履歴工作
復讐劇を終えてからどうするか、プロット作るのに時間がかかってしまいました。
これからは週間で頑張っていきます。
荒比谷の襲撃から三日後、俺とユキは中韓大国の首都東京にむかっていた。中韓大国の戸籍データにハッキングして高野帝国で使っていた偽のチップを本物にするためだ。
中央大海の中韓大国近海でチャイコリア海呼ばれる海域ある港湾都市である東京は、貿易都市であるとともに首都として、アメリゴ合衆国のニューオークと並ぶ世界屈指の大都会である。
間もなく着陸を開始しますとういうアナウンスが流れ、東京の街並みが近づいてきた。
中韓航空の飛行機の窓から見える東京の中心部は近代的なビルが立ち並んでいるが、海沿いや旧市街には中韓大国の伝統的な建築様式の赤を基調とした木造の市場や飲食店や雑多な商店が立ち並ぶ一角もあるようだ。
「大きな町だな」
「そうだな」
俺は町の規模に感動するユキに言葉少なく応えるのがやっとだった。地球の横浜に居た頃は警官として犯罪捜査に追われていて、海外旅行をしたことがなかったからだ。まさに異国の地を踏んだ俺は少々舞い上がっていた。
「何か美味しいものはあるのか」
「そうだな、この国に来たら何といっても、中華と焼き肉だろう」
「食べ放題はあるか」
「わからんな。ただ、今は金があるし、いろんな店を食べ歩くのがいいだろう」
中央大海の西寄りに浮かぶ高野帝国は、アメリゴ合衆国に飛行機でフライトするには葉輪伊を経由しなければならなかったが、中韓大国へは直接フライトすることができた。それゆえに高野帝国はアメリゴ合衆国よりも中韓大国の文化の影響を受けている。
高野帝国にも中韓大国の料理は入って来てはいるが本場は大和人向けの味ではないだろうし、使っている食材も違うことだろう。
ユキが作った偽造パスポートで入国した俺達はまず旧市街からそれほど遠くないホテルに宿を取ることにした。
東京国際空港に到着したのが15時、一応国民ということになっているので30分ほどで空港を後にすることができた。チェックの厳しい国際線でも、ユキは金属探知機に引っかかることが無かった。
俺はユキが帝国の暗殺マシンとして世に放たれたら、世界は止めどないテロの脅威にさらされたことだろうと心胆を凍えさせた。
空港を出た俺は一目のない所で、ユキの異次元ボックスから『ハリー』を取り出してもらい、スロットルゆっくり開けて図書館に向かった。
図書館についた俺は過、去の新聞記事をパソコンで調べたいと申請した。ユキから多言語理解のスキルを受け取ってこの国の言葉を流暢に話せたので、実は異国人であることを全く疑わられずにパソコンのコーナーに案内された。
俺は自分が想定年齢15、16歳頃に起きた大きな事故について、過去の記事を検索した。俺もユキもその事故によって両親を失い、近しい親戚もなく孤児となったという戸籍を捏造するためだ。
「これなんかいいんじゃない」
ユキが8年程前に起きた東京湾を巡る乗員300人ほどのクルーズ船が沈没して、200人を超える死者を出した記事を見つけた。
「そうだな、これが良さそうだな」
俺は図書館の職員に礼を言って、パソコンがロビーで利用できるホテルを探した。
「ここにしよう」
俺は朝だけしかバイキングではないけどユキには納得してもらおうと思った。チェックインを済ませると開口一番にユキが言った。
「いつものように夜は食べ放題であろうな。何人分くらいまでOKなのだ」
「いや、それがこのホテル夜は食べ放題じゃないんだ」
「なんだと」
軽く怒気が含まれたユキの言葉に、俺は提案した。
「今日は食べ放題じゃなくて、食べ歩きにしないか」
「食べ歩きとは何だ」
「いつもは一つの店でがっつり食べて来たけど、いろんな店に入って食べ終わったら次の店に行くっていう食事の仕方のことをそういう」
「それも面白そうではないか」
ユキが提案にのったと見て、俺はすかさず制約をつけた。
「いろんな店回る時間がなくなるから、一つの店では二人前くらいに抑えて食べるんだぞ」
「分かった」
俺はタクシーを捕まえて、焼き肉店が集中している場所まで行ってくれと指示した。
「じゃあ、中韓街の北門でいいですね」
タクシー運転手の話によると、東京の中韓街は東西南北を貫くメインの中央大通りの両側に木造2、3階建ての赤を基調とした料理屋や菓子店、食材店や漢方薬剤店などが軒を連ね、同じように裏路地には木造1,2階建ての店が連なり、町の外郭を囲むようにお土産屋や軽食を販売する屋台が立ち並んでいる一大観光地らしい。
東西南北の門は方位の守護獣の色で染められ、東門は青龍の青、南門は朱雀の赤、西門は白虎の白、北門は玄武の黒となっているそうだ。
絢爛荘厳の黒い門の近くには観光客や地元の人でごった返していた。タクシーを降りて北門の入り口に立ったユキが感嘆の表情を浮かべて胸の前で手を握った。
「すごいな。ここにある食い物屋を全部食べ歩くのか」
