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旧都でのひととき

ちょっと説明が多い部分もありますが、後日の付箋ということでお読みいただければと思います。

 旧都は俺が思っていた通り、木造の歴史建造物が立ち並び、景観を損なわないように背の低いビルで企業が営業している街であった。俺は水球でも人気を誇る観光スポットだけあるなと思った。

 だが、ユキは飯より団子であった。

「丈二、この街には食べ放題の店はあるのか」

「ああ、ピザの食べ放題の店は見かけた」

「ピザとはどういう食べ物なのだ」

「そうだな、具がたくさん乗っているパンのような物かな」

「そのような物は食したことがない。楽しみだな」

「食事の前にやることがある」

俺はユキの食欲に釘を刺して、山三証券という証券会社に東都金行から資金を三千万移し口座を作った。

「東寺重工の株を可能な限り空売りしてくれ」

 帝国屈指の優良企業で一株五千円を常にキープしている会社の株を空売りするとは正気の沙汰ではないと思った証券会社の担当は、ひっくり返ったような声で聞き返した。

「本気で言っているんですか」

「それと、帝国石油の空売りも頼む」

 帝国石油は国の財政を支える油田を管理している会社で、一株が20万もする国営企業に近い巨大企業である。

「大金をドブに捨てるつもりですか」

「いや、極めて正気だが」

 証券会社の担当の男は俺の言葉に呆れた顔で言った。

「後悔しても知りませんよ」

 俺は林胡南と契約書にサインをした。ユキは林蓮華と外国人チップに登録されている。

 俺は契約を交わして証券会社を出ると、さっそくユキからリクエストが来た。

「ピザを食べに行こう」

「昼にならないと店がオープンしない」

「ええ」

「まず、ホテルに入って町を観光しよう」

「仕方がないわね」

 俺は日本にいた頃の城下町にあるような日本旅館っぽいものを見かけて、それもいいなとは思ったが、ユキの食欲を考えて朝夕バイキングのホテルを物色した。

 ユキは食べる事が優先順位第一にはなっているが、それなりに俺との旅を楽しんでいるようである。


 神言宗の総本山である北禅寺という寺を参拝した俺は、両手を上げて上半身で礼をして口にしている言葉を聞いて唖然とした。

「『ビスミラヒー、ラハマリアヒム』ってコーランの出だしじゃないか」

 てっきり仏教系なのかと思っていた俺はなんとも言えない違和感を持った。

「この国の民は亜緋という神を信じている」

 ユキの説明に俺は思わず呟いた。

「アラーじゃなくてアヒーか」

「もうお店が開く時間じゃない。ピザ行きましょう」

「はいはい」

 俺はユキと『ハリー』に乗り込んで、シェアーズという名の2時間ピザ食べ放題の店へと向かった。

 ユキは食べた。

 シェアーズには6種類ほどのトッピングがあったが、カットした物ではなく一枚丸ごとを各種10枚は食べた。特にお気に入りとなったシーフードは20枚食った。

 俺は店員の視線が痛かったがユキの好きにさせた。

 制限時間が過ぎてもまだ食べ足り無そうなユキを引っ張り、会計を済ませて店を出た。

「なかなか美味しかったぞ」

「そうか、ホテルにチェクインできるまでまだ時間があるな」

 俺は旧都の名所であるという金箔寺と銀箔寺でも見ておくかと、『ハリー』を走らせた。

 金箔寺も銀箔寺も風雨から建物を守るためか、庭園の景色を損なわない日本風な屋根を載せたコンクリートの建造物の中にあった。

 どちらも二階建ての時代を感じる木造建築物で屋根以外は金箔と銀箔が貼られていて、スポットライトに照らされて眩い光を放っていた。外国人観光客も多く、さすがに旧都の有名観光スポットだなと感じさせられた。

 観光を終えた俺は勝手がわかる東都で泊まったホテルと同じ系列の、アプホテル旧都中央のダブルの部屋を取った。

 シャワーを浴びた俺はベッドでユキを抱いた。短い間に色々なことがあったが、俺には横で安らかに寝息を立てて眠っている女が、本当にこの世界を破滅させられるほどの力を持っているとはとても思えなかった。

 俺は逃亡生活を送っている状況だが、日本に居た時には感じなかった充実感に満ちていた。警察官として勤め上げたら、元暴走族だった俺にはアウトローの生き方が性に合っていたのかもしれない。

 夕食の時間のスタートに目覚ましをかけ、俺は目を閉じた。


 俺は夕食のバイキングを堪能したユキと食レポのテレビ番組を見ていた。荒比谷の施設を破壊した後はどうするか考えていた俺はあまり真面目に見ていなかったが、ユキは次々に紹介される食い物を声も無く真剣に見入っていた。

「丈二、これだ」

 それまで黙っていたユキが急に叫んで立ち上がった。

 何がそんなにヒットしたのかと、画面に目をやるとメガ盛りにタレントが挑戦しているところだった。

「これなら私も稼げる」

 興奮しているユキの言葉に疑問を感じた俺は番組をしばらく見て理解した。

 直径30センチ、高さ15センチほどの丼に塔のように天麩羅が盛られた天丼を食べ切れたら賞金5万円がもらえるが、失敗したら1万円を払うという大食いチャレンジの店のようだ。

「この天麩羅なるものは食べたことが無いが、あれくらいの量なら行ける」

 ユキは目を爛々と輝かせて「明日は天麩羅に決まりだな」などと言っている。

「明日は無理だろう。その店は大堺にあるようだぞ」

 ユキはがっくりと肩を落として、ハーッと溜息をついた。

 画面ではタレントがギブアップして1万円を払い、次の食レポが始った。

 新しい店でのチャレンジが始まるとユキのテンションがまた上がってきた。

「丈二、これはどうだ」

 今度はカレーの大盛で成功1万円、失敗二千円だ。長さは60センチ、中央部分の幅と高さが15センチほどの巨大なカレー皿にライスとカレーが半分ずつ入っている。

「このカレーなるものもまだ食べたことがないが、行けると思うぞ」

「行けるだろうな」

「なら、明日の昼はカレーに決まりだな」

 ユキなら間違いなく大食いタレントとして生きていける。俺は荒比谷の施設を破壊したら、ユキのマネージャーとして素性を隠してこの国で生きていくのもありかなという考えが少しよぎった。

「そのカレーの店は西都らしいぞ」

「ええ」

 その後も色々な店が紹介されたが、旧都にはあまりそういう店がないようであった。

 番組が終わるとユキが俺の方に頭を載せて来た。

「私、丈二の女になってから楽しいよ」

「そうか、死ぬまではずっと一緒にいてやるよ」

 俺はテレビを消して、ユキとベッドに向かった。


ちょっとラブコメになってしまいました。

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