Luck
これはビギナーズラックと言っても良いのだろう。
初めての獲物を獲ってからほんの数日、知り合いの牧場の牧草地に入ったところ、雄鹿がいた。
鹿は鹿避け用ネットに角がぐるんぐるんに絡まり、息も絶え絶えな状態であった。
まさに万事休す、僕が彼の立場ならそう思っただろう。
ふと右を見ると別のネットに白い鹿の角が絡まっていた。その不幸な鹿はすでに白骨化していた。
獲るしかないと思った。車を停めて、銃を片手に外に出る。
雄鹿は僕の存在に気付き、残った力を振り絞ってネットから逃れようとする。
これでは狙い放題だ。鹿には本当に悪いが、ここで学ばさせてもらう。
距離計で測り、50メートルの距離で伏せ撃ちの姿勢をとった。撃った。当たらなかった。そんなはずはない。もう一度撃った。鹿は怖がるでもなく、ネットと格闘している。
なぜ当たらない? たかが50メートルだ。もうだめだ。この状況に理性を保てなくなった。20メートルまで接近する。鹿は全く動かなくなった。人が近づいているのだ。それだけで怖い。鹿もネットに絡まり身動きが取れない。鹿は、その野生の本能で死期を悟ったのだと思う。ただただ、静かにこちらを見つめている。
立て膝の姿勢で発砲した。雄鹿は一瞬硬直し、そのまま崩れ落ちた。
角に絡まったネットのせいで、ほんの少し宙に浮いた状態。
致命傷だ。弾痕から血が溢れる。動脈を傷つけたか、すごい出血だ。
師匠に電話した。ネットに絡まった角はのこぎりで切断すると良いとのこと。
すぐに切断に取り掛かるが、これが固い。鹿の角とはこんなにも固かったのか!? ノコギリは厳選した。かなり切れる代物だ。だが、角とはすこぶる固いものなのだ。
とにかく人間の筋力を総動員して片方の角を切断した。すると比較的容易にネットから外れた。
この時点で電動ウィンチは持っていなかった。あるのはハンドウィンチのみ。軽トラと丈夫そうな木を線で結んでハンドウィンチで引き上げる。想像以上の重労働だった。だが疲れは感じない。アドレナリンを直に感じる。
かくして雄鹿は荷台に乗った。先輩に解体してもらった。気になる肉質は、すこぶる悪いそう。また一つ勉強になった。網に角が絡まったた鹿も、罠にかかった鹿も、肉質は悪いそうだ。
やはり美味い肉を得るためには、弾丸一発。それはあらゆる意味で納得。
僕は鹿を殺すのだ。それ以外に言うことはない。目標とすべきは、鹿を弾丸一つで絶命させるのだ。今回、そのための糧となる1日だったのだと、己に言い聞かせる