さすがのユキも規模に圧倒されていた。世界各国に中韓街は数あるが、この規模の物はさすがにここにしかない。
「全部は時間的に無理だろう。今日は焼き肉屋に特化して食べよう」
「肉だけか」
「肉だけということも無いが、肉中心だな」
俺はユキに軽く声をかけて北門から中韓街に入り流行っている店を物色して、『明洞』という名前の二階建ての焼き肉店に入ることにした。
4人席の真ん中に焼き網が乗っかったテーブルグリルがあり、座席の後ろが模様の入ったガラス板でセパレートされている内装は『叙々苑』を思わせる。
向かい合わせでテーブルについた、俺とユキはアルコールドリンクを一杯頼み、サラダを除き肉とホルモンとユッケをすべて二人前頼んだ。
アルコールと一緒にユッケが来た。小鉢に刻んだ生肉と鶉の卵が入った品を見てユキが尋ねた。
「これはどうやって食べるのだ」
「小鉢の中で肉と卵を混ぜて付け合わせと一緒に食べるんだ」
「生肉も美味しいな」
嬉しそうなユキの顔を見て、この内装ならいくら食ってもバレなそうだなと思ったが、二人前と決めた事は守らねばと心を鬼にした。
「美味い、美味い。自分で焼き加減や味付けを決められるというのもよいな」
ロース、カルビ、タン、ハラミ、ヒレとユキは焼き加減や様々なタレを楽しんでいたが、ミノに入ってスピードが落ちた。
「これはどのタイミングで飲み込めばいいのだ」
「ミノは口の中で咀嚼するのはむずかしいから、ある程度柔らかくなったら飲み込んでいいよ」
ユキはミノを飲み込むと短い食レポを発した。
「食感は面白かった」
そのあとも俺とユキは焼き肉店を食べ歩いた。ほとんどの店は客席をパテーションで区切っておらず、二人前まで限定にしていて本当によかった。二人前ならちょっと食べられる女の子で済む。俺とユキは店によって肉の厚さが違うことや、ホルモンの種類が多い店など散々食べ歩いて焼き肉を満喫した。
「食べ歩きも中々いいものだな」
「そうだな」
俺は大食いチャレンジで変に注目されてしまうより、食べ歩きでユキを満足させてやるほうがいいかもしれないと思い始めていた。
北門の入り口でタクシーを待つ間に、お土産屋で売っていた中華饅頭をユキに買ってやると嬉しそうに頬張っていた。
高野1192年4月7日(木)朝
俺は、ホテルのバイキングでたっぷり食事を取ってご満悦のユキと部屋に戻った。中華料理は前世の記憶では衛生的なイメージが無く、俺は食べ放題をしたいとは思わなかったがユキの腹なら大丈夫だろう。
「チェックアウトで混み合う時間を狙って、ホテルのパソコンから東京市の戸籍データに侵入するぞ」
「OK。観光名所を検索している振りしてやってみせるわ」
俺達は9時過ぎに部屋を出てエレベーターでロビーに出ると、俺がチェックアウトを済ますためカウンターに、ユキがパソコン検索コーナーへと別れて向かった。二人がホテルで一緒に活動している姿が防犯カメラに残るのは好ましくない。
腕の一部をUSBジャックに変化させたユキは、それが周りに気が付かれないようにパソコンに接続すると楽々とセキュリティを突破した。ユキは二人の両親の居住地を東京市でも裕福な階層が暮らす上海区に設定し、賃貸マンションらしい住所を設定した。
そして次に、警察機構のデータに侵入するのにちょっと手間取ったが、クルーズ船の死亡者名簿に丈二と自分の両親の名前を追加した。
ユキはUSBを体に取り込んで、ホテルの玄関に『ハリー』を回しているであろう丈二のもとに向かった。
俺はユキと合流すると、東京大学工学部のキャンパスに向かった。
学歴を改竄するためである。戸籍と最終学歴が作れれば、高野帝国内でなりすましがバレることはまずないだろう。二人の卒業論文もユキが作成してある。
俺は大学の門番に教授を尋ねて来た卒業生だと言って、広いキャンパスの中にバイクを走らせた。広大な敷地を持つ東京大学は学食と学部を結ぶバスが走っているほどである。髪沢東池という庭園というよりも鬱蒼とした森のようだ。
俺は工学部の校舎の駐輪場に『ハリー』を停めた。目的は石油工学の権威である王銘石に会うことである。俺達は王教授の研究室をノックして、親しげに話しかけた。
「ご無沙汰しております。王教授、卒業生の林蓮華です」
ユキは腕を差し出して握手をすると、誰だという顔をしている王教授の目を見つめた。
「同じく卒業生の林胡南です」
「おお、両親を同じ事故で失って、姓が同じということもあって仲の良かった林君か」
ユキの魅了のスキルによって、幻の記憶を書き込まれた王教授が満面の笑みで迎えてくれた。あとは、ユキが架空の思い出を書き込んでいるうちに、卒論のデータを研究室のパソコンに保存して、登録日時を改竄して終了だ。
中韓大国での履歴づくりを終えた俺達は、しばし観光したあと西都に戻った。
あまりネット操作が得意でないので、章の設定に苦労しました。




