のしたことを知って親族の科学大臣東寺秀樹さえ頭を抱えている。そもそもTW666XYZを見つけてしまったことが、災いの始まりだった。空海様は小さいころから勝気で、大きくなったら世界の王になるんだと言って、澄んだ輝く目をしていたが子供のまま大人になってしまった。東寺は科学者として自分もTW666XYZのポテンシャルに魅了され、甥っ子の野望を膨らませてしまった責任は取らなくてはなるまいと思っているのだろう。

 曼荼羅を覆った長い沈黙を経済産業大臣の中富経良が破った。

「陛下、輸出制限25%を民営の企業が、はいそうですかと従うと思っていらしたのですか」

「あたりまえだ。余の命令だぞ」

まともな判断が出来ぬなら、大人しくして欲しいものだと思ったが、誰も口にすることができない。皆は頑張ってくれていたが所詮、馬鹿には通じなかったようだ。

閣僚達は、東都ホテル事件は空海の命で東密が起こしたものだと推察した。歴代の皇帝は帝国の国力を熟知して、戦時以外は自らの意志で動くことはなく、チップによる生命剥奪権を持ってはいたものの象徴として鎮座していただけなのに。

俺達はチップ制を導入して初めて、暴君を頂いてしまったことに暗鬱になった。


何でこうなった。

光矢石油の社員となった李豪炎は、教官の罵声を浴びて走っていた。

光矢市に入るとタイミング良く光矢石油が社員を募集しているというのでエントリーしたところ、オフィス勤務ではなく傭兵だったとは。光矢石油が帝国に対して危機感をもったのは当然だが何というタイミングだろう。

しかも、傍らに目をやるとアメリゴ合衆国のエージェントのアンソニー・ウッドも必死の形相で走っている。

一通りの基礎訓練を終えて休息を取っていると、荒比谷人の教官が近づいて来た。

「そこの二人、基礎体力だけで見れば合格だ。俺はこの試験を任されている荒仁だ」

「李豪炎です」

「アンソニー・ウッドです」

 荒仁が右手を差し出して来たので、自らも名乗って握手を交わした。

「午後の射撃訓練も期待しているぞ」

 これでも国では一流のエージェントなんだがと、相手を見て苦笑いした。

「まさか、こんなところで一緒になるなんて思いもしなかったよ」

「こっちもだ」

 アンソニーが両手を広げて嘆息するのに、俺は軽く合わせた。

 午後は射撃訓練だけでなく、中韓大国製の戦車四式広東の運転の試験もあった。

 俺は自国製の戦車なので運転操作することができたが、アンソニーも運転操作して見せた。さすがにアメリゴ合衆国の腕利きエージェントだけあると思った。

 だが、それより驚いたのは荒比谷人の慈仁居という教官の模範演技だ。あれほど完璧に四式広東を運転操作してみせたのは初めてだ。周紅玉に潜入を命じられた時に面白くなると言われたが、確かに新たな発見があり楽しんでいる自分がいる。

 すべての試験が終わりいよいよ合格発表となった。すると真っ先にアンソニーと俺の名前が呼ばれた。

「アンソニー・ウッド。甲種合格だ、おめでとう」

「李豪炎。甲種合格だ、おめでとう」

 どうやら甲種合格したのは俺達だけのようだが、それが何なのか戸惑っていると、荒仁が説明してくれた。

「二人には中隊長として、4個小隊を指揮してもらう。続いて小隊を指揮してもらう乙種合格者の発表を行う」

 結局、小隊長となる乙種合格者8名、兵卒となる丙種合格者240名(小隊は15名編成)が発表され、兵站医療で採用された兵員合わせて約300名の光矢軍と呼んでもいい、私設傭兵団が誕生した。

 帝国の中の軍隊であるのに外国人が中隊長に指名されるとは大抜擢といえよう。この企業のトップである林胡南が人種にこだわらない人物である証である。 俺は、身を持ってそれを知ることができただけでも良しとすることにした。

