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Transparent - 無垢の色 -  作者: 赤月はる
第四章 ZERO RANGE
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女の子は悩み多き生き物 sideキキ

  





私はいま、ニコルに「胸囲を計った時の思い出話」をされていた。おかしいな、婚約のパーティーって聞いていたけど、その前に「キキと思い出を語る女子会」みたいになってる。


「わかるっ! わかるよぉキキ! 私はあの時キキと一緒に悲しい想いを共有したと思ってるっ!」


「えっと、そこまで悲しいとは思ってなかったけど。でも確かに測るのが嫌だなとは、思ってた」


「だよね~っ、今まで私とフィーネ姉さんしかこの悩みを共有できる人はいなかったの! キキも会員認定してあげましょうっ! あなたも貧乳同盟入りですっ!」


「おや、ニコル……ぼくはいつのまにそんな同盟に入ったのだい、知らなかったよ」


「貧乳……改めて名前が付くと、結構心にぐさっと来るものだね……」


ヘルゲの奥さんで、彼女も宝玉だというニコルは天真爛漫な人。でも私の側へ来てガシッと手を握ったかと思ったら、すごい勢いで「会員認定」とやらをされてしまった。

な、何をするところへ私は入会してしまったんだろう……というかフィーネもたったいま入会したらしくて戸惑ってるんだけど。


「んもー、ニコルってば気にし過ぎだよぉ~。それにこう言っちゃ何なんですけどぉ……キキはまだ成長する伸びしろがあるっていうかぁ」


「むぅ、なにようアルマ~! 持てる者の驕りですよっ! 私たちは身を寄せ合って心の痛みから逃げ惑うんですっ!」


「逃げんなし、受け止めて前を向け」


「きー! ユッテのばかぁ!」


まるでレオナたちみたいな仲良しの三人は楽しそうに話す。私もつられて笑ってはいたけど……貧乳……貧しい乳、かあ……


そうだ、こういう時にあの二人へ聞けばいいんだ。


「ねえナディヤ、ハイデマリー」


「なあに?」


「あの、貧乳を治す治癒魔法があるかどうか知ってる?」


するとニコルが横から「病気じゃないよおおおお!」と半泣きになって抗議してきた。そしてユッテが爆笑しながら「キキ、あんた最高だよっ」と言って、暴れるニコルを羽交い絞めにしている。


「ごめん、ニコル」


「ふふ、ニコルも落ち着いて? キキ、どうしてそんな風に思ったの?」


「あ、ええと……だって男は大きな胸やお尻が好きでしょう。ユリウスをがっかりさせちゃうのかなと思って」


……まあ正直言えば、ユリウスはそんなところに重点を置いていないから私を選んだというのはわかってるつもり。それでもないよりはあった方がと思ってしまうのは、やはり娼館のお姉さんの胸が軒並み大きいからだった。


「あらあら、キキったら。そういう男性しか見たことないからそう思っちゃったのね? では問題です、私たちの中で一番モテたのは誰でしょう?」


モ、モテる……?

そんなこと言ったらこの場にいる人たちは全員可愛かったり綺麗だったりする人ばかりで。あ、ポスターモデルになったくらいなんだから……


「リア」


「「「きゃははははは!!」」」


「ちょっとみんな失礼よ、爆笑ってなに、爆笑ってぇ!!」


リアが怒っている。どうしてだろう、すごい美人だし、スタイルだって抜群なのに。


「ふふ、リアはちょっと余計なひと言が多いから好みが分かれるのよね?」


「ナディヤまで~!」


「キキ、正直言ってリアはこの中で最下位かもしれないねえ。彼女は個性的でエキセントリックなので、ついて来れるほど出来た人格者がなかなかいなかったのさ」


「フィーネぇ……なんか段々落ち込んできたわよ、ねえ、何なのかしらこれ、イジメ?」


じゃあ誰なんだろう?と首を傾げていると、ナディヤはクスクスと笑いながら「人数で言えばダントツでニコルなのよ」と言った。


彼女はその屈託のない笑顔や天真爛漫さで、ユリウスもかくやといわんばかりの「人たらし」なのだそうだ。それこそ老若男女問わず、気難しい人だろうが誰だろうが。その最たるものが「昔のヘルゲ」なのだとナディヤは言う。


