盲目
全く、見えないわけじゃないんですよ?
光の加減で、明るいのと暗いのは分かるし。
触れれば形は分かるし、嗅いだり聴いたりすれば、その在り処も、その声色も大体察しがつく。
あっでも曖昧ではあるから、よく身体や手をぶつけたり、飛び出してるトゲに刺さったりして、痛い思いをするんだけど。
顔色も伺えないから、地雷踏んじゃうこともあるんだけど。
それは、仕方ないよね。
見えてる人にだって、そーゆーことあるみたいだし。
何も私が特別ってわけじゃないと思う。
見えてる部分と見えない部分が、違うだけで。
「おはよう、橋本さん!」
だから私が教室に入るなり、こうして声をかけてきたりする人もいる。
「おはよ――……あいてっ」
油断していたのか、踏み出した足が突っかかって、私は前倒しに転んでしまう。
「だいじょうぶ、橋本さん?」
「へーきへーき。よくあることだもん。ありがとう~」
「もぅ~、気を付けなよ~?」
じんじんする膝を気にしながら、「ごめんね~」と私は軽く謝って、起き上がる。
気を付けなくっちゃな、最近多いし。
そう用心して、白杖を叩きながら、私は自分の席へ向かう。
カツンカツン、と。机の足に、教室の床に。
こついた杖先が、音を響かせて、伝えてくれる。私の世界を。
だから――……
ほどなく歩いたところで、杖先がスカッと空振る。
――あ~あ、またかぁ。
叩いてきた机の数と、歩数から、何となく私には分かった。
そこが、自分の席だってことが――。
「だいじょうぶ、橋本さん?」
そんな醜い声がまた聞こえて。私は思う。
全く見えないわけじゃ、ないんですよ?
目が見えない世界。
ある盲目の方に、明るいのと暗いのとかはわかるという話を聞いていたので。
全く見えないわけではなくて、きっとそんな方々にも、見える世界があるんじゃないかと思い、書いてみました。