54.余暇
悪者の死体を片づけるのは損な役回りだとエメレイは思う。
大体は凄惨な姿で放置されていて、こぼれた内臓やらが血とは違う悪臭を放っているからだ。感触だけでも気持ち悪いのに、その汚れと臭いがなかなか取れない。
幸いなのは、ここが北の地であるということか。
寒いおかげで腐りにくい。南の方ならもっと悲惨だった。
仄白い朝日に照られされた死体たちについて、エメレイは深く考えないようにしていた。
いちいちこだわっていてはキリがない。
割り切るというのはエメレイがもっとも得意とすることだ。
なんだかんだ慣れた手つきで片づけながら額の汗を拭った。
「エメレイ。生きてるやつはいたか?」
同じく死体を片づけていたアヴィーブが気晴らしとばかりに声をかけてくる。
いや、実際に気晴らしなのだろう。酒の匂いがする。
この男はこういった作業が苦手なのかもしれない。
「いや、全滅だな。綺麗に殺されてるよ」
「すまんな、俺らが殺したやつはひどいもんだろう」
「この顔面が潰れてるやつか?」
「おい……見せるなよ」
「自分のやったことを見とけって。ちょっとは上品な殺し方を覚えるいい機会だろ」
「殺しに上品も糞もないだろう。そう言いたくなる気分もわかるがな」
アヴィーブは長い髭を撫でながら、辺りを見まわした。
昨晩の戦いから日が上り、まだ雪の残る集落には死体が散らばっていた。
ほとんどはこの集落を乗っ取っていた襲撃者たちだ。
早々に逃げ出した一部を除いて、敵は全滅だった。
死体を確認したところ、西の異民族であることは間違いないらしい。
需要がないのに手に入りにくい西の装飾品の数々を死体が着けていたからだ。
報復を恐れる住民たちは簡単に説得できた。
理屈が通っているからだ。奴らは情報を持ち帰る必要がある。
わざわざ帰ってきて数人を殺すより、帰って状況を報告するほうが合理的だ。
隊商の関心もすでに異民族たちから離れていた。
西方までの帰還を目指す相手を追っても利がない。
雇った傭兵をいくつも失ったあとに、勝ちのない賭けをしたところでしょうがない。
エメレイとしても、興味はそこになかった。
アヴィーブの困ったような顔に共感する。
この場にある死体の半分近くを生み出した一人の少女のほうが、今は話題の種になる。
「あの娘っ子はとんでもないな。お前の紹介なんだろう?」
「いや、俺もあそこまでとは知らなかった。腕が立つ奴ではあったが」
「そうかぁ。正直な、俺は苛立っていたんだ。こんなチビの娘がいたところで変わらんだろう、誰が連れてきたんだ、とな」
「まあ悪いところはないんだが、甘いやつではあるのは違いねえな。俺も知らねえガキなら同じ感想が出ると思うぜ」
「だが、昨日はその甘さも見えなかった」
「昨日も途中までは直接的な殺人は避けていたさ。大体最後を仕留めるのは俺か、もう一人の男だった」
話しながら、思い出す。
実際、途中までルフィアの動きはぎこちなかった。
集団で動く経験が少ないのか、その場で出来る精一杯をしているような拙さがあった。
視野が狭いといえばいいのだろうか。
ほとんど前方しか見えていないような動きばかりだった気がする。
実際それでいいとも思っていたし、殺すのは自分とオルレニアがやればいいと考えていた。ルフィアの甘いところはエメレイも気に入っていたからだ。
しかし敵が人質を取ってからのルフィアはまるで別人だった。
いや、別人になったというほうが適しているかもしれない。
怒りは人を変えるとはよく言ったものだ。
雰囲気が違うとか、本気を出したとか、そういう感じでもない。
隣で妙な顔をしていると思っていたら、とんでもない速度で人質を救い出した。
それまでの動きが嘘みたいに鮮やかな太刀筋で数人を切り捨て、その場の敵が全滅したと思ったら、血の匂いがする方へ行ってしまった。
雲の切れ間から差した月明りがやけに白い容貌をより際立たせていた。
正直、不気味だった。
見開かれた瞳は真っ赤で、赤く輝いていた。
あれは血の色だろう。瞳に色がないから、血の色が透けているのだ。
暗いなかで刀身が動くたびに瞳の赤を反射して、赤い線が走った。
赤い線が動くたびに、敵が一人倒れていた気がする。
結局ルフィアは集会所のあたりまで進行し、近づくすべての敵を切り捨てていた。
器用に目のまわりだけは血を浴びずに、ただ全身は血まみれだった。
劣勢だった遊撃隊は増援に感謝していたが、誰も理解が追いついていなかっただろう。
舞うように場を荒らし、それでいて通りすがる敵は全員殺す。
あの場はまさにルフィアの独壇場だった。
「結果的には助かったが、見せ場を持っていかれてしまった」
