捌いた
持ち帰った鹿を自宅の裏庭まで運んだ。
決して広い裏庭ではない。
隣家の目も気になる。
それでもやるしかない。殺してしまったからには捌くしかない。
現場で解体するという選択肢もあった。だが、初めての獲物は落ち着いて、すべての経験を糧にするつもりで真摯に捌きたい。
暗かったこともある。少しでも明かりを灯せる場所でやりたかった。
最初は吊るそうとした。だが、うまく行かなかった。脚から吊るせば皮も綺麗に剥がせるし、全身を無駄なくいただけるとおもっていた。だが、断念した。
だから背開きにした。
地面に伏せさせたまま、背骨に沿ってナイフを入れた。
予想以上に綺麗に裂けた。
真っ白な脂肪があらわになった。
背ロースを切り出した。
一本目はギザギザになった。二本目は綺麗に取れた。もう取り方は覚えた。
次はモモ肉。これは苦労した。筋肉のつながりがわかるようでわからない。しかしやっていくうちにパズルが解けるように理解をし始める。
肉を切り出したら勿論骨が出てくる。骨は白い。見ても何とも感じない。ただ、骨は白いと思うのみ。
肉はまだ温かい。
時の経過と共に血の匂いが、死の匂いが、目に見えるように色濃くなる。
胃もかなり膨張している。限界が訪れる。もう、亡骸に対峙できない。血の匂いに耐え切れない。
この肉はおいしくいただこう。でもごめん、もう切り刻むことはできない。
全てを無駄なくいただこうなんて、驕り昂ぶりに過ぎなかった。
殺した子鹿を蹂躙した。
これからもそうだ。
尊い行いとは到底思えない。
だがそれが人間だ。
それが僕という存在だ。
ハンターとしてもっと成長することを心に誓った。