忍び猟の訓練
流し猟では獲れない。
(流し猟=狩猟車で林道や牧草地を流して見つけた鹿を狩る猟)
それは当初から感じていたこと。
まず車の音で鹿に気付かれる。
そして逃げられる。
おそらくこの地区では忍び猟が主流で、主だった林道や牧草地では鹿が学習してしまっているのだと思う。
ベテランハンターに言わせれば生意気言うな的な意見ではあると思うのだが。
要は車の音がすれば利口な鹿は逃げるのだ。
まれに警戒心の薄い鹿もいる。そういう鹿は逃げないので撃たれる。
そんな鹿は希少種だ。
だから忍び猟の訓練をすることにした。
通い慣れた林道の中で車通りの特に少ない林道をチョイス。
そしてさらに誰も入らないような、乗り入れたらすぐに閉ざされているような閉鎖路に車を停める。
そこから歩いて林の中に入る。
対ヒグマ用のナイフも腰に差す。
もうその辺にシカの糞がある。
糞があれば獣道も容易に見つかる。
鬱蒼と茂る熊笹の中に足を踏み入れる。
気分はシカである。
なるほど、今回はシカには出会えなかったがほんの少しシカの気持ちがわかったような気がする。
シカの痕跡を追うのは想像していたよりも易しそうだ。数回通えば行動パターンを掴めると思う。手応えはあった。
シカは林道の近くを通る。時には林道に一度出ることもある。谷があるからだ。シカも人間と同様、楽な道を通りたいのだ。それがよくわかった。収穫だ。汗もかいた。有酸素運動もできた。シカを獲れなくても健康を得ることができた。ガソリンの消費甚だしい流し猟に比べて、とても有益であると感じた。