「あいつを紹介した俺からすれば、面目が保たれて安心だ。なんとなく気まずかったからな」
「紹介とはいうが、どこであんな奴を見つけてきたんだ。まだ若いが見目も悪くないじゃないか」
「雇い主の対立が原因で二回ほど殺されかけてね。南のほうでは怪我の功名っていうらしい」
「殺されかけた、で済んだのか」
「甘いやつだったからな。二回も敵対した俺と手を組んだあげくに隊商の斡旋まで求めやがった。恨みを買わないにこしたことはねえからまあ頷いたわけだが、よくわからんやつだよ」
「度量が大きいのか、間抜けなのか。しかしあの見目は十分に人目を引く。上手くやればいい旗頭になるかもしれんぞ」
「女に旗頭が務まるもんかね」
「アルターリを見て回るといい。あそこは常識が通じない町だ」
「聞き飽きた文句だな。常識が通じたことのほうが少ねえんだよ」
肩をすくめながら古びた橇に死体を乗せる。
どさっという音でアヴィーブも切り替えて、作業に帰っていく。
エメレイは足元に転がっている死体の懐から錆びた貨幣を抜き取り、鼻を鳴らした。
綺麗すぎる死体だ。心臓のあたりに一突きされた痕がある。
これをやったのはオルレニアだろう。
得体の知れないあの大男は、昨日の戦いでは随分加減していた気がする。
ルフィアに迫る敵と明らかな精鋭だけは片づけていたが、それだけだ。
過保護なわりには控えめな印象だった。
ただ、気になるのは昨日のルフィアの行動を止めなかったことだ。
敵のなかに飛び込んでいくような無謀な動きをあのオルレニアが止めないのはなんとなく違和感がある。
もちろんルフィアの近くにはいたが、その位置取りも妙だった。
オルレニアの動きは目で追うのが精いっぱいだが、それにしても何かがおかしい様子だった。
とにかく奇妙な夜だった。
まともに考えて動いていた者はほとんどいないだろう。
未だに、なにか夢でも見ていたような気分になる。
白く美しい少女が血だまりに立っている光景は様になっていた。
長いまつげの先に赤いしずくを付けて、息は乱れていたが、無機質で。
間違えて白雪の精が迷いこんだのかと思うような、そんな奇妙な夢のような。
「いいね、詩でも作ってみるか」
独りごとを口にしながら、エメレイは空を見上げた。
やったことはないが、吟遊詩人の知り合いは多い。やってみればできるだろう。
曇り空続きの毎日で今日はずいぶん天気がいい。
遠くに雉の姿が見えて、馬車のなかでの会話を思い出す。
今はいらないなと笑いつつ、死体の片づけを続けていく。
◎◎◎◎
日差しが眩しくてルフィアは目を覚ました。
いつの間に寝たのか、そんなことすら曖昧だった。
大量に人を殺したことは覚えている。
やけに頭のなかが冷静だったから、そのときの光景も忘れていない。
頭が痛い気がする。
ルフィアは前髪を退けながら、身体を起こした。
目を覚ますとどこかの部屋にいる、という経験もこれで何回目だろうか。
寝台がひとつ置かれているくらいの小さな部屋だった。
天井が低いのは、元々が平屋だった名残りかもしれない。
埃と木の匂いがして、どこか懐かしさを感じる。窓戸が壊れてしまっているようで、ぽっかりと空いた四角の穴から日差しが入ってきていた。
「どうしていつも、こうなるんだろう」
呻くようにつぶやいている間に思考が開けてきた。
昨日のことが少しずつ頭に浮かんでくる。
人質の少女を助けた後は、ひたすら戦い続けた。
剣の冴えはこれまでで一番だったかもしれない。
心臓の音がずっと聞こえていた。それくらい、激しい血が流れていた。
敵をあらかた片づけたあとは、へとへとに疲れながらどこかへ歩いた気がする。
咄嗟の判断ばかりで動いていたから、そのときの考えまでは思い出せない。
路地裏に入って、地面に剣を刺した。
音を聞いて、静かだと思って。
それから気を失ったような。
「……オルレニアさんかな」
誰が運んでくれたのかは悩む余地がなかった。
俯いて、深くため息を吐く。罪悪感が喉を通って音になる。
こんなことをしても、自分が少し楽になるだけだ。
あとでオルレニアにちゃんと謝ろう。
身体が痛くないのは、寝台で寝られたからだろう。
昨日の疲労感を思えば調子がいいくらいだ。
剣を支えにしたまま寝ていれば、きっと足は雪で酷く荒れ、二、三日は首回りの筋肉痛で動けなくなっていただろう。
立ち上がろうとして、肌着しか着ていないことに気付く。
たしか服は血まみれだったはずだ。脱がされたのだろうか。
最近、戦いの度にこんなことになっている気がする。
こんな綱渡りな生き方は求めていないのにと思いながら、自分が悪いところもあるので、誰かに対する不満はなかった。
