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Transparent - 無垢の色 -  作者: 赤月はる
第四章 ZERO RANGE
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筋肉マツリ・デミ仕様 sideユリウス

今話に出て来る「ギド」は「Three Gem - 結晶の景色 -」の第417話「Keep clear of the gods」に出て来るデミの三流殺し屋の名です。

指弾使いで、幼かったジンへ攻撃を加えました。

  





ジンとギィは私たちの話を注意深く、神妙に聞いていた。


あちらの女性や子供がいる楽しげな場所ではキキが柔らかく微笑んでいるから何も心配はなさそうで安心だ。


でもこちらサイドでは、今までどのようにして自分たちが守られてきたのかを丸ごと知りたいという彼らの要望に応えて、割とヘビーな話になっていたからだ。


「……てことは、あのとき俺が死なずに済んだのは、眼鏡がヘルゲの方陣で強化されていたからだったのか」


「それだけとは言えんだろう。指弾が眼鏡にヒットしたのは、あのクズの狙いが『クズらしく正確』だったからだ。それに加えて大部分は運が良かっただけだな。眉間にでも当たっていたなら、お前はここにいない」


「ほんとですよ、私はあのとき絶対にジンは死んだと思ったんですから」


ヨアキムが翼をわさわささせてジンに文句を言ってるけど、ヘルゲは「俺はただ眼鏡のレンズが簡単に割れないようにと思っただけだ」なんて相変わらずの「それがどうかしたか」という顔だった。私もその話はざっくり聞いていたけれど、確かに幸運が重なっただけと言いたい気持ちもわかる。


あのギドという男がヘルゲの強化方陣で防げる程度の威力でしか攻撃手段を持っていなかったこと。そして生粋の「デミの汚泥」だったからこそ子供の眼球を狙うなどという下種なことをしたということ。それだけだったんだ。


――ああ、私はこれから議員としてデミの問題へ斬り込んでいきたいなと切実に思う。必要悪という考え方は表立って言えることではないけれど、今はヨアキムを介してルチアーノと繋がりがあるんだ。


彼のまとめるケイオスが間違っても崩壊しないよう、でもあまりにも非道な方向へ行かないように御せないものかな。ルチアーノが老いてお家騒動が勃発などということになれば、中央の街中が戦場になってしまう。


そんな風に脳の片隅で「議員の思考回路」をこねくり回していると、今度はコンラートが話し始めた。


「俺も定期的にデミへ潜入して情報を仕入れるようにはしてるが、オピオンの効果は徐々に現れてきてるな。正直言って驚いたぜ。特にジン、お前の存在感がすげえ」


「……俺は必要以上にチビどもへ接触しないよう気を付けてるんだけどな……」


「けけっ、お前も紫紺のカリスマ持ちなんじゃねえのかァ?」


コンラートがジンをからかっているけど、それはどうかなあ? 私にはジンにギフトがあるようには感じられない。それが微弱な力だろうが、ギフト持ちには同類が直感でわかる。


「ジンはギフト持ちじゃないと思うよ? もしそうなら会ってすぐに気付いたし、今もそういう感じはない。単純にデミの子供にとってジンやギィの存在は『見たことのない行動をする大人』に見えるってことだと思うけど」


私がそう言うと、それもそうかとコンラートは言った。でもグラオの中で一番デミへ潜入する機会の多い彼から見れば、オピオンの存在感の大きさはこれまでに類を見ないほどデミのパワーバランスを変えているから、驚くべき存在なんだ。


ジンもギィも当事者だからなのか、はたまたキキと同じように「そんなことは生き残るために必要な情報ではない」と割り切っているからなのか、大して興味もなさそうだったけどね。




その話が落ち着いた時、待ち構えていた筋肉鎧を纏った双子が舌なめずりした気がしたよ。私なんかより先に気配を察知したジンとギィが、驚いて腰を浮かせてる。


「はぁん、てことはお前があのデミで地に足をつけてることが子供にゃわかるんだな。ところでよー、お前らちょっと外にでねぇか? オピオンがそうやって求心力を発揮すればするほど、邪魔に思ったりやっかんだりする敵が出るだろ。パピィだけじゃどうにもならない部分を、秘密の方法で叩ッ込んでやっからよ」


カイとカミルは二つのリンケージグローブを持ってニヤニヤしている。なんだろう、筋肉の洗礼か?


私が思わずアルノルトへ「大丈夫なの、あれ……」と聞くと、ちょっとだけ頬を引き攣らせてから「ん~、まあ大丈夫、だと、思うよ?」と何とも頼りない返事が返ってきた。


まあヨアキムも「よかったですねえ二人とも!」なんて笑うので、大したことじゃないのかなあ。ぼんやりと連行されていく二人を見送ったけど、ジンもギィも顔が真っ青だ。たぶん双子の闘気をデミ流に察知していて死を覚悟したって雰囲気。でも私みたいに「ヨアキムがそう言うなら」と思って死ぬことはないだろうと納得したみたいだね。


――でもアルノルトはちょっとだけオロオロしながら、不穏な独り言を呟いた。


「あ、わ、連れてかれた~。コンラートさんまで上機嫌でついてっちゃった、どうしよ……オスカーさんは子供たちと遊んでるけど、助けてって言った方がいいのかなあ? でもキキがいるからすぐ回復してもらえるだろうし、大丈夫なのかなあ?」


「アルノルト、なんか怖いことを呟かないでよ。カイとカミルは何をするつもりなの?」


「え? あ~、あのさ、リンケージグローブでカイさんとカミルさんに接続できるじゃん?」


「うん、ジンとギィの魔法制御力ならきっと接続できるよね。それがどうしたの」


「いや、だからさあ、その状態で乱取りするわけ。カイ VS カイ、カミル VS カミル、みたいにさ。そうするとすごい勢いでスキルが叩き込まれるから、一気に熟練度が上がるんだよ」


