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僕のハンター日記  作者: 羊歯けんじ
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撃った

現実です。異世界とかじゃありません。ほぼほぼリアルなLv1ハンターです。そんな僕が日々を綴ります。

軽トラを左にカーブさせた時だった。鹿が視界に飛び込んだ。牧草地に一頭だけいる。草を食んでいる。まだ幼い鹿。メス、だと思う。

撃つつもりはなかった。ただスコープの中に鹿を捉えてみたくて軽トラを停めた。助手席に置いてある銃を取り出す。まだこの銃で鹿を撃ったことはない。射撃場以外で発砲したことはないのだ。ここは国道に近い牧草地だ。きっと撃たないほうが良い。今はまだ雰囲気だけ味わえば良い。だから弾も持たずに牧草地に入った。

鹿はまだ食事中だ。中腰で近づく。時折首を上げてこっちを見るが、石になった気持ちでじっと動かずにいると、またすぐに草を食べ始める。スコープを覗く。まだ遠いが、スコープの中では近く感じる。かわいい姿だ。今日はこの辺にしておこう。この距離でじっくり観察する。きっと撃たない方が良い。だから車に戻った。

運転席に座った途端、考えが変わった。周りに人気はない。他の車も走っていない。とてもとても静かだ。ここにいるのは幼い鹿と僕だけ。だからきっと、僕は撃たなくてはいけない。チャンスがあれば撃つべきなのだ。あの鹿は、チャンスだ。僕が成長するチャンス。だから弾とナイフを持ち、再び外に出た。

距離はおよそ100メートル未満。鹿は依然として食事中。伏せ撃ちの体勢を取るがうまくスコープを覗けない。きっと緊張もしてる。頬付の感覚がわからなくなっている。だから座った姿勢をとった。体育座りのような体勢。格好悪いがスコープの中で世界が広がった。静かだった。撃った。

ドゴオオンーーと轟音が轟き、鹿が吹っ飛んだ。

いや、吹っ飛んだと言うよりその場に倒れた。

猛烈に脚をバタバタさせている。見たことがある。昨日師匠が撃った鹿もこんな状態だった。師匠はすかさず二の矢を撃ち込んだ。

だから自分もと、ポケットをまさぐるが弾がない。おかしい。ここに入れたはずなのに。早く止めを刺さなくては。ナイフはあるんだ。ダッシュ。

すると急に鹿が立った。そして踊るように駆け出した。いけない。半矢で走ると肉の質が落ちると師匠が言っていた。すかさず追いかけた。だが、鹿は電光石火で藪に消えた。本当に半矢なのか? とにかく僕も藪に入った。

鹿の姿はない。時折足音が聞こえたが、姿は見えない。血の痕を探すが、それもない。ゼイゼイ、ブウブウという音が聞こえる。どこかで倒れて苦しんでいるのだ。その音をたどって藪を進む。気づいたが、ここにもちゃんと獣道がある。

いない。音の正体はチェーンソーか草刈機の作動音だった。そう遠くない場所で林業工事でもしているのだろう。では鹿は? 見つけることができない。本当に半矢なのか? 逃げられたのだ。どうせなら無傷でいてほしい。

牧草地に戻って血痕を探したが、見当たらない。当たってないのかもしれない。発砲音にびっくりして倒れただけなのかもしれない。自分で撃っておきながらひどい矛盾だが、当たっていないことを願う。かわいそうだと思うならハンターなんかやらないほうが良い。僕はそう思う。だけど、かわいそうだと思わないハンターも、またいないのではないかと思う。

とにかく初めて鹿をスコープで捉えた。初めて鹿に向けて発砲した。初めて鹿を追跡し、藪の中で獣道が見えるようになった。ただその事実だけが残った。ただそれだけを持ち帰ろう。反省点はいっぱいある。明日師匠にいろいろと聞いてみよう。

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