「なんでこうなったって感じだけど、よろしくな」

「ああ、あと乙種合格になった大和人、あれ東密の一宮光悦だろ」

 俺はアンソニーと握手を交わして情報を提供した。

「そうなのか、面白くなりそうだな」

「まあな、それに俺達はいい上官に当たったようだ」

 二人を見出してくれた荒仁に俺は一目置くことにした。


 なんでこうなった。

 俺は兵を叱咤して、戸覇威山脈で工作訓練をしている。1年前に中隊長に採用されたのがなんと大国の腕利きエージェントである李豪炎とアンソニー・ウッドなのを見て仰天するとともに、やっかいなことになったと思ったものだ。

 何度か追加募集を繰り返し光矢軍は4大隊、1000人規模の集団になった。何回かの再編成が行われた結果、今は俺も中隊長になった。主に索敵、工作、後方支援が任務の部隊だ。光矢軍の構成は東密に連絡を入れてあるが以下の通りだ。

 

 部隊長     荒仁(荒比谷人)

 副隊長    慈仁居(荒比谷人)

 第一大隊長  アンソニー・ウッド(アメリゴ合衆国人)

 第二大隊長  李豪炎(中韓人)

 第三大隊長  阿武羽(あぶう)(荒比谷人)

 第四大隊長  一宮光悦(大和人)


 帝国内で警備活動をするのに大和人の比率が低いが、荒比谷人を多用しているのは社長と荒比谷に何かパイプがあるのだろうか。

 しかし、大国のエージェントを大隊長に据えてしまうとは豪腹だが、東都で命を狙った相手を平気で大隊長に抜擢したのも、知らないのだろうが度胸があるものだ。

 訓練が終わると軍本部で幕僚会議だ。俺は訓練を中止して撤収を始めた。

 幕僚会議で話題になるのは、大規模な実弾練習ができる演習場の確保だ。石油関連を扱っている光矢市近郊は万が一の事を考えると難しい。

 荒仁部隊長が社長に掛け合ったところ、西都に出張に行ったときに買い付けると確約してくれたらしい。報告を聞く限り、各大隊とも練度が上がってきているようだ。

操作練習用の戦車や装甲車、対空車両などはすべて中韓大国から購入しているが、練習用なので台数は少ない。それでも1企業がコンビナート警備のために集めたにしては過剰兵力だ。

「どうした光悦。幕僚会議は終わったんだ『ブルーラグーン』で一杯やっていこうぜ」

 アンソニーが気さくに誘ってくる。互いにエージェントだった過去?はバレている。

「モスコー人のかわいい娘が入ったらしいぞ」

 李豪炎の情報の入手の速さはさすがだ。

「そうだな。荒比谷人の幕僚はアルコール飲まないからな」

 俺達がこんな風に一緒のテーブルで酒を飲みかわす日がくるなんて考えたこともなかった。

 俺達はタクシーで『ブルーラグーン』に乗り付けた。5,6人が座れるボックスシートに女の子が付くシステムで、社長が軍関係者の慰労の為に作ってくれた店で明瞭会計だ。

 カクテルを何杯か飲んでほろ酔いになって来たところで、アンソニーが真剣な顔をしてとんでもない質問をしてきた。

「もし、社長が帝国と事を構えるって言ったら、お前はどうする」

「えっ」

 俺が言葉に詰まっていると、李豪炎が言った。

「俺達は戦ってもいいと思っている」

「まあ、大和人のお前は難しいか」

 アンソニーは答えを求めなかったが、俺は正直迷っている。

 光矢石油が惜しみなく金をつぎ込んで造営している光矢市の都市環境は素晴らしい。処遇にも満足している。

 しかし、決定的に違うのはトップだ。短慮で傲慢で世間知らずの空海と、年の割に冷静で知識豊かで気配りができる社長。兵力では帝国が圧倒していのるだが、空海が勝つ絵が見えてこないのだ。

 人を騙し探り合い、得た情報をもとに暗躍する世界に生きて来たのは、李もアンソニーも変わりはないはずだ。

 そんな3人がこうやって腹を割って本音を話せる奇跡の場所を用意してくれた社長に、俺もついて行きたくなってしまっているなんて。



 


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