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襲撃

中々コンスタントに更新できなくてすいません。この話が16話になっていますが、掲載の順番を間違ってしまいました。お手数ですが、先に17話、『本当の16話』の方をお読みいただければと存じます。

 元荒比谷の王族である武波(むは)馬土(まど)亜利(あり)の後ろ添えを得た俺は、屋敷から市街に戻って西都までの飛行機のチケットを購入した。フェリーの乗車券とは違うのでちょっと緊張したが、ユキの作った外国人用のチップは、偽造を見破られることはなかった。

「荒比谷の次は西都にいくのか」

「ああ、ユキがカレーの食べ放題に行きたいって言ってただろ」

「おお、TVで観たあの茶色い食べ物だな」

「あの店は西都にある」

「そうか、楽しみだな」

 俺とユキは本島とは明らかに異なる石造りの神殿を観光で訪れた。神殿までの参道には屋台が立ち並び、土産物や食べ物を売っていた。

中に入ると本島の木造の寺院には仏像のような物はなかったが、神殿には仏像のような物がいくつも安置されていて、褐色の肌をした地元の人々が両手を合わせて拝んでいた。

 本島と西島は共通語を話してはいるが、文化も民族も違うのだということを肌で感じる事が出来た。

 神殿を出た俺達は屋台を見物することにした。数珠を売っている店では、房の付いた一番大きな珠の中に神様の名前が彫られていて好きな神様を選べるようであった。子供向けの玩具を売る店や、本島ではあまり目にしなかったエキゾチック品を揃えた店が多い。

「あれはなんだ」

 ユキが鉄製の型でカステラ生地を焼いている食べ物に目を留めた。

「たぶん、人形焼きだな」

 俺は浅草寺の仲見世を思い出した。

「餡入りと餡無しのどっちがいい」

「どっちもだ」

 ユキならそう言うと思った俺は、両方を一袋ずつ購入した。人形焼きを一飲みで完食したユキは揚げ物に目を付けた。

「あれはなんだ」

「揚げ饅頭だろう。味が何種類かあるみたいだな」

「全部所望だ」

「はいはい」 

 たいして高いものではないので、俺は全種類購入した。

「どれも美味かったが、甘いものが多かったな」

 ユキは屋台の食べ物をすべて味見して、ご満悦であった。

「ホテルに戻って、準備するか」

「ああ、そうしよう」

 俺はヘルメットを被り『ハリー』に跨ると、ユキを乗せてホテルへと向かった。


 夕食はホテルのバイキングでユキが満足するまで食べてもらい、ちょっと早めに夜の町を散策してくるとホテルのカウンターに鍵を預け、俺は『ハリー』を玄関口にホテルマンに配車してもらった。

荒比谷は本島よりも暖かい、着て居る服は軽装だ。

 武器や装備はすべてユキの異次元ボックスに収納してあるので、まさかこれから襲撃に向かうとは誰も思わないだろう。

 俺は石油コンビナートとは逆の歓楽街に向かって、ホテルから『ハリー』を走らせた。アリバイ作りには念を入れた方がいい。

 人目につかないように細い路地を『ハリー』で抜けてから、俺は石油コンビナートに進路を取った。

 東寺重工の研究所は南北に10km、東西に2km、ほぼ長方形型のコンビナート施設の北の端にある。石油コンビナートでの作業の導線の中で、ある意味今や不必要な物であり中心から外れるのは仕方がない。

 俺はコンビナートの北側6km程に近づいた砂丘の陰に『ハリー』を停めて、異空間ボックスから武器と装備を出して着替えを済ませ、ユキと徒歩でコンビナートに向かった。ユキには

 昼間にコンビナートを視察した時に防犯カメラを確認したが、建物の中に有線で繋がっているタイプばかりであった。施設を破壊してレコーダーが燃えてしまえば、映像は残らないので、映像を目にした警備員を始末すれば面が割れる事は無い。

 万が一のためにユキにはTW666XYZだった時の、金髪碧眼に変身してもらい、俺はフルフェイスの黒いマスクで顔を隠した。

 俺達は堂々とコンビナートを囲む5mのフェンスに近づいた。

「じゃあ、頼む」

 ユキがフェンスに触れた場所が一瞬で異空間ボックスに送られて、人が通れるようになった。

 東寺重工の研究所の近くには砂漠の油田からパイプラインで送られてきた原油タンクが並んでいる。そこから南に精油所があり、そのまた南にガソリンや軽油、灯油などに精製されたタンクが並んでいる。

 原油から商品となったものが南口の出口に向かって立ち並び出荷を待つ導線となっているため、研究所のある場所は閑散としている。

 俺は研究所の入り口を警備している男を容赦なく撃ち殺した。

「思ったより警備が甘いな」

 荒比谷の東密のエージェントの主任が徹底抗戦を放棄したことを知らない俺は、警戒を解かずに研究所に突入した。室内の照明は落ちていた。

 俺は照明のスイッチを入れながら奥に進んだ。

「こっちだ、丈二」

 ユキは明かりがなくても、施設の中をどう進むか分かるようだ。

「ここよ」

 ユキは分厚そうな鉄の扉を蹴りつけた。ドゴンと大きな音がして目の前に現れたのは無機質なコンクリート打ち放しの通路だった。

 通路を進むと星明りがこもれて来る部屋があり、その部屋の近くの壁には無数の傷があった。

 俺はこの部屋でユキが死なない程度に太陽光を浴びせて、実験を続けていた事にユキが抵抗していた跡を見て暗い気持ちになった。

「ユキ、ちょっと聞きにくいのだが女性として酷いことはされていないか」

「いや、私の初めての男は丈二だ」

 それを聞いた俺はなんとも言えず嬉しい気持ちになった。

「そうか」

 しかし、良く考えれば研究者が得体の知れない液体生命体と性交しようと思ったりはしないだろうという考えに至った。俺とユキの馴れ初めが異常なのだ。

 俺は東寺重工の研究所に5分に設定した時限爆弾を設置し終わり、原油タンクの横に来るとユキに尋ねた。

「この原油タンクって、異空間ボックスに取り込めるか」

「はい」

 ユキが原油タンクに触れると、またも一瞬にして消えて無くなった。

「うおっ」

 俺はさすがに驚きの声を上げずにはいられなかった。

 それと同時に、貯蔵タンクを失ったパイプラインからドッと原油が流れ出した。

「ユキ、脱出するぞ」

「はい」

 俺達は石油コンビナートから『ハリー』の元に急いだ。

 東寺重工の研究所が爆発しパイプラインからとめどなく流れ落ちる原油に引火し、炎の波が揮発性の高いガソリンの貯蔵タンクに到達すると、大爆発を起こして灯油や軽油のタンクを粉砕して世界屈指の石油コンビナートは業火に包まれた。

 パイプラインからは世界の8割を誇る原油が流れ込み、炎が尽きる事は無い。  

 荒比谷の市街地からは離れた施設であったため、住民への被害は無かったが石油コンビナートは壊滅した。


 施設を破壊されると確信していた東密のエージェントの桜井は、個人的に防犯カメラ本体のSDカードに画像を記録できる機種を東寺重工の研究所お入り口見える箇所に設置していた。

 大爆発があった南と違い、脱出路でもあった北側は被害が少なく、防犯カメラ本体に映像を記録する機体はユキと俺の映像を捕らえていた。

「これがTW666XYZか、原油の貯蔵タンクを一瞬で消し去るなんてどうなっているんだ」

 桜井は絶対に敵対してはいけない相手だと、自分の判断が間違っていないことに確信を持った。


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