ハゲ
夜風の吹き抜けるビルの屋上で、男は無骨な相棒を手にしていた。
バレットM82。数多の戦場で名を馳せるスナイパーライフルであり、男にとって長年を共にしてきた、唯一無二の戦友だ。
この相棒を手に、男は幾多の死線を潜り、幾万の敵を仕留めてきた。
今夜は、そんな男と相棒の最後の仕事であった。
「てめぇとの付き合いも、これで終いだな」
スコープから、男はターゲットの頭を覗く。
百発百中のヘッドショット率から、『コンドル』と呼ばれ続けてきた男は、しかし、その名が嫌いであった。
「腐肉食の嫌われ者。お似合いすぎたよなぁ」
あらゆる腐った肉を食い物に、生きてきて。
この身には、その腐った肉たちの、ウイルスが染み付いていた。
醜く、穢らわしい、狂気のウイルスが。
だから、男は影から太陽のもとへ。その身を晒し、殺菌することを誓ったのだ。
男は、トリガーに指をかける。
いまから撃ち抜くのは、ターゲットであり、自分自身だ。
狂気のコンドルから、潔白のハゲタカへ。
男は生まれ変わる。
「この最後の一発が、それさ」
見慣れた後頭部へ、見飽きた十字線を持っていき、照準を合わせる。
風が吹く。冷たい夜の風が、頭から伸びる一本を、弄ぶ。
撃ち続けてきた銃弾は消えることなく、男の頭に刻まれ続け、気づけば、一周回って消えていた。
それが男の罪の証であり、新たな生き様の形そのもの。
「あばよ、俺」
かつての自分へ別れを告げて、男はトリガーを引いた。
サイレンサー特有の、静かな噴射音が夜に溶けて、ターゲットは沈み――
はらりと、頭に残っていた一本が、散った。
ハゲと言えば、チャゲ
チャゲといえば、ハゲ、でお馴染みの鷂チャゲです。どーもー!!←
なんかこう、ハゲがお題になると、どうしてもネタに走りがちだと思うので、出来るだけ真面目に、ハードボイルドに書きたくてこうなりました( ´-ω-)