ふいに扉がきしむ音がして身構える。
思わず武器を探そうとして、すぐにその必要がないとわかった。
「あ、」
入ってきた茶髪の少女が口をぽかんと開けていた。
長い三つ編みが揺れ、青くて丸い目がかわいらしい。
昨日、人質にされていた少女だ。
青い目が印象的ですぐにわかった。
少女は何度か瞬きをしたあと、抱えていた桶を取り落した。
「え、あ、えっと、あの、おじさんがね! おねえさんを寝かしてあげたいって! だから、それで、エリィの家、お部屋、空いてたから! ね! だいじょうぶ!」
まくしたてるように言葉を並べる少女に、ルフィアは瞬きをした。
わたわたと手を振っているのは、無害を示すためだろうか。
見れば、傍らにある桶には素朴な意匠の服が畳まれている。
なかなか起きないルフィアの様子を見に来たのだろう。
ルフィアが微笑むと、少女は両手を上げたまま固まった。
「お部屋を貸してくれたんですね。ありがとうございます」
「わっ、て、ていねいだっ――はいっ!」
軽く頭を下げると、少女は背筋を伸ばして返事した。
珍しい反応に、内心でそうかと呟く。
ルフィアの丁寧な言葉に緊張しているのだ。
「そんなに気にしないでいいですよ。ただの癖ですから」
「う、うん」
少女は頷いてから、桶を抱えあげた。
次の言葉を待っていると、黙ったまま動かない。
ルフィアは身体を傾けて、目線の高さを合わせた。
「オルレニアさんが、わたしを連れてきてくれたんですか?」
「え、えと、おるれにあって、あの、大きいおじさんのこと?」
「そうですね、黒くて大きくて、こーんな怖い顔をしてる人」
眉間にしわを寄せて難しい顔をすると少女の表情がやわらかくなる。
少女はルフィアが人を殺す姿を見ている。緊張するのは当たり前だろう。
体の位置をずらして、少女が座れるようにする。
ぽんぽんと敷布団を叩くと、少女は得心したようだ。
桶を持ったままルフィアの側に歩いてきて、寝台に腰掛ける。
「うん、そうだよ。おじさんがおねえさんを抱えたまま、なんだかこまってそうだったから、どうしたのってきいたの。そしたら、おねえさんを寝かしてあげたいって」
状況を想像して、またため息を吐きたくなった。
罪悪感に加えて羞恥まで登ってきていた。
ぐっとこらえて、手を握りしめるにとどめる。
「助かりました。わたし、気絶しちゃってたから」
「ううん、エリィこそ、おねえさんに助けてもらったから!」
昨日のことがそれほど重く響いていないような様子に、ひとまず安心する。
もし少しでも怪我をしていれば、これほど元気な顔は見れなかっただろう。
「エリィっていうのは、お名前ですか?」
「うん。エリーゼだから、エリィ! おねえさんは?」
「わたしはルフィア。ルフィア・エリンツィナです」
「あ、おねえさんもエリィって入ってる!」
「ふふ、一緒ですね」
「でも、エリィとはちょっとちがうね。もしかしておねえさんって、えらいひと?」
エリーゼは身体ごと首をかしげて、難しい顔をした。
えらいひと、というのは、身分が高いという意味だろうか。
「どうしてそう思うんですか?」
「ことばが丁寧だし、お名前が長いし、きれいだから!」
「なるほど。言われてみれば、そうかもしれません」
「あと、すっごくつよいから! お父さんより大きい人たちをこう、するするーって倒していっちゃって! かっこよかった!」
「それは……えらいんですか?」
「えらいひとは強いんだよ! それで、えらいひとなの?」
身を寄せて興味津々なエリーゼに苦笑する。
実際はなにも偉くなどないのだから、どうしたものか。
夢を壊したくはないが、嘘をつくのも気が引ける。
丁寧な言葉を使っているのは、そのほうが都合がいいとゲルダンに教えこまれただけだ。
髪を伸ばしているのは売ればお金になるからで、剣が上手いのはそれしかなかったから。
苗字だって、ヴァロータならそう珍しいものでもない。
ルフィアと同じ苗字は聞いたことがないが、探せばすぐに見つかるだろう。
実際の事情を考えてみれば、自分はつまらない世界に生きていると思わされる。
つまらない人間が嘘をついたところで面白くはできないだろう。
正直に言ってしまおう。
「ごめんなさい、別にえらくないんです。わたしはただの傭兵ですよ」
それにルフィアは傭兵をやりたくてやっているのだ。
傭兵であることを隠すのは、自分を裏切っているみたいで落ち着かない。
「ようへいって、あの怖い人たち?」
「そうですね。大体は大きい男の人で、怖かったり、武器を持っていたり、お酒を呑んでいます。あと、お金が大好きですね」
