付箋
「これは、これ……これは、こんだけ……」
ぺら、ぺら、と。
乾いた音が室内に響いていた。
目を開けた先には、見慣れたお姉さんが台所で作業している。
ご近所に住む彼女は時間があるとき、いつもこうして家へ招き入れてくれて、勉強や美味しいご飯を振る舞ってくれる。優しいお姉さんだ。
何をしているのだろう。
少し霞む目を凝らせば、付箋に何やらメモをしていた。
『スジ肉』『ハツ』『レバー』など。
書かれた付箋は、綺麗に包装されたお肉に貼られ、その個数や賞味期限まで、丁寧に記されていた。
ぼくの視線に気づいたお姉さんが振り返る。
「あぁ、起こしちゃった? ごめんね」にこりと微笑んで、
「私ってさ、忘れん坊でしょ? お料理のとき、こうしてると間違えなくて済むんだよね」
もう少し待っててね、と相変わらずの柔らかい声で、お姉さんは作業に戻る。
彼女は優しく親切なお姉さんだが、おっちょこちょいでドジなところがある。だからよく付箋を用いているのを、ぼくは知っていた。
そうだ、どうせならお姉さんのお手伝いをしよう! そしたら、ぼくとお姉さんの時間を作れる!
そう思い、立ち上がろうとして、ぼくは気づいた。
──動か、ない?
疑問に自然、ぼくは自分へ注意を向ける。
なかった。
手も、足も、お腹も。
途中から千切れて、削がれて、抉られて。
はみ出した肉と血溜まりの上に、ぼくはいた。
「ちょっとダメだよぉ、じっとしとかないとぉ」
そんな柔らかい声が、台所から届いて。
びくびくと、目と身体を震わせながら、ぼくはお姉さんを見た。
「──きれいに、分けられないんだから」
読んでくださってありがとうございます、鷂チャゲです!
今回も650字以内のSSですね!
付箋である必要を感じないとかそんなの知ったことない!!!←