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本当の16話

16話の内容より先に、17話を先に投稿してしまいました。入れ替えのやり方が分からないので、お手数ですがこちらから先に読み進んでもらえるとありがたいです。

 俺は大堺の港からフェリーで荒比谷に向かう事にした。飛行機だと『ハリー』が積めないからだ。飛行機ならば2時間半ほどだが、フェリーだと海の時化次第だが36時間以上はかかるため、船内泊することになる。一番安い二等船室は広間に雑魚寝、一等船室は4人部屋なので、俺は二人部屋の特等船室を押さえた。

「船に乗るの初めて」

 荒比谷から東都へは空輸されたというユキは興奮気味であった。

「そんなに、楽しいものではないぞ」

 陸を離れると見える景色はただただ海と空のみ。水球を一周するクルーズ船の様に、乗客を楽しませるショーやイベントがあるわけではない。

「そうかな。丈二とずっと抱き合えるんだよ」

 確かに『ハリー』で移動中はホテルでしか出来なかったが、船の部屋の中ならそれは可能だ。規格外の生命体であるユキは平気だろうが、俺はいくら若返ったからといえ躰が持つかなと思った。

「善処するよ。あと、船の食事はバイキングじゃないからな。多少のお替わりは良いが、あまり食べ過ぎるなよ」

 この世界に来て初めて、船の中という閉ざされた空間で過ごすことになって、あまり目立って人相を覚えられる事は避けたかった。

「分かった。だけど、その代わりいっぱい抱いてね」

 俺は食欲を満足できない代わりに、性欲を満足させろというユキに反論できなかった。


 4月1日、年の変わりは12月であるが、年度の変わり目が4月である神聖高野帝国で高野空海は華々しく第179代の皇帝として、迎賓館に集まったマスコミに項にチップが埋まっていないことを正午に国民に映像をもって衆知した。

 その皇帝の背後には新たにダブルOとなった高野美和子を含め、9人の皇族が横一列に並んでいる。

 空海は皇族を率いて、庶民が入ることができる皇宮外苑の広場に臨む神言閣のテラスへと向かった。神言閣は神託を授かった皇帝が、国民に内容を知らせる公的空間であり、国民の肉声を耳にすることのできる場でもあった。

 空海がテラスに現れると凄まじい歓声が上がった。

「新皇帝陛下、万歳」

「新しい時代に万歳」

「万歳、万歳、万歳」

 空海は右手を振ってそれに応えた。

 万歳三唱が収まってきたのを頃合いに、空海は両手を上げて静まるようにジェスチャーした。

「親愛なる高野帝国の民よ。我はここに平和で安全な暮らしやすく、笑顔が絶えない国を創出すると宣言しよう」

 高野帝国は豊富な石油資源によって税金は安い。社会保障制度も手厚い。現行路線を大きく転換しなければ、国家安泰である。これからも安定した生活ができると、迎賓館前に集まった国民は大歓声を上げた。

 空海は熱狂する国民の様を見下ろして、満面の笑みを浮かべた。

「兄上、即位の儀に参りましょう」

 吞海は歓喜に身を包まれている空海に声をかけた。

 前皇帝である天海が皇居から北院に移り、その後に東宮御所から空海が皇居に入る儀礼がまだ残っている。

 そして、新皇帝が皇居で最初に得た神託はその治世に大きな影響力を持つ。歴代の皇帝は即位して10日以内には神託を授かる力を得ていた。

 空海はTW666XYZを自らの奴隷と化し、水球世界で大国も恐れるほどの力を持って世界の盟主となる計画はとん挫したが、潤沢なオイルマネーで軍事国家として覇を唱える野望は捨てていなかった。

 空海は神託が武力を振るう口実になるようなものであればと願っていた。

 それから5時間後、皇居の主となった空海は皇族だけの晩餐会のテーブルについていた。50人は座れる長テーブルの端の方に座る皇族の顔を空海が認識できないほどである。

 空海は席が埋まっているのを確認し、ゆっくりと立ち上がった。

「御即位おめでとうございます」

 空海は綺麗にそろった皇族達からの祝辞を受けて片手を上げて応えた。

「ありがとう。急な継承となったが、大きな混乱もなく即位することができたのは、高野家に連なる人々の日々からの努力の賜であると感謝の念に堪えない」

 空海の言葉に侯爵である真栄田利長が真っ先に声を上げた。

「何を申される。帝国が千代の世に安泰なのも歴代の皇帝あってこそでございます」

 かつては本島で覇を争った真栄田家の当主として、一番先に恭順していることを示すのは当然でもあったが、まだ皇后が決まっていない空海に覚えめでたく、娘を嫁がせることが出来ればいう思惑もあった。