「おねえさんは?」
「どう見えますか?」
「きれいで、かっこいい!」
「じゃあ、わたしはきれいでかっこいい傭兵です。それに強い」
「えー! いいなあ!」
ルフィアが力こぶを作る素振りをすると、エリーゼは目を輝かせて笑った。
自分より幼い相手と話すのは久しぶりだ。
多くの町では傭兵に子どもを近づけるなんてことはありえない。傭兵側もそれをわかっているから、子どもには近づかない。
珍しい出会いは思ったよりも楽しい。
エリーゼに頼まれて剣を振る所作を見せたり、丁寧な言葉を教えたり、見た目より力があるところを見せたりしているうちに、しばらく時間が経ってしまった。
エリーゼが喜んでいるのはいいことだが、話ばかりしていてもいけない。
「そういえばエリーゼさん、ほかの人たちがどうしてるかわかりますか?」
「んー、ふふ、エリーゼさんが教えてあげる! えっとね、たいしょう、から来た人たちは、大人のお話してるよ。黒いおじさんは下の部屋でお父さんと話してるし、お母さんはおねえさんの服を洗ってる!」
「物知りなんですね。きのう――いえ、その服は、わたしのために?」
「うん! おかあさんのだけど、あげるって」
「なんだかお世話になってばかりですね。ありがとうございます」
昨日あなたを捕まえた人たちは、と訊こうとしてやめた。
エリーゼがこれほど元気なのは昨日のことを深く咀嚼していないからだ。ショックが強かったからなのか、ルフィアの姿が印象的についたからかはわからない。
ただ無暗に触れて、思い出させるべきではない。
少なくとも今はそれがいい。
「それではエリーゼさん、わたしは元気なので、次のお仕事をしましょう。オルレニアさんのところに案内してくれますか?」
「ははっ! ええと、かしこ、まりましたっ!」
寝台からぴょこっと立ち上がり、エリーゼは桶を抱えあげる。
服を受け取って着てみるとすこし大きかった。裾を絞って胴回りを合わせる。
とことこと歩きはじめるエリーゼの背中についていく形で、ルフィアも歩きはじめた。
足の感覚は明瞭で、疲労の影響はほとんどない。
頭がふらつく感覚もなく、昨日の状態から考えるとかなり調子はよかった。
部屋を出ると目の前は階段だった。
暖炉の炭の香りと、吊るされた香草の匂いがする。
天井が高い平屋だったところに二階を作ったような構造だ。
すぐに居間の机を挟んで座る二人の影を見つけることが出来た。
「お父さん! おねえさん、起きてたよ!」
エリーゼが大きな声を上げると、二つの人影が顔をこちらへ向けた。
一つは素朴な顔をした男性だった。三十をこえたくらいで、エリーゼと同じ青い瞳をしている。
恐らくエリーゼの父親だろう。
もう一つは見慣れた、人を殺せそうなくらい険しい顔だった。
負い目があるせいか、少し怒っているようにも見えて、ルフィアは目をそらす。
エリーゼの父親は飛びつく娘の頭を撫でてから、疲れの見える笑顔を浮かべた。
「これは、無事に目が覚めたようでなによりです。オスカーと申します」
「お部屋を貸りてしまったようで、ご迷惑をおかけしています。ルフィア・エリンツィナです。傭兵をしています」
オスカーと名乗った男は傭兵という単語を聞いて、顔に驚きを表した。
こんな少女が、とでもいうような顔だ。
見慣れた表情にして、ルフィアが苦手とするものでもある。
「傭兵ということは、やはりあなたがうちのエリーゼを助けてくれたのですか?」
「……結果的には、ですが」
「ずっとそういってるでしょ!」
曖昧な笑みを浮かべて返事すると、オスカーは不服そうなエリーゼを少し離れさせて、震える息を大きく吸い込んだ。
「そう、ですか……」
信用ならないのかと思ってみていれば、オスカーは破顔した。
「本当に、本当にありがとうございます……この、通りです!」
そして勢いよく膝をついたかと思えば、体を思い切り投地させた。
勢いの分だけ音がなり、びくっと反応してしまう。
とりあえず階段を下りて、オスカーに歩み寄る。
「娘を連れていかれ、もうだめかと、本当に、諦めて――ありがとう、本当に、ありがとうございます!」
悔しさに嗚咽が混じったような声だった。
ルフィアは驚きと同時に、困惑が立ってしまう。
言っていることはわかるが、ここまでされることではない。
ルフィアがエリーゼを助けたのは気まぐれと言っていい。
もう少し落ち着いていれば、アヴィーブの行動を待って見殺しにしていた可能性もあった。
そんな思考を持っている、それも傭兵に、こんな感謝はふさわしくない。
「ええと……」
ルフィアが返答に困っていると、オルレニアが口を開いた。
