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Transparent - 無垢の色 -  作者: 赤月はる
第二章 ユリウスの事情
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対策本部へ依頼

  





私はキキを工房へ送り届けてすぐに、猫の庭へ大急ぎでゲートを開いた。手を挙げて「よ、ユリウスじゃん」なんて軽く挨拶してくれるカイたちに私も手を振って軽く返す。


きょろきょろして探すのは、もちろん頼りになる女性陣だ。工房のハウスキーピングに関することならナディヤ、勉強に関することならリア、服飾に関することならアルマにユッテにニコル、そして女性心理にはハイデマリー大先生!


涼しいけど透けない服装だけならアルマに頼めばいいと思ったけど、ノ、ノーブラ問題って誰に言えば……


キキのばか! キキのあほ! 警戒心のカタマリみたいな子なのにあんなところで躓いて無防備だなんて! ああでも、そんなところも純真無垢さが出ていて可愛いと言えば可愛い。いやいや、ダメに決まってる、不特定多数のあのだらしない男どもの顔は私の脳内血管へ大ダメージを与えるほど腹立たしい。あの男どもは死滅すればいいが、キキは守り切らなければ。


――だめだ、私は怒りに我を忘れているな。


ハイデマリー大先生へ頼るべき案件と見た。



「……ハイデマリーは?」


「んあ? さっきウゲツに呼ばれて部屋へ行った気がすんな。おーいナディヤ、コーリングでハイデマリー呼んでやってくれや」


「はぁい」



ナディヤが厨房備え付けの呼び出し専用通信を使うと、ハイデマリーはすぐに一階へやって来た。

挨拶して、さあ話そうと思ったけど。


何をどうやって、話せばいいんだ……!?



「……ユリウスぅ? なんか難しい顔しちゃって、深刻な問題なの?」


「う……えっと……キキが」


「ん、キキが?」


「可愛すぎて困ってる」


「私、部屋に帰っていいかしらぁ?」


「ちが……違うんだ! そうじゃなくって、困ってるんです! キキってばあんなに可愛いのに、無防備なとこがあって、困ってるんです!」


「無防備って、どんなところ? あの子はデミで育ってるんだもの、隙なんて簡単に作らないでしょ?」


「それが……! もしかしたら自分が魅力的な子なんだって、わかっていないかもしれないフシがある。何人もの男に注目されてしまうほどのきれいな子なのに、デミを一歩出れば自分になんて誰も注意を払わないだろうと思って油断しちゃうんだ!」


「あらぁ……で、キキが何をやらかしたからユリウスはそんなに必死になってるのお?」


「何を……何をって……だから……」


「もお……ユリウス? きっと言いにくいことなんでしょうけど、私は笑わないわよ? キキたちを守りたい一心のヨアキムとユリウスが、キキに邪な気持ちを持つとも思わない。言葉にするのに抵抗があるなら、映像記憶で一部始終を見せて?」



はい、降参です。


私は今日のシュピールツォイクでの出来事から工房へ帰るまでの一部始終をハイデマリー大先生へ提出した。そして大先生は「あら……なるほどね」と微笑み、しっかりと頷いた。



「ん、了解したわ。キキは成長曲線が同年代より少し遅れがちだから、もう少し先の話だと思って油断してた。ごめんなさいねユリウス、私たちも迂闊だったわ」


「お世話をかけます……ちゃんと説明できなくてすみません」


「ふふ、あなたは良識のカタマリですものね。言いにくくて当然よ、気にしないで。アルマたちに言って、すぐに対策するから安心してちょうだい」


「ありがとう! ほんとに助かるよ……」



大先生のお墨付きをもらって、本気でホッとしたよ。


それにしても今日のあの数人の男ども……思い返すだけで腹が立つ。

このまま中枢会議所にでも行ったら、私は「氷雪」じゃなくて「豪雪」になってしまいそうだ。

あいつらと同じ人種のオイゲンあたりに会ったら、脊髄反射でニブルヘイムクラスの攻撃をすると思われる。


いけない、いけない。


こんな時はもちろん、A-601号室へ直行だ。



「やあ、みんないつも通りかわいいね。そうだ、ブランも呼ぼう」



最近シュピールツォイクへ行く時はブランを置いていくことが多くなった。

かわいそうなんだけど、どうもカスタマイズ型ポムの中でサモエドっていうのがブランしかいないみたいなんだよね。


ぬいぐるみ屋CutieBunnyの店長であり、このシュピールツォイクの代表者であるイザベルさんは筋骨隆々の……そう、たくましくも優しい方だ。そのイザベルさんは「えーと、きっとブランが神々しいから、みんな気後れしてるんじゃないかしらあ?」などと言っている。


店にサモエドのぬいぐるみ自体は在庫もあるのに、あんなにかわいい子がポムとして選択されないのは不思議で仕方ない。


しかしブランがいるから気後れしているなどと言われたら、店で買ってくれるご主人を待ちわびているブランの仲間が可哀相になってしまう。だから効果があるかはわからないけど、ブランを連れて行く回数を減らしてみたんだよ。


自宅にゲートを開き、ブランを呼ぶとすぐにやってくる。


わふわふと甘えて来て、その真っ白い体を撫でてから抱き締めてあげると、本当にこう……心が滑らかになるというか何というか。



「ブランがいて、本当に良かったよ……それにこの部屋のかわいい子たちがいなければ、今回の件でしばらく立ち直れないところだ」


「きゅーん?」


「あは、大丈夫だよブラン。君たちと同じくらい可愛がっている子がいるんだけどね、もうその子にはぺっとりさせちゃいけないからさ。淋しくなるけど仕方ない。だから、ブランがモフらせてね」


「わふん!」



私は思う存分モフモフを堪能し、キキのぺっとりがなくなってしまった淋しさを癒してから自宅へ戻った。






  

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