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鷂チャゲのSS作品倉庫  作者: 鷂チャゲ
3/6

じゃんけん

 真夏の太陽が、さんさんと照りつける、昼休み。


 校庭には、サッカーボールとドッジボールをそれぞれ手にした、二人の小さな戦士が向き合っていた。


「覚悟は、いいな?」


 ドッジボールを脇に抱えた、ノッポの少年が、問う。

 それに、サッカーボールを足の裏で転がす、ツンツン頭の少年が、ニヤリと笑った。


「ああ。勝った方が、この校庭を自由に使う権利を得る。異論はないな?」

「無論だ。そして愚問でもある。何故なら、勝つのは俺たちだからな」


 互いに一歩も引かない、気迫と挑発のぶつかり合いに、校庭の空気がぴりりと緊張する。

 

 二人の戦いは、いまに始まったことではない。

 育ち盛りの男の子。彼らの有り余る体力を、教室という檻の中で発散するには、狭すぎた。


 そこで、校庭の出番というわけだが。


 困ったことに、校内に設けられたスペースは限りがある上、あるリーダー格の二人によって、男子グループは二分化されていた。


 それがいま、校庭でにらみ合う、この二人であった。


「それでは、行くぞ」

「時間がない。さっさと掛かってこい」


 そう言うと、二人は後方で見守る仲間にボールを預け、重心を深く落として、手を隠す。


 じりじりとした夏の紫外線が、肌を焼く。

 じわじわと足元から込み上がる熱気が、体内を沸騰させる。


 じめりと汗が滲むと、生暖かい風がそれを煽って、喉の乾きを覚える。


「最初は、」

「ぐー……」


 慎重に、互いの出方を伺うように、表情を窺って、二人が拳を差し出す。


 次が、勝負の一手となる。


 そう思うと、緊張と高揚が、二人の間を支配して、張り詰めて、引き伸ばして――……。


 ――二人の、世界が、加速した。


「「じゃん、けん――……ッ!」」


 ほとばしる咆哮と、両者の踏み込みが、重なる。


 このとき、ノッポが選択したのは、グーであった。


 何者をも打ち倒し、何物をも打ち砕く、頑強なる意志。

 自らの弊害となる相手を前に、自らの思いを乗せ、彼は打ち放つ。


「うおぉぉぉッッ――!!」


 左足を踏み込んだ後、ぐんっと身体を大きく仰け反らせ、捻りを加えて、腕を引いた反動から、一気に突き出す。


 長身のバネから繰り出された拳は、空気を裂き、唸りをあげて、思いを放ち――……。


「ふっ、俺の勝ちだな……」


 勝負は、決した。


 固く握られた、ノッポ少年の拳が、ツンツン少年の出した、柔い手のひらに包まれるという形で――


「パー、だと……?」


 あまりのショックに、ノッポ少年は、膝をついてしまう。


 負けた。渾身の思いを乗せた拳が、負けてしまった。


 その事実が、ノッポ少年の自尊心を、へし折ってしまった。


「さぁ、約束通り。校庭はオレたちが、自由に使わせてもらうぜ」

「くっ……!」


 勝者の言葉に、敗者は逆らえない。


 ノッポ少年は、目の端に涙を浮かべながら、ふらつく足取りで、校庭を背にする。


「おい、どこに行くんだよ?」


 その虚しい背中に、ツンツン少年の疑問が飛んだ。


 振り返りもせず、ノッポ少年が力なく、答える。


「どこって……負けたんだから。俺はここから立ち去るんだよ」

「誰が行っていいって、言ったんだよ?」


 不貞腐れるノッポ少年に、追い打ちをかけるような、ツンツン少年の問い掛け。


 この期に及んで、まだ辱しめを受けろと言うのか。


 ギュッと。悔しさに手を握るノッポ少年が、嫌々ながら振り返る。


 すると、ツンツン少年から、ノッポ少年の身体の前に、パーが差し出された。


「一緒にやろうぜ。サッカードッジボール」


 にかっと。

 ツンツン少年が、裏なく笑った。


 勝者の言葉に、敗者は逆らえない。

 だから、これは仕方ない。


 そうノッポ少年が、気持ちに踏ん切りをつけて、固く握っていた手を開き、差し出された手に、手のひらを重ねた。


 こうして、少年二人の戦いは、続くのであった。


じゃんけんをテーマに書きました。


子どもって、あらゆる遊びにも全力で、わずか休憩時間10分でなんの遊びをするか、チーム分けをどうするかとか、全てを決める迅速な統率力と判断力があったんだなぁって。


いまさら、しみじみ思うことあります( ・_ゝ・

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