東都脱出
キャラの名前考えるのが苦手なので、そこに時間がかかってしまいます。
林胡南が出て行ったドアを凄まじい怒気を発して見つめていた空海は、ふっと一息ついてから油川に命じた。
「東密の大仏に連絡を入れろ」
それは交渉が決裂したときに、東都で光矢石油一行を誅殺するという意味であった。
「本気ですか」
油川は曲がりにも組織の長である。トップが急逝したとしても、会社が簡単に瓦解するとは思えなかった。
「出来星の新興企業など先頭に立って引っ張て来た経営者を失えば終わりだ。急な成長を妬まれてテロの標的に出もなったとすればいい」
空海は他国籍の企業のトップの殺害を、帝国の弱体化を狙った東寺重工の爆破事故と同じテロ組織の仕業であると公表するつもりであった。
「もし、逃げられた時はどうするのですか」
外部から見れば急な成長に最も影響を受けているのは皇国石油なのは公然のことであり、油川としては失敗した場合に関与を疑われるのは困る。空海の言い分をはいそうですかとは受け入れ難い。
「心配することはない。丸腰の民間人風情が東密から逃げられる訳がない」
確かに飛行機で移動してきたからには武器を持ってきてはいないだろが、油川は一国の元首を前にしても堂々と渡り合った林に畏怖を感じていた。
いったんホテルに戻った俺は、リビングに皆を集めて今後の動きを確認した。
「ホテルにはもう一泊するとさっき伝えておいた」
「当然、東密なる秘密組織にも明日の朝まで、ここに居ると伝わるでしょうな」
俺の言葉に荒仁が反応した。
「ヘリは」
俺の問いに慈仁居が報告した。
「軍事仕様の物は手に入りませんでしたが、救急用の中型ヘリを手に入れました」
購入した後に、試運転を兼ねて慈仁居が飛ばして人気のない所に着陸し、ユキの異次元空間にしまって、代わりに『ハリー』を取り出してホテルの近くまで戻って、公園の茂みで収納したようであった。
「久しぶりに『ハリー』に乗って、社長と二人で旅していた頃を思い出したわ」
「へえ、社長にそんな時代があったんですか」
阿不打比が些細な事に驚いていたが、俺はこれからの作戦のためにユキの秘密を話すことにした。
俺はユキと出会うきっかけとなった記者から受け取ったSDカードを部屋の備え付けのパソコンで再生した。
そこには空海が皇帝に即位したあとに、TW666XYZを使って自分に反抗的な政治家や各国の要人を暗殺して、恐怖政治で世界に君臨する計画がデータ化されていた。
「何てことを考えやがるんだ」
大和人にあまりよい感情を持っていない荒比谷人の慈仁居が吐き捨てるように言った。
「そして、その野望を阻止したのが社長というわけですな」
阿不打比が感慨深く言った後に、俺に出自について質問してきた。
当然だろう。これから命を懸けて難局に臨む仲間に隠し事はしたくない。
「俺は異世界からやってきた。中韓人ではない。たぶん、この星では大和人と同じ血が、それも皇室と同じ血が流れている。だからTW666XYZが反応した。俺の本当の名前は光矢丈二という。そして妻の名は林蓮華ではなくユキだ」
俺の告白を聞いた三人は目を丸くして固まったが、驚きが収まると腹を抱えて笑い出した。
「だから、会社の名前が光矢だったのか」
「長く生きていると、面白いこともあるものだ」
「専務の大食いと異次元空間のことやっと腑に落ちました」
笑いが収まった荒仁、阿不打比、慈仁居は三者三様の反応をしたが、現実として受け入れてくれた。
「これからもよろしく頼む」
「何を水臭いこと言っているんですか、いっそ高野帝国をぶっ潰すくらいの覚悟でいきましょうよ」
荒仁が過激な事を口走った。
「まあ、そんな大層な事は考えていないが、とりあえず皆で西島に戻るぞ」
「丈二、お腹が減った」
「ユキはこんな時でも変わらないな」
正体を明かした二人は中韓人の林夫妻ではなく、いつもの呼び名で会話をした。
「そうですな」
阿不打比が賛成の声を上げたので、皆を引き連れてホテルに入っている天麩羅店に入った。俺はせっかく東都まできたのだから、荒比谷では食べられないものを御馳走しようと思ったからである。
東都では珍しい荒比谷人は注目の視線を浴びたが、何人かはそれを引き連れているのが光矢石油の林胡南だと気が付いたようであった。
「ようこそ、当店においでくださいました」
店の支配人は時の人の来店に興奮を隠せないようで、ちょっと息が荒い。
「個室で頼む」
「5人様、個室で」
畳敷きの10帖の部屋であったが荒比谷人も床に座って食べる文化もあるから大丈夫かと、座布団威に腰を下ろした俺は、上天麩羅を15人前注文して、ナイフとフォークもお願いた。接客に来た仲居さんは一瞬目を丸くしたが、茶を配って下がって行った。