「オスカー殿、先ずは状況を把握させてやれ」
「ああ、これは失礼を、座ってください。すぐになにか、食事を用意させますので、詳しい話はそこで」
「は、はい。こちらこそ、失礼しますね」
「なにもない家ですが、ごゆっくりなさってください。エリーゼ、おいで」
オルレニアの隣に腰掛けると、オスカーはエリーゼと共に厨房に入っていった。
厨房のほうから話し声が聞こえてくる。
エリーゼの母親がいるのだろう。
落ち着かないまま隣のオルレニアに視線を向ける。
いつも通りの、怖い顔だ。
「また、手間をおかけして、ごめんなさい」
つぶやくように言えば、オルレニアの表情が和らいだ気がする。
怒っているわけではないようだ。
「状況は貴様で完結して居た。気にする事は無い」
「ですが、結局オルレニアさんに助けていただきました。不甲斐ないです」
「我が勝手に手を出したまでだ。貴様が辿り着いた場は通りの死角にあった。貴様自身の行動に抜かりは無かろう」
「抜かりはあったと思います。そこまで思考が働いていたわけでもありません」
「結果が全てだ。貴様は正しい行動をした。敵は敗走に在り、貴様には仲間が居る。意識を失ったとして、貴様を害する者は居らぬ」
話しながらオルレニアは手元にあった木の茶杯を持つと、朱色に光らせた。
すぐに茶杯から湯気が立ちはじめる。色の力だ。
「己を褒めてやれ。よくやった」
いつもより数段、やわらかい声だった。
聞きなれない声に驚いて、言い返す声も出なかった。
差し出された茶杯に入っている液体からりんごのような甘い香りが漂ってくる。
体から力が抜けていくのを感じる。
お茶だろうか。黄色い粉が底に沈んでいた。
ヴァロータやプラーミアでは見たことがないものだ。
「我に出された物だが、口は付けておらぬ。毒は無い。貴様が飲むといい」
「これ、なんでしょう」
「花茶の一種だ」
口にすると、甘い味とほのかな薬草の香りが広がった。
温かい飲み物がお腹のそこまで伝い落ちていく。
自然と口が空いて、深い息が洩れた。
ほっと全身から力が抜けて、肩が落ちる。
視界が潤みはじめる。
なぜか涙が出てきてしまった。
「何があった」
変わらない声色でオルレニアに問われる。
ルフィアの突然の行動に対する言葉だろう。
咎められるかと思っていたが、そんな感じはしない。
思わずのうちに悲観的になっていたのかもしれない。
目元を拭い、何度かまばたきをする。
涙はすぐに止まっていた。
「わからないんです。なぜか、あの人質の女の子を見たときに、すごく、変な感じになってしまって」
「今ならば、其の理由は分かるか」
「なんというか、突然、許せなくなったんです。異民族の人たち……といえばいいんでしょうか、相手方のことを。人質をとったからとか、格好悪いとか、後からならいくらでも理由をつけられるんですけれど、あのとき何に怒っていたのかは結局あまりわからなくなってしまいました」
「そうか」
自分でも整理のついていないことを口にしてみても、やはり上手く言えない。
実際、あのときの感情は後から考えてみてもわからない。
戦士として誉れのない戦い方をした相手のことは気に食わないが、そんなことはよくある。
たとえ許せないと思ったとしても、そのあとの行動が問題だった。
平常のルフィアならあそこで勝手に動くようなことはしないだろう。経験は浅いが、人質をとられるような場面には何度か遭遇している。そのときは動かなかった。
思い返しながら黙っていると、オルレニアが腕を組んだ。
「あの時、貴様は我が視界から消失した」
そして、絞り出すように声を上げる。
「消失した、とは?」
「言葉の通りである。気配、熱、貴様自身が発する音、視界に映る姿を含め、全てが消失した。周囲への影響から貴様の位置を特定したが、見えぬが故に致死に関わる相手以外を止め遅れた」
オルレニアの顔を見上げれば、青筋が浮かびそうな渋面をしていた。
刺すような気配を感じないのは、その怒りが内側に向いているからだろうか。
「不甲斐無きは、我に在る。まこと愚かの極みであろう」
握りこんだこぶしの周囲が揺らめいて見える。
怒気が文字通りにあふれ出ているのだ。
かたかたと茶杯が揺れはじめ、ルフィアは慌てて首を横に振った。
「本当に危険な相手を止めてくださったのなら、それで十分です。なにが起きたのかはわかりませんが、オルレニアさんの落ち度では絶対にないです」
「……貴様のそう云った言葉が、己に向けば良いのだがな」
直前までの怒気が嘘かのように消えていく。
オルレニアくらいになれば、感情の制御くらいは容易いらしい。
「然し、省察せねばなるまい。我も途上に過ぎん」