「ヘルゲの昔の映像記憶見せてあげるわ。ほら」


そこには無表情でボソボソとしか話さず、前髪であの顔をほとんど隠すようにして誰とも話さないでいるヘルゲがいた。その映像の中で彼が話したのはたった二回。『無理だ』『断る』だけですごい美人を追い払っている。


「この子、すごく大きな胸だし美人でしょ? でももうこの頃にはヘルゲはニコルに夢中だったわね」


「そっか、ニコルは中身も可愛くて好かれるんだね。よくわかるよ」


「え、ちょ……ど、どうしよう! キキの方が百倍可愛いよおおお」


今度は恥ずかしくなったらしくて身悶えしているニコルをユッテがまた羽交い絞めにしていた。その様子を笑いながら見ていたハイデマリーは、どうどうとニコルを宥めながら言った。


「さて、貧乳同盟って言ったかしらぁ? そんな後ろ向きな同盟は解散しましょニコル? あなたってば可愛すぎる愛し子なのだし、キキに至ってはアルカンシエル全土を巻き込んだ美少女としてファンが大勢いるのよぉ?」


「ふふ、そうよ。大半の賢い男性は胸やお尻だけで女を判断なんてしないわ。逆にそれだけで判断したり、馬鹿にするような人は仲良くする価値もないもの。わかりやすい最低男の指標とでも思えばいいわ」


「うん、よくわかったよナデイヤ、ハイデマリー。ニコルもありがとう。貧乳同盟じゃないけど、でも悩みは一緒ってことだね」


ニコルは「そうそう!」と言って笑顔になった。アルマはどうもこの中で一番胸が大きいらしく、逆に愚痴り出した。


「大きいのもいろいろ悩みはあるんだってばァ……似合う服が限られるしぃ、ハーフカップの可愛らしいブラなんて夢のまた夢だしぃ。ちょっと服の選択を間違えるとあっというまに子狸みたいになっちゃうんだからァ。んあぁぁっ 何事もほどほど! それが一番だよおお!」


「あんたも落ち着けアルマ」


今度はアルマがおでこをユッテに抑えられ、じたばたする手足を空振りさせられている。なるほど、ニコルとアルマがレオナとアイラで、ユッテがペティだ。この三人の役割分担が判明した気がする。


なんだかこんなにたくさんの「私をよく知っている女性たち」と話した経験がなかったかもしれない。ユリウスが一生懸命言っていた「キキの物差しは一般的ではないし、他にたくさんの見方というものがある」ってことがわかった気がする。


――こんなことで、私は躓いていたんだな。こんなことで、今までユリウスやヨアキムを困らせていたんだな。体型が貧相だとか、そんなことは大した問題ではなかったんだ。


「ふふっ あのね、私ここへ来てよかった。もう卑屈になんてならないで、ユリウスの隣にいることにするよ」


みんなに向かって、笑った。


するとユッテは満足そうな笑顔で「そうそう、あんたやっぱ賢いねキキ」と言い、アルマもニコルもうんうんと頷いた。


ナディヤもハデマリーもこくりと頷いて笑顔になったけど、さっきからリアは「私が比較対象になって全員が納得ってどういうこと!?」と悔しがっていた。それをフィーネが「まあまあ、キキの中では君が一番モテるだろうと予測されるくらい美しいのだよ? 自信を持ちたまえ」なんて慰めていたけど。


その最中に私が「ここへ来てよかった」と笑ったものだから、フィーネの病気が発症してしまった。


「ふおぉぉ、君はなんという笑顔を会得したのだいキキ! 婚約してきっと自信を持つことができたのだね、なんというエンジェリックスマイルだ!」


「レビ、ごめんね、助けてくれるかな」


迫ってきたフィーネをじりじりと避けながらレビのところへ行くと「わかったー!」と言って彼はフィーネへ抱きついた。


「ママ、ママ、キキ姉ちゃん驚いてる」


「ん? おお、これはすまないねレビ。身を挺してぼくを止めてくれるとは、やはりぼくの可愛い息子は最高だね」


……ごめんねレビ、人身御供にして。

今度またクッキー作ってくるよ……





  


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