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離脱

1話に続いてお読みいただいた方、まだ暫く異世界の状況説明にお付き合いください。すいません。

 俺は気合を入れて拳を握ってメンチを切ると、女の姿をしたバケモンの目がいきなり赤く光ったのでちょっとビビったが目線は外さなかった。武闘派だと思っていたバケモンの目から、いきなり予想外の垢いレーザービームが俺の胸元に向けて照射された。


「一発も入れられないで御陀仏かよ」

 俺はいきなり若返ってバケモンに殺されるってどういう運命だよと、馬鹿からしくなって穏やかに死を受け入れて目を閉じた。

 躰に痛みも痒みもなく、一瞬で死ぬってこういうことなんだなろうなと俺は思った。だが、次の瞬間、バケモノの声が聞こえた。


「スキャン」

俺が目を開けた。生きているらしい。

バケモンは俺の躰を探るように、両目から放たれた赤い光線をあらゆる部位に照射していた。

「ライフチップ未確認」

 

 俺は死んだ男がメガネを掛けてやった行為もスキャンなのだと思った。そしてそれはライフチップなるものを確認することなのだという答えに至った。そもそもライフチップって何なんだ。


「遺伝子確認」

 バケモンはそうコールすると何故か瞬時に全裸になってずかずかと近寄って来た。姿形を自在に変える事ができることに驚いた。俺は抵抗して苦しんで死ぬよりも一息に殺してくれと、バケモンに身を委ねた。バケモンは俺を押し倒すと下着を剥ぎ取った。


「えっ、最初にそこ握りつぶすのかよ」

 俺はいたぶって殺すモードもあるのかよと、暗澹な気分になったが躰は正直であった。 バケモンは俺が会ったことのある女性の中でも3本の指に入る美しい顔立ちである上、張のある双丘と見事な腰のくびれにすらりと伸びた美脚を持つ絶世の美女だ。状況が状況だが、下半身は正直だ。

「もう、どうにでもしてくれ」

 バケモノは俺が元気になったのを確認すると馬乗りになって腰を動かし始めた。


「DNA採取」

 俺が果てたのを感じ取ったバケモノがコールした。

「種族大和人、血液AB型RHマイナス、ライフチップ無、エンペラーと認証」

 一連の行為が遺伝子検査のため子孫を残すものが必要だったことは分かったが、その結果どうなるのかを俺は全く予想できなかった。


「エンペラー、名前の認証をお願い致します。」

「エンペラー?」

 確かにエンペラーの名の上にBが付く暴走族の特攻隊長をやってはいたが、何故に異世界と思われるここでもその名に付きまとわれなければいけない。


「今の名前はなんだTW666XYZです」

 アルファベットと数字のコードナンバーは東寺重工産ウエポン・サタン最終型を意味するらしいが、長ったるいし覚えにくい。

「新しい名前はユキだ」

 俺が好きだった『ワイルド7』という漫画に出てくる唯一の女性隊員の名前を、物騒なコードナンバーを持つバケモノにつけた。今思えばバイクに乗り始めたのも、漫画の主人公である飛葉大陸のバイクアクションに憧れたのが原因だったかもしれない。


「ユーザー登録を完了いたしました」

 俺はコードナンバーがIDで命名がパスワードなんだろうと理解した。

「エンペラー、御命令を」

「エンペラーじゃなくて、丈二と呼べ」

「かしこまりました。御命令を丈二」

「まず、ライフチップがあるなら排除しろ」

「かしこまりました、チップを外します」

 ユキはそう言うと、チップのついた制御装置のようなものを体の中から取り出した。


「次の御命令を」

「逃げるぞ」

 俺の言葉にバケモノは即答した。

「了解いたしました」

 テロの現場からは素早く撤収するのが原則だ。俺は愛車のキーと貴重品を小さなザックに詰め込み、銃声を聞いてマンションの住民が通報したのであろうこの国の警察組織の車両のサイレンの音が近づく中、ユキを連れて1階に停めてあるバイクに向かった。


 この世界に飛ばされたと思われる俺の愛車があるかどうか不安だったがあった。日本でカスタマイズを含めて400万かけた1868ccのハーレーダビッドソンだ。V型エンジンを搭載、2眼のヘッドライト、フロントとリアのサスペンション、ミラー、マフラー、ハンドルまでを黒で統一し、タンデムシートを載せた見た目は同じだ。


 だが、『Harley・Davidson』のロゴは『Harison・Dempsey』となっている。HとDの頭文字が一緒なので俺は良しとすることにした。性能も変わらないだろう。俺の世界ではハリソン・デンプシーは、アメリカのプロボクサーで無敵と言われたジャック・デンプシーの本名である。俺はこの世界で暴れろという天啓を受けた気がした。

 俺はバイクに『ハーレー』ではなく、『ハリー』という名を付ける事にした。


 俺はハリーに跨ると、ユキを後ろに乗せてエンジンを掛けた。有り難いことにガソリンは満タンだ。

「しっかり俺に捕まっていろ」

「かしこまりました」

「敬語はやめろ」

「わかりました」

 俺はフルフェイスのヘルメットをユキがしっかり被ったのを見届けて、ギアをローに入れて右ハンドルのアクセルを回した。俺は車両の入って来られない狭い路地を抜けて大通りに出ると、ギアを上げアクセルを全開で離脱した。


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