それだけ言う頃には、オルレニアは元に戻っていた。
こだわりが強いのだろうか。ルフィアを立派な傭兵にするという役目にここまでの感情を持っているとは思わなかった。
少し嬉しい気持ちもあるが、喜んでいてはいけない。
ルフィアも昨日のことをよくわかっていないのだ。
オルレニアのいう通り、二度はないように注意して自戒しよう。
「わたしは、どうにか意識を失わないでいられる方法を探そうと思います」
「引き際を知れ、己が身を労わるが良かろう」
「わかってはいるんですけど、上手く、できないので」
オルレニアの端的な指摘に気まずくなって顔をそらす。
身体が劣っているから無理をする癖は昔からだ。
今更どうやって治したらいいのだろう。
追い詰められるから無理をするのであれば、追い詰められなければいいのか。
それが出来たら苦労はしない。なにか、新しい考え方が必要なのかもしれない。
思考がぐるぐると回りはじめて、ルフィアは頭を抱える。
「おまたせしましたーっ!」
大きな足音とともに厨房のほうからエリーゼたちが現れた。
ふわりと羊乳の香りがして、思考が上塗りされる。
まるで頃合いを図ったかのようだ。
「はい! これ、おねえさんの分ね!」
「ありがとうございます」
具だくさんの煮込み料理がたっぷりとよそわれた器が置かれ、胡桃が混ぜこまれた茶褐色のパンと蜂蜜パンをエリーゼから渡される。
かなり奮発してくれたようだ。
隊商から購入したのだろう果実もある。こんな食事がこの家の食卓に並ぶのは年に一度あるかないかといったところだろう。
「すみません、遅くなりました。お口にあえばよいですが」
「すごく美味しそうです。ありがとうございます」
「歓待、感謝する。頂くとしよう」
食事が目の前に出てきてようやく、自分の腹が空ききっていることに気づいた。
オルレニアが早々に手をつけたのを見て、匙を持つ。
乳白色の煮込みから魚の身を掬って口にすると、さっぱりとした味が広がった。
鰊だ。このあたりの川は鰊の通り道なのだ。
よく煮込んであるおかげで臭みがなく、ほろほろと崩れて食べやすい。
骨を感じないのは、砕いてあるからだろう。手間暇かけてくれたのだ。
「おいしい?」
「うん、すごく美味しいです」
「おかあさんは料理が上手だからね! んふふ」
エリーゼの隣に座る物静かな茶髪の女性が恥ずかしそうに笑う。
「本当に美味しいです。売り物に出来るくらい」
「美味には違いないが、全てを金に結び付けるは傭兵の悪癖であるな」
オルレニアの指摘にあっと声を上げれば、オスカーが笑った。
そうやって始まった団欒は、暖かいものだった。
エリーゼの口がよく回るので、話題には事欠かない。オスカーは口を開くたびに感謝を述べてきた。機嫌が悪くなるほどではないがこちらが困っていると、オスカーの妻であるイルメリが仲裁をしてくれた。
エリーゼは元気だが、腕白ではなかった。食事が終わって手持無沙汰になっても決して騒いだり外に出て行ったりすることはなかった。
人質にされた状況であれほど落ち着いていられたのだから、本当に聡い子なのだと思う。
食事を終えた後、手を引かれて一緒に踊っていると、手から伝わってくる温もりに命を感じた。
ルフィアがあのとき行動しなければ、この手は冷たい灰色になっていた。
「ルフィアさんは、なんで傭兵してるの?」
「わたしを助けてくれた人と同じように、わたしも人を助けてあげたいから、でしょうか」
ふとした質問に答えたとき、心が軽くなる気がした。
そうだ。
ちゃんと出来た。
あのとき、自分を助けてくれた傭兵たちに報いれた。
エリーゼを灰色の死体にせずに済んだのだ。
後悔はたくさんあっても、今はそれでいい。
そうやって自分を納得させてもいいのだと、今に限っては思えた。
◎◎◎◎
トラン商工会の隊商が入ると、小さくない集落でも手狭に感じる。
道中での停留や移動のときは感じなかったが、この隊商はやはり大きい。
人の数だけでなく、運んでいる物の質も高い。
集落のなかを丘上に向かって一人で歩きながら、ルフィアは途中で買った胡桃を手のなかで遊ばせる。
建物同士の距離が離れているのは、このあたりの集落には珍しい。
元々町で暮らしていた人間が作ったのかもしれない。
表面を焼いた薪を道に埋めることで歩きやすくする工夫なども中々見ないものだ。
大移動の時期だけは手間をかけているのだろう。そうでなければ、舗装のためだけに木材を使うなんてことをする説明がつかない。
すれ違った傭兵に会釈すると、微妙な顔が返ってきた。
夕方になる前に隊商に戻ったときの反応は様々だった。