初めて見る緑茶に戸惑っている荒比谷人達に、俺がアルコールではないことを伝えると口に運び、こういう味なのかと頷きあった。
「天麩羅は久しぶりだな」
帝国本島以外では専門店がないのでユキは嬉しそうだ。
荒比谷人達はしばらくして、皿に盛られてテーブルに運ばれてきた初めて見る料理に興味深々である。
仲居さんが「ごゆっくりどうぞ」言って部屋から下がったところで、11人分をユキに与えた。ユキは食べ方に困惑している三人にお構いなく、天つゆと塩をお好みでぱくついた。
三人はユキの食べ方を見様見真似で天麩羅をナイフで切って一口大にしたり、そのままフォークに刺して口に運んだ。
「初めて口にしましたが、美味しいですな」
阿不打比は味にコメントしたが、荒仁と慈仁居は無言で食べる事に集中していた。ユキはあっと言う間に11人前を平らげた。俺は皿を各自三人前積み上げて仲居さんを呼んだ。
「上天丼を5つと、スプーンを3つ頼む」
俺は偉丈夫の荒仁達には少し足りないだろうと思って注文したが、ユキは1つしか食べられないこと不満そうな顔をしている。仲居さんは荒比谷の人達は大食いなんなだという驚きの顔を隠せていなかった。
荒比谷三人組は天丼も初めて食べる、つゆの染みたご飯に全員が舌鼓を打っていた。
店の支配人は財界の有名人がまがい無き上客であったことに、腰を大きく曲げて俺達を見送ってくれた。
東密長官の大仏四郎は、東都部隊長の一宮光悦から最終報告を受けていた。
「市内で武器を購入した形跡はありません。だた、ヘリコプターを1機購入したようですがどこにあるかは不明です。今夜も5人揃ってスイートルームで夕食を摂るようです」
「ご苦労だった。変事の際はヘリコプターで逃げるつもりらしいが、丸腰の相手など部屋に突入して終了だ。念のためホテルの屋上にも二人配置しておけ」
大仏は指示を済ませると、空海陛下にも困ったものだとため息をついた。東都ホテルで襲撃を行うなど長期的に国の威信を失うだけだ。目先の利によりも大事なことはもっとある。
俺達は早めに夕食を取った後に、しっかり睡眠を取った。もし、襲撃してくるとしたらホテルの客が寝静まった深夜のはずだからだ。襲撃が無ければ予定通り、飛行機便で荒比谷に戻るのみだ。
俺達は午前零時になるのを待って照明が漏れないように各寝室で、全員が防弾チョッキにヘルメット、暗視ゴーグルを持ち、銃を操作できない阿不打比以外はマシンガンを手にして武装を完了すると配置についた。
午前1時、カチッと音がしてカードロックが解除される音がする。
東密のエージェントがゆっくりと中を警戒しながら入って来る。人数は4人。安全を確認すると寝室ごとに散会した。音を立てないように慎重に寝室のドアに近づいて行く。
ドアノブに手をかけようと、リビングに散会している俺達に無防備に背を向けた瞬間、各自が自分の部屋の前に立ったエージェントの足を撃ち抜いた。
俺達は手分けして、悲鳴を上げて床に転がるエージェントを素早く気絶させて無力化した。
廊下のドアで待機していた桜井は、銃声が鳴りやんだので制圧が終わったのだろうと、中を確認しようとドアに身体の正面を向けたところ、思い切り開いたドアに吹っ飛ばされた。起き上がろうとしたところを、仲間だと思っていた相手に思い切り殴られ気を失った。
東都ホテル近いビルの屋上で襲撃の様子を確認していた一宮光悦は、スイートルームに銃撃の火花を確認したが、何かおかしいと警鐘を鳴らしていた。
「屋上班、異常はないか」
「はい、ヘリコプターの羽音も気配もありません」
「アタック班、報告が遅いぞ」
光悦のコールに応答がない。
「隊長、敵襲です。ただいま交戦中、増援お願いします」
屋上部隊からのコールが届き、光悦がマイクからホテルの屋上に目を向けると、激しい銃撃戦が展開されている様子が目に入った。
「応援に向かうぞ」
光悦は左右に控える予備隊と屋上のドアに向かって駆け出した。
「制圧完了しました」
俺は荒仁から報告を受けて、東密の屋上部隊が絶命していることを確認した。ユキに異次元空間からヘリコプターを出すところを見た者を生きては返せない。
「ユキ、ヘリコプターを頼む」
「OK」
ホテルのヘリポートに突然現れたヘリの操縦席に慈仁居が乗り込み、副操縦席にユキが乗った。残りの三人が後部座席に乗り込むと、ドアを閉める時間も惜しみ慈仁居がヘリを上昇させた。
「私の暗視スコープで方向指示するから、追跡されないようにライトは付けないで」
「ラジャー」
ユキの指示に慈仁居が真面目に答える。
「10時の方向よ」
「ラジャー」
俺は二人のやり取りを眺め、異世界に来て随分と仲間が増えたものだと思っ
誤字脱字等の御指摘。感想コメントがありましたら、よろしくお願いします。




