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Transparent - 無垢の色 -  作者: 赤月はる
第四章 ZERO RANGE
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賢者たち sideキキ

  




ホールから出ると、そこは瀟洒なリストランテのような……ううん、それよりも解放感のある、広い空間。部屋の中なのにしゅっとした樹木や植物があり、居心地の良さそうなソファやテーブル、食事のできるダイニングという雰囲気もある。


そしてそこには、私たちを待ち構えていました!という顔をした面々が大勢いた。


「やあやあよく来たね三人とも! おぉ、キキはいつでも可愛らしいな! ユリウスは君を手に入れて、大勢の男性に恨まれてしまうのではないのかい?」


フィーネがいつものように立て板に水といった勢いで話しかけてくる。それへ「こんにちはフィーネ、おじゃまします」と言った途端、そこにいた女性数人がキャアァァと言いながら殺到してきた。


「いらっしゃいみんな~! 会えるの楽しみにしてたんだよ! 私はヘルゲのつっつつ妻のニコル! よろしく~」


「ニコル、あんた慣れない自己紹介の仕方すんなし。私はユッテだよ、よく来たね三人とも。ほれ、こっち来なよ」


「いらっしゃぁ~い、ようやく実物に会えたよぉ! 次回からの創作イメージが湧いてくるなぁ! あ、私はアルマ! この服作ったの、私~」


「「「 え!? 」」」


「その話はあとでいいっしょ、ほれほれ、立ち話もなんだからさ」


私たちはヘルゲの奥さんが可愛らしいことに驚き、「賢者便」で送られてきた服がアルマという人の作と聞いて驚き……そしてなによりこの場にいる人たちがほぼ全員「白縹」であることにも驚いていた。


ヘルゲの瞳を見てわかっていたつもりだったけど、アルマの瞳はピンクっぽい紫だったし、向こうにいる男性数人の瞳はオレンジだったり黄色だったりすることに目を奪われる。


しかもレビといっしょにきゃいきゃいと私たちの手を引いてソファへ座らせてくれた子の二組が双子で、両方珍しいミラーツイン。そして四人ともオッドアイ。

さらに目立つのは銀髪に紅い瞳の、ヘルゲのミニチュアみたいな子。そしてレビと仲良さそうな、赤毛に真っ青な瞳の子。そのお姉さんだという黄金でできたみたいな女の子。


……ずいぶん、レビと同じくらいに可愛い子がいるものなんだなあ……

あ、デミがおかしいのか。


私たちが呆然とソファへ座って目を見合わせていると、飲み物を持ってきてくれた金髪に青い瞳の人とヘルゲが目の前に座った。


「えーっと、初めましてだね。僕はアロイス・白縹です。ヘルゲがいつもお邪魔してるね、ありがとう」


「……いや、俺たちこそ、ヨアキムに拾われてあのメゾネットで働かせてもらってるから」


「あはは、そんなに警戒しなくってもいいよ。一応先に言っておくと、僕らはヴァイスの中の一部隊……って感じかな。僕が取りまとめ役で、みんなここに住んでいます。もちろん、ヨアキムもね。で、秘匿レベルは軍の基準で言うところの最高機密にあたる。なのでよそではどうぞご内密に」


「アロイスっつったか、何か勘違いしてねぇ? 俺らはデミの人間だ、そんな重い頼みごとを取引きもなしで交渉とか、頭イカれてねえか?」


ギィがじろりと油断なく周囲を見る。でもこれはギィが相手を推し量る際の枕詞みたいなものだ。私もジンも気付いているけど、赤と緑の瞳をしたガタイのいい双子と、オレンジと黄色の目をした二人。この四人がいる限り、私たちは何かあったら無事に工房へなど帰れない。


ヨアキムやヘルゲ、フィーネやアルという信頼できる人がいるから落ち着いていられるだけだもの。


でもアロイスはそんなギィの言葉にくつくつと笑いながら「さっすがギィだね~」と言った。


「そんな小細工しなくたって、僕らは君たちが秘密を守ってくれるとわかってるからここへご招待したんだよ? じゃあそろそろ種明かししてもいいよね、みんな」


アロイスは周囲を見渡すと、こほんと一つ咳払いをした。


「アイン、ちょっとおいで~」


「はいよーっ おう、新規のお客さんかい、らっしぇい!」


「……賢者が膨らんだ……」


私たちの工房に設置されている、小さな「賢者」。それが人間の子供ほどの大きさになって、ぽよんぽよん歩いて、おじさんみたいにしゃべっている。どういう……こと?