「へぇ~! それはすごい方法だ! 私もやってもらおうかなあ。結婚したらもう変装せずにデミへ行くことになるかもしれないし、少し護身術に不安があったんだよね」


「あははははー、ユリウスのおバカ坊ちゃん炸裂だよ。何言ってんの、あれ見てから同じ事を言える~?」


ピーコックグリーンの瞳から光を失ったようなアルノルトは、口から魂を出しながら失礼な物言いをした。ほんと、いつまで経ってもアルノルトは私をイラッとさせる天才だよ。




――でもアルノルトに連れられて出窓越しに草原を見た私は、なぜそんな言い方をされたのかを理解した。


『うらぁっ 型通りの攻撃してっからだ! 脇ッ レバーッ 急所を簡単に取らせんじゃねえよ、死ぬぞッ!』


『ぐえっ』


『けっけっけ、追い詰められてデミ流のクセが出るのはいただけねぇな~。洗練されてない技ってのは、正統派から見りゃ隙だらけだぜ? だから廃れたんだっつの』


『がはっ』


……ジンは筋肉を嬉しそうに盛り上げているカイと、隙を見てトリッキーな動きで翻弄するコンラートを相手にボッコボコにされていた。


『ほれ、ほれ、相手が長い得物持ってたらトンファーなんぞでやってられるのか? お前にこれをかいくぐってショートレンジへ持ちこめる技量があんのかよ? 武器は何を使ってもいいんだぞ、隙を見て得物を変えてみろよ』


『ンなヒマも隙もねーだろうがよっ がふっ』


『だなー、デミじゃ杖術使うようなヤツはいねーか。だが暗器使うとお前のこと殺しちまうからよー。じゃあ木製のナイフでやってやろう、かっ』


『げはっ』


『アホかお前、ナイフって言っただろ』


『っくそ! 武器を持ちかえたとこなんて見えなかっ……ごふっ』


……ギィも楽しそうに牙を剥いたカミルに、ボッコボコにされていた。


私はすぅっとアルノルトを見て、ちょっと疑問に思ったことを聞いてみることにしたよ。


「ねえアルノルト。なんであの状態になるのがわかってて、ヨアキムは許可したのかな……」


「ヨアキムさんは拷問推奨思考じゃん、忘れたのー? あの三人なら絶対死なせるようなことはしないし、ギリギリのラインを見極めてギッチギチにしてくれるってわかってるからだよ……んでアレを乗り越えたらあの二人がもっと安全にデミで生き残れるってことでしょ、そりゃ行ってらっしゃいくらい言うよ」


「ギリギリとかギチギチとか、何その擬音、怖い」


「それでユリウス、あれ見てもやってほしい?」


「私が彼らの前でそれを口にする前に止めてくれた君へは、感謝しかないよ。やっぱり君は私の親友だ、アルノルト」


私たちは顔色を青くして、草原の惨状から目を逸らした。


ジン、ギィ、見捨ててごめんね。


でも安心してよ、今からキキへ治癒魔法をたくさん使ってくれないかとお願いしに行くから。


私とアルノルトは静かに踵を返し、アロイスやナデイヤが腕を振るっている厨房へ向かって歩き出した。そこには目を輝かせて彼らの手際の良さを見学しているキキがいる。どうしよう、何と言えばいいかなと思っているとヨアキムが先にキキへ話しかけていた。


「キキ、いまジンとギィは外でやんちゃに遊んでいます。楽しそうですが、夢中なので少しケガして戻ってくると思うんですよー」


「え? もう……二人ともここが楽しいから浮かれてるのかな? わかったよ、ヨアキム」


私とアルノルトは、ヨアキムのあまりな端折り方に「えぇ……?」と絶句した。そしてしばらく様子を見ようと目線で合図してそっと見守っていると。


――いい感じに運動した筋肉三人はもうもうと体から湯気を出しつつ、ぼろぼろになったジンとギィを荷物のように担いで戻ってきた。


「ジン? ギィ?」


驚いたキキが声をかけても、返事さえできないようだ。ちょっとフォローしたほうがいいのかなと思って腰を浮かせると、またしてもヨアキムが翼をワサワサさせながら言った。


「二人ともいい経験をしましたねー! もうワンランク上げれば私みたいに恐怖心から脱却できると思うんですが」


カイたち三人はさすがにそれを聞いて顔を青くした。


「「「それは苦しみ抜いてから死んで生き返れと言ってるのと同じだぜ、ヨアキム」」」


「この二人ならできると思いますけども……」


「「「人間は普通、一回死んだら終わりだから」」」


「そうですかあ、残念です」


筋肉三人組はそれで冷え冷えとした何かを感じてしまったようで、蒸気機関みたいになっていた体からの湯気の噴出を止めた。すごい冷却水っぷりだね。


キキは不思議そうな顔になりながら、さっさと二人へ各種の治癒魔法をかけていた。体力回復もしたみたいで、それを目の当たりにしたレビたち子供組から「すげー、キキ姉ちゃん、すげー」と言われて照れている。


それだけで兄二人がボコボコにされていたことをスルーできるだなんて、君もよほどヨアキムを信頼しているんだな。


でもねキキ。


ヨアキムはデミでは君たちを想う良い父親だけども、猫の庭ではぶっ飛んだミレニアム級霊魂(拷問推奨)という変態さんなんだよ?


この「実家」を暴露した後では、気を抜いたヨアキムがこれから何を言い出すかわからないな。変態っぷりの影響を受けないよう、きちんと三人へは私から説明しておこうと心に決めたよ……





  

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