忍び猟成功
二度目の忍び猟。一度目に比べてはるかにシカの痕跡が見える。特に足跡と獣道が別のフィルターを通したかのようにクリアになった。そこに糞さえあれば、ナビゲーション・オンとなるのだ。
前回とは同じ林道だが別の入り口から入る。今回は尾根伝いに逆の沢まで降りてシカの水飲み場を拝む予定。運が良ければそこでシカに遭遇できる、そんな予想を立てる。
獣道がクリアに見える分、今回はシカを信用することにする。人間の感覚で進むと迷うのだ。シカの足跡さえ辿ればおかしな場所には出ないはず。これはとても面白い遊び。
シカは本当に要領が良い。決して険しい道は選ばない。遠回りになったとしても平坦な道を行く。そして必ず林道と並行して進むのだ。面白い。常に人間を意識しているように感じる。シカは利口だ。道に対する考え方は人間と同じ。人工的な道が好きなのだ。しかしオオカミがいない今、天敵は人。人が眠っている間だけ彼らは道を大いに楽しむ。
シカがいた。
視界の左側に突然現れた。獣道ではない、青々とした茂みの中だ。草を食べている。
感動した。緑の中に濃い茶色。短毛が日を浴びて輝いている。筋肉質。大きい。雄。
何より感動したのは、相手はまだこちらに気づいていないということ。人がシカの野生を凌駕した。距離はせいぜい20メートル。こんな経験は初めてだ。
獲れる。そう確信した。いつまでも眺めている場合ではない。銃を構える。もう委託射撃にこだわらない。森の中では立て膝もできない。立射だ。一番不安定な立射。一度も打ったことのない立射。
撃った。
目の前のシカを衝撃が貫いた。
スローモーションだ。
前脚の付け根に当たり、血がドクドク噴き出した。
それでもシカは走った。
今度は見失わない。
二の矢を装填し、間合いを詰める。
シカは倒れた。
きっと致命傷だ。
だが、決めたんだ。この銃で息の根を止める。
首に二の矢を放った。
着弾が近いからだろう。ものすごい銃声。景色が歪むほど耳鳴りがした。
シカは死んだ。
血抜きをした。
獲った。
忍び猟でシカを獲った。
僕の中でハンターが産声を上げた。
うおお、うおお、と音のない雄叫びが体の内側で響き渡った。




