表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕のハンター日記  作者: 羊歯けんじ
18/26

二ヶ月ぶり

獲った。二ヶ月ぶりに鹿を獲った。この二ヶ月、一体何をしていたのだろう。いや、かなりの日数をハンティングに費やしていたのだが、こうして獲った後の余韻に浸ると、獲れなかった二ヶ月間がことさら空虚に感じる。

だが無駄に過ごしたわけではない。この二ヶ月間があったからこそ獲れたのだ。それほどハンティングは奥が深いのだ。つくづくそう思う。

まずは予感というものを信じられるようになった。今日はあそこの森林に入ろう。きっとあの辺で鹿が身を休めている。そういう予感も足で稼いだ経験がものを言う。

そして今回強烈に実感したのが音。自らの足音。風の音。木々の葉音。鳥の気配。そして鹿が移動する音。

鹿の足跡をたどって尾根から尾根へ沢を越えて歩く。寝ている鹿でもこちらの気配に気づく。人間の能力では野生に勝てない。

だが、移動音は聞こえる。

大型の動物が野を駆ける音は僕の耳には異質だ。同様に鹿にとっても人の気配は異質なのだろう。

鹿の姿は見えなくとも音は聞こえる。気配は感じる。そんな単純なことに今まで気を払わなかった。


二つ目の尾根でオス群れに出会った。ドドドドという地響きと共に走って行った。

追ったが足跡を見失った。谷か尾根かで迷って三つ目の尾根を選んだ。

気持ちの良い尾根だった。このままどこまでも歩いて行けそうな気がした。

しかし日没まで二時間となかった。ここまで一時間は歩いて来た。そろそろタイムリミット。

見晴らしの良い場所があった。歩いた軌跡を眺めようと、一瞬猟のことを忘れた。

静かな時が流れた。

すると音がした。鹿の音。鹿が移動する気配。

自然と音の方向に目をやると鹿がいた。

こっちを見ていた。

だが僕が有利だった。

鹿は僕を目視できていない。気配だけを察している。表情でそれがわかる。

銃を構えた。膝打ちの姿勢。スコープに鹿が飛び込む。目の前にいるかのような鹿。息を止めた。引き金を引いた。

この瞬間、とても冷静だった。

鹿と自分が、一本の線でつながった感覚。

獲れたと確信した。

鹿はその場に倒れた。

後ろ脚をバタバタさせる。

起き上がれない。

起き上がれるはずがない。

銃弾は命の深い部分を貫いたのだ。

喜びはなかった。

ただ、不気味なほど冷静。

谷を下りてナイフを取り出した

前脚を左手で押さえた。

もうほとんど力はないようだった。

喉元にナイフを刺した。

ナイフは何の抵抗もなく吸い込まれた。

抜くと血が噴き出した。

全てが冷静に行われた。

解体すると、まだ筋肉が動いていた。

これはとても良い肉だと指先で感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