表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕のハンター日記  作者: 羊歯けんじ
22/26

この意味

日の出30分前に出猟して、獲る獲らないにこだわらずに大自然の中を歩き、何頭か走り去るシカを見送り、それはそれで良い1日だと感じつつ、今日はこれで帰ろうかと思った矢先に、前方150メートルにメスジカ3頭群れを発見。

シカはこちらに気づいておらず、雪の中の下草を食みながら歩いている。

膝撃ちの姿勢で銃を構え、スコープでじっくりとシカを観察する。どのシカを撃つか。どのシカが一番大きいか。朝の透き通った時間の中、銃を媒介にして野生動物と僕は一本につながる。

この意味。

震える。

心が、体が、理由もなく打ち震える。

このシカに決めた。

立ち止まるのを待って引き金を引く。

標的のシカは吹っ飛び、他のシカは逃げ惑う。

一発で仕留める。

この意味。

今回、決定的なレベルアップを実感した。

それはシカを発見した時の落ち着き。

そしてシカに気づかれないというスキル。

忍ぶ、というハンターに不可欠な資質だ。

シカはこちらに全く気づいていなかった。

この意味。

大自然との一体感。

シカの匂い、シカの音、シカの気配。

何度となく繰り返した山歩きが実を結んだと断言できる。

シカは倒れていた。

首の付け根から入った弾丸が反対側のあばらに抜けていた。

まだ未熟だ。

首を貫通させて仕留めるまでには至らない。

正直、胸に照準を合わせてしまっている。

射撃精度の自信のなさがそうさせる。

だが、もうその時期は終わって良いのかもしれない。

次回からは首を撃ち抜くように努めよう。

肉を美味しくいただくための努力だ。


解体も然り。

回を重ねるごとに慣れてきた。

反面、全く慣れないとも言える。

毎度が初回、解体はいつだって初体験なのだ。

今回、時間をかけた。

落ち着いてやれと自分に言い聞かせた。

だから、今までで一番理想に近い解体となった。

とは言え、まだ理想には程遠い。

2時間かけて解体した後、凍結した缶コーヒーを溶かしながら飲んでいると、犬がとぼとぼ歩いてきた。

黒犬だ。

見たことのある野犬は皆白犬。

おや、珍しいなと思ったら、赤い首輪をしていた。

ここで思考停止。

飼い犬がなぜこんなところに?

こんな場所、絶対誰も入らないであろう深い森の谷底まで下りて来たのだ。

犬の散歩になど来るわけが……やや、なんと遠目に飼い主も見えるではないか。

だめだ、わけがわからない。

仕方がないから、声の届きそうな位置まで飼い主らしき人物が来たのを見て「こんにちは」と声をかけた。

向こうからも気さくな返事が届く。

なんとなくだが、いい人そうだ。

やがて飼い主は僕の元へ到達する。

犬は、シカの亡骸に夢中。

なんだこれは……?

全くわけがわからない状況になったぞ。

(つづく)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