豪快に笑う商人、武器を売ろうとする者、死体を片づけていた傭兵は小言をぼやき、もちろん敵意を向けてくる傭兵や猜疑心を隠さない護衛もいた。
オルレニアが隣にいるおかげで目立った事をする者がいないのは新鮮だった。
一人ならからかうような口笛と嫌味がたくさん聞こえてきたところだ。
懐かしい感覚だと思う。
ルフィアが上手くいったとき、周囲の反応はいつも悪かった。
女というだけで下に見られるのだから、若い女の傭兵ともなれば、なにをしなくとも既に地に落ちている。
実際にルフィアの行動の結果を見た上でも、納得できないのが本音だろう。
昔は孤立しないためになんとかしようと頑張っていた。
それが無駄だとわかったのはちょうど一年ほど前で、集団での仕事を受けなくなったのも同じ頃だった。
いつも通り愛想を振っていると、複数人の男に捕まり、抑え込まれた。
服を剥がれ、足首の関節を外され、痛みに唸っていると首を絞められた。
男の腕を嚙み千切り、側にあった松明の火を自身の服に点けて逃げ出した。
服も道具も仕事もすべて捨てたが、命を捨てる気はなかった。
火傷と打撲が心を削り、無理やりはめた足首が気をくじこうとしていた。
それでも木の根をかじり、虫を食べ、泥混じりの水とぼろ布で命を繋いだ。
野獣を警戒している余裕もなかった。
町に戻れたのは運がよかったからだ。
ヴァロータの宿の女将に匿ってもらって、状況を理解したあとに何度も吐いた。
あれほどみじめで悔しかったことはない。
それ以来、周囲の反応にいちいち構わずにいられるようになった。
気持ち悪い視線の数々も想像を超えることはなく、手を出してきたら斬ることに決めていた。
女の傭兵が一人で生きるとはそういうことだと理解できた。
ただ、気にしないわけでもない。
先ほど食料を買い求めたときに、住民から微妙な顔をされたときは思ったよりも心に来た。
旅が長くなると、毛染めの色も落ちてくる。
大量に人を殺した傭兵という風聞は良くも悪くも奇異の目を集めてしまう。おまけに見た目が奇抜となれば、隊商の面々とはともかく集落の住人はルフィアに近づきたくないだろう。
有名になればこんなことも無くなるのだろうかと勝手な想像をしてみるが、そこまで楽観的な思考はできない。肯定と共に否定も増えるだけだなと一笑する。
集落に無数にあった死体は、すっかり片づけられていた。
エメレイと会ったときに聞いたが、死体が持つ汚れた道具を戦利品にしたらしい。
商人たちは汚れた道具に用がないようだった。
傭兵たちは死体を片づける代わりに、戦利品を得る。
商人たちとしても支払いが必要ないというのは都合がよかったのだろう。
死体の多くは燃やして捨てる。この集落ではそうなっている。
埋める手間も場所も都合するのが難しいからだろう。
獣に食わせるのは人の味を覚えるから駄目だと昔、猟師に聞いた。
死体には住民のものもある。これに傭兵は触れてはならなかった。
隊商は集落との諍いを避けるため、住民の死体を集めて遺族の元へ返したそうだ。
ただ、一部行方のわからない住民もいる。
異民族によって凄惨な見た目にされた死体のどれかだろう。
持ち物でわからないのは、一部の下らない傭兵がすでに漁ったあとだからだ。
ルフィアは傭兵に理想を抱いているが、そういう者がいることもわかっている。
いずれにしても、大移動の通過地点にあるこの集落の住民たちに平穏が訪れるのはしばらく先になるだろう。
亡くなった人を悼むのも、こう騒々しくては難しい。
西からやってきた異民族たちの目的は、この集落を乗っ取ることだった。
勝手な理由で殺された住民は不幸としか言いようがない。
ただ、異民族たちも戦争に抗うためにここへ来た。仲間たちの命を救うための決死の行動だ。
どれほど上手くいっても、こんな場所ではいずれ終わりが来る。
彼らもすぐに死ぬわけにはいかなかった。だから子どもを人質にした。
誰が悪いかといえば能動的に襲撃した異民族たちだが、そう考えると計画的な襲撃を行ったルフィアたちも悪人といえるのだろう。
誰も死にたくはないのに、理不尽はすべてを覆す。
ルフィアは人を殺した。
一番責任のない立場で、この場にいる誰よりも身勝手な殺人をした。
これまでも人を殺してきた。
けれど、この喉が詰まるような感覚は何度やっても消えることはない。
罪悪感、ではない。
ただの勝手な憐憫だった。
もしもこの状況にならなければ、彼らが死ぬことはなかった。
長く生きて、楽しいことにも悲しいことにもたくさん出会えた可能性があった。
そういったすべての可能性を奪ったのは自分だ。
