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突然の退位

しばらく書いてないと登場人物や設定を忘れてしまい、筆が進まないという悪循環に陥ってしまいました。

 旧都で丈二とユキが観光をしているとき、帝国には衝撃が走っていた。

「天海皇帝が神託によって明日退位するだと」

 皇室からの緊急発表にマスコミ各社は大騒ぎとなった。特にテレビは大変だ。

「特番の編集だ」

 1ヶ月後の退位に備えて、天海皇帝の功績やエピソードなどの映像を集めてはいたが、退位が明日となると今日一日で時間内に番組にしなければならない。テレビ局では怒号が飛び交った。

 高野1192年3月30日は、激動の時代の幕開けとなった。


 皇宮の御座の間に集まった空海と呑海に天海は外に洩らせない神託の中身を明かした。

「この地に悪魔が降臨した」

 その悪魔が何なのかを知っている空海は声を発しなかった。

「その悪魔とはいったいどういうものなのですか」

 空海と違い、その実態を理解できない呑海が天海に聞き返した。

「この星ではないところから来た生命体だ」

「なんと」

 呑海が驚く様子を傍目に、それをよく知っている空海は、天海がどこまで神託で情報を得ているのか沈黙をもって静観した。

「そして、我と同じくチップを内蔵しない大和の血を引いた男がその悪魔の主となった」

「それは、この国に父上の他にもう一人、皇帝が現れたということではないですか」

 呑海の叫びに、空海はやはりそうであったかと、自分が東寺重工と研究を行ってきたTW666XYZがその男の手に落ちたことを納得した。

 空海はその男がTW666XYZを手に入れて何をしようとしているのか見当がつかなかったが、天海の真意を感じ取った。

「その大和の血を引いた男を屠れなければ、高野皇室が終わると父上はお考えなのですか」

 空海の問いに天海は即答した。

「皇帝は二人いらぬ」

 天海は悪魔を使役する大和人を国の総力を持って抑えきれなければ、高野皇室によるチップによる独裁支配である帝国は滅亡すると神託を受けていた。それ故に、悪魔が降臨したならば60歳と年老いた自分よりも、若き空海にいち早く任せた方がよいと思っての行動であった。

「そんなことがあっていいのか」

 呑海は千年以上の歴史を誇る高野皇室が途絶えるなど信じられなかった。

 だが、空海は理解していた。

 世界を滅ぼすほどの力を持つTW666XYZを手にして、国を通り越してこの世界を支配しようと準備して調整していたその生物兵器を奪われたのである。

「父上、高野皇家のことは御心配なく」


 緊急退位の報道でマスコミ各社が右往左往する中、内政家だった天海と異なり、野心家である空海がどのような政策を押し出すのか、大陸諸国の情報戦も活発になった。

「アンソニーはどこまで情報を掴んでいるのだ」

「空海殿下が、東寺重工と組んで新型兵器を開発中だったことはわかっていますが」

 キャサリンの問いに、アンソニーは詳細については口を濁した。

「具体的にはどのようなものなのだ」

「藤浜の事件から考察するに、人型のロボットかアンドロイドのようなものではないかと」

「その能力は」

「現段階では素手で鉄板を変形させるパワーと硬さを持っているのは確実です、それ以外の能力については不明です」

「目撃情報がほぼ無いということは、見た目は人間と違わないということか」

人と見分けがつかない兵器が首都に送り込まれて暴走すれば甚大な被害となるだろうが、兵器の破壊力がわからないとは、キャサリンはアンソニーの報告を聞いて暗澹な気持ちとなった。キャサリンはそんなものを開発していたという空海が新しい皇帝になることに高い危機感を持った。

「アンソニーは東寺重工本社の駐車場爆発をどう見る」

「恐らくは、地下のラボが秘密兵器の研究を焦って何らかの爆発を起こしたのではと思いますが」

侵入することはできなかったが、東寺重工本社の地下には駐車場よりもっと深くに、研究ラボがあるのは分かっていた。昨日の夜は東寺重工本社の地下施設の爆発事故よって、兵器の量産に大きな支障が起きているだろうとは推察できた。


中韓大国の李と張の間でも同じような会話がなされていた。

「空海殿下は何をしたかったのだと思う」

「圧倒的な地下資源を誇る帝国ですが、大陸諸国とは距離があります。人型兵器を世界連邦でちからのある国に送り込み、帝国の利になるような煽動を起こして政治に関与するつもりだったのではないかと思います」

「ありえるな」

 張は一つ大きな疑問を李に投げかけた。

「その秘密兵器を空海から奪ったものは、当国でもアメリゴでもないとしたら、どの国のエージェントだと思う」

「皆目見当がつきませんが、先の大戦で苦渋を舐めたルシアンあたりではないでしょうか」

「北の大国が動いたか」

 世界連邦で発言権を持つ大国はアメリゴ、モスコー、中韓大国、エンドランド、フレンズの5大国だが、その中で帝国に恨み骨付いなのはルシアンであることは間違いない。

「とりあえず今は、動きを見守るしかないな」

 張は中韓大国からは積極的に活動することはないと決定した。


 モスコー共和国の大使館には思い空気が流れていた。

「アメリゴも、中韓大国も関与していないとなると、帝国から疑われるのは当国だな」

 5大国の内、エンドランドとフレンズは帝国から見ると水球の裏側にあたるほど距離がある。その他の3国は海で隔てられているとはいえ、隣国といえば隣国と言える。

「しかし、当国のエージェントも関与していません」

 ニコライの返答に諜報部長であるトルネンコはため息をついた。

「帝国のエージェントの動きはどうなっている」

「東寺重工の爆発事故の時に、緊急招集されたようですが詳細は不明です」

「確か地下に研究ラボがあり、兵器開発をしているとは耳にしていたが」

「恐らく、何らかの実験が失敗して爆発事故を起こしたのではないかと」

「あれほどの爆発事故を起こしたとなると、かなり威力のある物を開発しようとしていたようだな」

「確かに」

 トルネンコとニコライの会話は続く。

「単なる爆破事故ではなく、襲撃を受けたと考えられないか」

「まさか、どの国の腕利きのエージェントでも、東密の目を掻い潜り地下に潜入して破壊することなど出来るはずがありません」

 もし、本当にそんなことが出来たら、世界中のどの国の諜報機関でも壊滅させることができるとニコライは思った。それと同時に、ある考えに至った。

「もしかすると、空海殿下が開発しようとしていた兵器とは、諜報活動を行える人型の何かであったとしたら」

「まさかな、もしそんな物が開発されてしまったら悪夢でしかない」

 ニコライの疑問にトルネンコは大きく首を振って、やめてくれとアピールした。


 エルドランドの諜報機関であるME-6の帝国支部長官であるジェームスは、全ての情報を聞き終えて言った。

「今は静観する」

 立地的に今すぐ本国に火の粉が降りかかってくる訳ではない。ジェームスは他の大国の動きに追従しているべき時期だと判断した。


 フレンズの帝国支部の諜報長官であるフィリップは情報を分析した上で指示を出した。

「優先順位は第一にルシアン、第二にアメリゴ、第三に中韓大国、その他の国には注意を払わなくていい」

 フィリップは決定事項を告げると、3つの国のチーフを決めて、エージェントを配置した。

「世界のバランスが崩れるかもしれないな」

 フィリップは、テキパキと指令室を出て行く、エージェントの背中を見つめ呟いた。


これからは週一で投稿できるように頑張ります。

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