黴菌
今日もまた、負けてしまった。
慣れきってしまったこの感情が、たまらなく鬱陶しい。
ぼろぼろになってしまった身体と、もう使い物にならない武器。
俺には、分からない。
俺にはもう、分からないのだ。
若い頃は違った。
俺はあいつが憎かった。
平和ボケした、あのだらしのない顔面が、どこまでも嫌いだった。
あいつに、勝ちたかった。
俺なら勝てると思っていた。
作戦を立て、武器をつくり、戦う。
負けたら、今度はさらに強いものを。
それを繰り返していれば、いつか勝てると思っていた。
その日を、夢見ていた。
継続は力なり、その言葉を誰よりも信じていた俺は、その日常的な努力によって、着々とあいつを追い詰めていた。
手応えを感じていた。あと少しだ、そう思った。
そして、自分史上最強の武器を持って挑んだ戦いの日。
あいつは、姿を現さなかった。
代わりに現れたのは、なんだかしょぼくれた、ハゲ頭の男だった。
男は、「プロデューサー」と名乗った。
そして、馬鹿にしたような口調で言う。
「君さあ、あんまり強くならないでもらえるかなあ?もしこっちが負けたら、膨大な数の子どもたちが泣くんだよ。」
わけが分からなかった。
これは、俺とあいつの。
俺とあいつだけの戦いではないのか。
「悪いことは言わないから、ね。手加減してくれないかな。もし君が勝ってしまったら、そのときは、」
男は、首を切るしぐさをする。
「それじゃ、よろしく。」
男は去っていった。
俺はその場から動けなかった。
どんなに完璧な作戦を立てても、どんなに強靭な武器をつくり上げても、俺はあいつには勝てない。
勝ってはいけない。
俺は、すべてを悟った。
死のうと思った。
生きている意味が見いだせなかった。
ロープを用意した。
台の上に乗り、輪っかに頭を入れる。
覚悟を決め、台を蹴り飛ばそうとしたそのとき、
声が聞こえた。聞きなれた声だった。
「ちょっと!何してんのよ!私を置いて行くつもり?」
俺は忘れていた。
いついかなる時もそばにいて支えてくれた、大切な存在を。
死ぬのはやめようと思った。
「ごめん、嘘だよ。きみのために戦い続けるよ。」
それからというもの、毎日が意味の無い戦いの連続だった。
おそらく俺は、もうあいつを倒せるだろう。
でも、できない。
これ程苦しいことがあるだろうか。
だが、俺は決めたのだ。
俺の死を悲しむ誰かがいるうちは、戦い続けようと。それが、どんなに無意味で、価値のない戦いだったとしても。
俺には、分からない。
俺にはもう、分からないのだ。
何のために生まれて、何をして生きるのか。
俺は今日も叫ぶ。
「はーひふーへほー」と。