きこりのおじさん
狩猟範囲を広げた。
開けた林道、林の中。
ここは比較的人気の狩猟スポットで、車で流していると他のハンターに出くわすことが多い。
出くわしたが最後。
去るしかない。
狩猟車が二台も入った林道では獲れるわけがない。
だから忍び猟の訓練をする。
軽トラは目立たず、かつ完全に隠れず、流れ弾の当たらないような場所に停車。
そこから林道沿いにシカ道を辿って林の中を歩く。
一時間ほど歩いた頃、車の音が聞こえた。
きっとハンターだ。
がぜん緊張する。
こうなったら僕はシカだ。
木陰に身を潜め、行ってくれ、通り過ぎてくれと願う。
他のハンターに会うのは怖い。
身を潜めなんてしたら危険極まりないのだが、なるべく出会いたくない。
声を出して「ここにいるよ」と合図するべきだが、お互いせっかくのハンティングが台無しだ。
木陰にしゃがんで息を殺した。
グレーのバンだ。
停まった。
ドアが開いた。
頼む、行ってくれ。
人が降りた。
何かガサゴソ、道具を下ろしている。
頼む、こっちに来ないでくれ。
笹の葉をかき分ける音がした。
林道からこちらへ、笹林をかき分け進んでくる。
だめだ、もう無理、見つかった……!
「こんにちはー」
僕は声を上げた。
すると「こんにちはー」と愛想の良い声が返ってくる。
「出ますねー」と言い、僕は立ち上がる。
「獲れたのかい?」とおじさんは言う。
どうやらきこりのおじさんのようだ。長い、長すぎるほど長い鎌を持っている。背は低いが異常なほどがっしりしている。骨太、筋肉質、柔和な笑顔。そうだ、この人はドワーフだ。どこからどう見てもドワーフ族だ。
「いやー、獲れてません」と僕は答える。シカ道を辿って調査していた旨を伝える。するとおじさんは、おじさんの知る限りの情報を教えてくれる。感心したのは塩のことだ。シカは日中、海側へ移動して塩を摂取しているのではないか、というおじさん論。
おじさんとの会話は弾む。とても良い人だ。同じように道無き道を行く者同士、親近感が湧く。
シカ狩りはロールプレイングゲームに似ている。いや、シカ狩りの方が時代的に先か。しかし幼少期からゲームに親しんで来た者にとっては逆に感じても仕方がない。
最初は一人で行くしかない。装備も薄ければ地図もない。孤独な戦いだ。
そして突然、ドワーフが現れた。敵かと思ったら気の良いきこりのおじさんだった。仲間にしたいと思った。長すぎるほど長い鎌もとてもかっこいい。ドワーフのおじさんはかなり強いはず。僕みたいな初心者ではまだ仲間にできないのかもしれない。
レベルを上げよう。経験値を稼ぐ以外に、前には進めない。