憐れむ理由は、自分が同じ目にあったときに悲しまずにはいられないという勝手な自己投影によるものだ。
なんて身勝手な思考だろう。
それでもルフィアは、せめて苦しまなければいけないと思う。
簡単に死んでしまうとしても、命の価値を忘れてはいけない。
エリーゼを救えて良かったと思えるのも、その価値を知っているからだ。
人との繋がり、信頼、そういったものを忘れた傭兵は終わっていく。
オルレニアと出会って、ルフィアの生活は大きく変わった。
繋がりの結び方を教えてもらったような気がする。
以前は傭兵稼業に嫌気がさしながらも、理想という硝子を通して世界を見ようとして無謀な行動を繰り返し、現実を見ては反吐が出ていた。
剣を振ることしかできない自分が嫌で、酒場の看板娘の物真似をした体面だけの態度を振りまいている自分がもっと嫌いだった。
いつか死んでしまいたい、何も為せずに長く生きるなら短くとも華々しい死を迎えたいと願ってばかりいた。
だから魔獣に追われているときも恐怖は薄かった。
そんな自分が、ひとつでも命を救った実感を得られた。
ヴァロータではケビンに認められ、プラーミアではユエンと知り合い、アルテたちに感謝された。
サイラスに、たしかに怒りをぶつけられた。
オルレニアがいたからこその全てだ。
本当に頭が上がらない。
オルレニアだけじゃない。
ドルフやエメレイにも、もちろんゲルダンにも。
ルフィア一人ではなにも為せなかった。
チオルと共にウラガーンに引き裂かれて終わっていた。
だからこそ、救われた命で人を救えたことが嬉しかったのだ。
自分の力で、自分の意思で、誰も助けられなかった命を救えた。
小さな一つでも、これからもこの喜びは消えないだろう。
坂を上りきって、集落を見下ろした。
適当な石に腰掛けて剣を引き抜き、地面に刺す。
剣の柄に身体を預けながら眺めていると、買い付けをする商人の姿が手のひらの胡桃くらいの大きさに見える。
少し離れるだけで人の姿は小さくなって、指先一つにも満たなくなる。
自分もあの一つなのだと思うと、世のほとんどは些事なのだと思えてくる。
「さむ……」
風が吹き、冷たい感覚に外套を手繰り寄せた。
頭を冷やそうとは思っていたが、身体を冷やしてはいけない。
意味もなく物思いにふけってしまった。一人でいると頭のなかがうるさい。
答えのないことをいくら考えたって、頭が凝り固まるだけだ。
考えすぎるのは悪い癖だと何度も言われてきたのに、いつまでもやめられない。
「誰に言われたんだっけ……」
記憶をたどっても思い出せない。
ヴァロータにいるゲルダンの知り合いたちの誰かだったような。
旅の剣士なんかも言っていた気がする。
最近はこんなことばかりだ。
自分の記憶力が心配になる。
オルレニアならなんと言うだろう。
彼はルフィアのことをいつも肯定しようとする。
頭のなかにオルレニアを浮かべると、いつも通りの怖い顔なのに、口から出てくるのは優しい言葉ばかりだ。
勝手に期待して甘えるのは迷惑だからやめたいのに、オルレニアは少し、普通と違いすぎる。
少しくらい突き放してくれても、と考えて、頭を振る。
「なんて、わがまま。そうなったら悲しいのにね」
たった数か月なのに、すでにオルレニアは安心の種だった。
いつまで一緒にいられるのだろう。
多くを語らないが、オルレニアにはなにか深い目的がある。ルフィアはその大きな潮流のなかにある小石に過ぎないのだから、期待しすぎてはいけない。
アルターリは祭壇の町。
色に関わるなにかがあるに決まってる。
勝手な妄想で済んでくれたらいいが、そうはならない予感がする。
また事件に巻き込まれるのだろうか。
それなら次はもう乗り越えられないような気がする。
色に関する事件はルフィアには大きすぎるのだ。
なにも起きないでいてくれるなら、アルターリでは分相応な仕事をしたい。
高望みするにしても高級傭兵のような、要人護衛の仕事なんかをしてみたい。
「同じくらいの女の子と話せたりしないかな……」
ありえない願いでも、口にするだけなら自由だ。
まだ見たことない大きな町に思いを馳せながら、ルフィアは空を見上げる。
暖色に染まった空を流れる雲は高く、早い。
空を舞う雉の姿を見つけて、はっと立ち上がる。
しっかりとした成体の雉だ。
これから産卵の時期に入るから、よく肥えている。
数日前にオルレニアと話していたことを思い出す。
狩るにしても、集落の人に許可を貰わないといけないだろうか。
いずれにしてもオルレニアに報告しよう。
雉には悪いが、旅は長い。英気を養う必要がある。
剣をしまって、ルフィアは小走りで集落を下りて行った。




