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僕のハンター日記  作者: 羊歯けんじ
25/26

8頭目

現在、僕の収入源は乳牛の成分調査である。

担当している牧場が町内に15件ほどある。

その中で、先日調査しに行った牧場の主から「今日鉄砲持ってきましたか?」と聞かれた。

無論、持っては行かない。

仕事のけじめはつけなくてはいけないと思っている。

たとえ、牧草地にシカがいたとしても、僕は生乳の調査に入っているわけだからシカは見送る。

主が言うには、最近シカが頻出しているそうだ。

見ると確かにシカがいる。

先日の大雨で牧草地の雪が溶けて消えたので、草を食べに来ているのだ。


その日の午後、鉄砲を持って舞い戻った。

いる。シカがうようよいる。

ここの牧草地は縦に長い。

シカはたくさんいるが、一番奥の牧草地のきわにいる。

距離計で測ると150メートル強。

当てる自信がない。

スコープで覗いても遠い。

牛歩で距離を縮めるが無風のせいもありシカに気付かれる。

彼らは150メートルの距離を保とうとする。

仕方がない、撃ってみる。

狙ったオスジカの手前10メートル地点に着弾。

シカの群れは踊るように逃げる。

いくら150メートルだとしても外し過ぎだ。

今日は獲れない日なんだと割り切って追い矢も撃たない。


翌朝、鉄砲を持って再び舞い戻った。

朝の6時、シカがうようよいる。

だが、やはり遠い。

距離を縮めるのは至難の技。

だから牧草地から外に出た。

森の中に入り、シカの痕跡を追う。

こちらが見つけるより先に「ビー」と鳴かれる。

その鳴き声を頼りに探す。

ザザザ、という音と気配がシカを浮き彫りにする。

目視できた。あとは追うだけ。

谷を三つほど越えてシカが油断したんだと思う。

こちらの気配を探すようにじっと立っている。

撃った。

「ターン!」という銃声と共にシカはその場に倒れた。

谷を下り、谷を登り、倒れたシカの元へとたどり着いた。

シカはまだ足をジタバタさせている。

弾は首の付け根を貫通していた。

中枢神経を傷つけて立つことができないのだ。

頭を踏みつけ、みぞおちにナイフを突き立てる。

勢いよく噴き出す血。

根雪に見る見る赤い穴が開く。

目の前でシカは息絶える。

目の色が濁る様を僕は目撃する。


解体。

上達したものだ。

あんなに苦労したアバラもレバーもシンゾウも、手際よく取ることができる。

今回は毛皮もいただく。

皮なめしに挑戦するつもりだ。


主の家によって肉を分ける。

喜んでいた。

よかった。

僕が屠ったシカの肉をもらってくれること、それが何より励みになる。

殺したからには食べなくてはいけない。

でも、僕一人では食べきれない。

誰かに食べてもらうこと、それは本当に救いになる。


8頭目、良い思い出になった。

どうやら昨日命中しなかった原因はスリングにあるようだ。

そう、先日スリングを新調したのだった。

登山ショップで材料を買い、自作したスリングだったのだ。

以前愛用していたスリングと同じ長さにしていなかったというミス。

僕の撃ち方は、スリングを左腕に巻きつけてホールド強化するというもの。

ゆるいスリングでは当然ガク引きになる。

ショットガンのリコイル(反動)もダイレクトに右肩を痛める。どうりで痛いわけだ。

調整し直したスリングでは全くぶれない。リコイルも心地よい。

だから今回は狙い通りの的を射抜いた。

毎回、発見がある。毎回、何かしら学ぶ。

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