「高野家があればこそ、我等も安心して過ごせるというものにございます」

 続いて縞津家久が声を上げた。母方の東寺家との結びつきが強い空海となんとか繋がりを濃くしたいのは真栄田家だけではない。

「まあまあ、世辞はそれくらいにして、料理が冷めないうちに召し上がりましょう」

 政争の場になりそうな空気を読んで、吞海が割って入った。峻烈な空海、温厚な吞海は国民の人気を二分する皇族である。吞海が出てきては誰もが沈黙するしかない。

 空海が軽く頷いて、腰を下ろすと晩餐会がスタートして、ウエイターやウエイトレスが慌ただしく動きだした。


 ベッドでぐっすり眠っていた俺は、朝の光を感じて目覚めた。船の揺れも小さくなっていて、陸地が近づいているのを感じた俺は、胸に抱き着いているユキの腕をゆっくりとおろしてベッドを降りて、船室の窓の外の様子を覗った。

 目に入ったのは歴史を感じる石造りの城壁に囲まれた都市だった。俺はかつて地球で東アフリカを統治したスルタンの拠点で世界遺産になったザンジバルのようだなと思った。

「丈二。起きたなら、またして」

「わかったよ」

 朝から求められた俺はベッドに戻り、双丘を露わにして手を伸ばしてきたユキを抱き寄せた。

俺は『ハリー』に跨り、接岸したフェリーから西島に上陸した。まずは物価調べも兼ねて俺はガソリンスタンドに向かった。

「朝は何を食べるの」

 給油している最中にユキは早速、朝飯の事を尋ねてきた。

「バイキングはなさそうだが、さっき立ち食い蕎麦の店があったな。蕎麦はまだ食べたことないだろ」

「それどんなもの」

「拉麺みたいなものだが、麺の粉が小麦粉じゃなくて蕎麦粉でできている」

「いいわね、すぐ行きましょう」

「待て、まだ給油が終わってない」

ユキはタンクに注がれているガソリンを指差して何気なく言った。

「こんなの一回吸収したら、私が製造できるのに」

「なんだと」

 俺は思わず声を荒げてしまった。確かに銃を取り込んで作って見せたが、燃料まで生成できるとは慮外であった。

「生き物や食べ物は駄目だけど、鉱物とか液体とかは一回取り込めば作れるし、埋蔵されている場所も分かったりするわ」

 驚く俺を尻目に、ユキはこれぐらい出来て当たり前でしょと言う顔をしている。

「そうか」

 俺はまるで打ち出の小槌みたいだなと思った。無限の富を生み出す錬金術師の顔を知らなかったのだろうか。俺は、ユキを感情無き殺戮兵器に仕立てようとしていた東寺重工に呆れて物が言えず短く返した。

「かけ蕎麦なら20杯くらいは御代わりしていいぞ」

 俺はちょっと奮発してあげることにした。

「丈二、ありがとう」

 ユキは、拉麺はあまり御代わりしては駄目だと言われていたが似たようなものが20杯も食べられると聞いて飛びあがった。

 給油を終えた俺は、ユキを乗せて重厚な石造りの門を通り抜けて、町全体が石で組み上げられた荒比谷の市街地に『ハリー』を乗り入れた。

「蕎麦、美味しかったね」

 御岳屋の暖簾を潜り、店の外に出たユキははち切れそうな笑みで俺に話かけてきた。

「よかったな」

 汁まで全部飲んで20杯御代わりしたあと、俺は最後の1杯だからと告げてトッピング全部乗せにしてやった。俺は店員や店にいた客が驚くのにも、慣れて来てしまった自分が多少怖くなってきている。

 店を出た俺は本島を脱出したことで警戒を怠っていたことを後悔した。

 明らかに堅気ではない屈強な褐色の肌の男達に囲まれていたからである。素性を隠し追っ手をまいていたと思っていた俺は、荒事になるのを覚悟した。


以後、このようなチョンボが無いようにします。

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