呆然としていると、ヨアキムがくすくすと笑って私たちへ言った。


「三人ともすっごくいいビックリ顔ですね~。つまりですね、ここにいる面々が全員『賢者』なんですよ」


「そういうこと! 僕とこっちのナディヤは料理やハウスキーピング担当だね」


「ふふ、初めまして。キキ、アイスボックスクッキーは上手にできていたってフィーネから聞いたわ。おいしかったでしょう?」


「……うん、あれはいつも作って、お友達にも差し入れしてる。評判いいの……」


「あら、嬉しいわ」


ほんわりと笑うナディヤも紫のキラキラした瞳をしていて、優しい人だった。すると黙っていたヘルゲが苦々しい顔をしてギィを指さす。


「ようやく文句が言えるぞギィ。お前なあ、賢者が何でも知ってるのが悔しいからって滅茶苦茶に質問の入力しただろう。あれの回答担当は俺とフィーネなんだ。大変だったんだからな……」


「ぶっは、マジかよ! 悪ィな、でもバカなデミのガキの質問だ、たいしたことなかっただろ?」


「ふざけるな、『なんで人間って簡単に死ぬんだ?』なんて形而上学や哲学みたいなことを子供にどう説明すればいいのか死ぬほど悩んだぞ……」


「あれな! でも『生きてるやつはいつか死ぬ。簡単に死ぬかどうかは本人の心がけ次第』っての、なるほどなって思ったぜ? それにしても……あれヘルゲだったのかよ、言われりゃそれっぽいな! ぶはは!」


ヘルゲの困り顔を見て、私たちはなんだか面白くなって笑い始めた。するとさっきのアルマが来て、真上に手を挙げた。


「はいはーい、さっきも言ったけど、私が服飾担当のアルマでぇっす! いつもユッテやニコルと一緒に三人の服を相談して作ってるよ!」


話を聞いてみると、私たちが子隠れの穴で初めてヨアキムにもらった服もアルマが作ったのだそうだ。

……ほんとに、最初の最初からお世話になっていたらしい。


他にもあのパピィを作ったのがヘルゲとフィーネで、あの体術指南書やパピィに入っている体術データは闘気がすごいあの四人。勉強に関することは美人のリアという人。


そして、リアを見て初めて気づいた。ここにいる数人は、マナ・グラスのポスターモデルだ……





こうしてほぼ全員の紹介というか、正体を教えてもらった後で赤毛のきれいな人がそっと私の側へ来た。


「キキ、あなたを捧げるたった一人の人……見つけられてよかったわね。婚約おめでとう」


驚いて振り向くと、艶っぽい笑顔が見える。燃えるような赤い髪と金色の瞳を楽しげに揺らめかせ、私はハイデマリーよと彼女は言った。


「ハイデマリー……あの、ありがとう。あの言葉は、私には、大切な言葉だった。最初は意味がわかってなかったけど、でも……あれは大切な言葉、だった」


「あぁ~ん、素直ねキキ。賢いあなたならわかってくれると思ってたわぁ」


私はハイデマリーから、こっそりと下着を私へ送った経緯や、ユリウスとヨアキムがどれほど私たちを守るためにここで相談していたかを聞いた。でも特に私に関することはハイデマリーたちに頼ることも多く、私の健康や、女性特有の悩みはほぼ彼女やナディヤが受け持ってくれたのだとか。


「初潮が来た時、そういえば泣いて頼った」


「ふふ、そうねぇ~。あれはナデイヤが答えてたのよ、ね?」


「ええ、あの時は怖かったわよね、キキ」


「うん……いま思うと大したことではないのにね。無知って、ああいうことになるんだね」


「仕方ないわ、学舎へ行ってる女の子はそういうことがあると習うけど、あなたは知る機会がなかったのですもの。私は元々ナニーの仕事をしていたから、これからも何かあったら相談してね?」


「――うん、本当にありがとう。きっとたくさん教えてほしいこと、あると思うから……お願いします」


「ふふ、もちろんよ。さ、みんなあなたと話したくてしょうがないみたい。こっちに来て?」


私は二人に手を引かれ、フィーネやリア、そしてニコルたち三人や子供たちがいる輪へと入っていった。そこには楽しくて、優しくて、あたたかいものがたくさんあった。






  

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