後編
「ハァハァ…。ハルカさんまだ歩くんです?」
「あら、あなた疲れやすいの?もうちょっとよ。雪が降ってなかったら自転車で行けるのにね。でも、いいじゃん。運動することって大切なことだよ」
雪で覆われた道を滑らないようにしっかりと踏みしめながら、二人は前に進む。学校を出てから25分くらいが経った。しかし相変わらずハルカさんは行き先を教えてくれない。
「ねぇねぇダイゴ君ってさ飴とチョコレートだったらどっちが好き?」
「飴とチョコレート…ですか??」
なかなか難しい質問だ。飴は長く味を堪能できる反面、ずっと舐めてると少々あきてくる。
チョコレートは口の中ですぐなくなってしまう反面、その味はとても魅力的だ。
「飴…かな。やっぱり。ほら、ずっとその味を楽しめるし」
「そう言うと思った。私も飴が好き。授業中でも気兼ねなく食べれるもんね」
「そうそう!俺もよく食べてる。飴なら先生も気づかないよね」
話は弾む。
不思議なものだ。
今日の朝、知り合ったばかりなのにまるで幼馴染みのようだ。もしかしたら忘れてるだけで昔どこかで会ったことがあるのかもしれない。
そんなことを感じた冬の小道だった。
「あ~!着いた着いた。ここ!」
たどり着いたのは商店街の裏路地にある小さな駄菓子屋。看板には申し訳なさそうに小さな文字で「駄菓子の山谷」と書いてある。
「駄菓子屋?」
「そう!駄菓子屋。実はここもんじゃ焼きもしてるんだよ。ささっ入ろう!」
ハルカさんに肩を押され俺は店内へと入った。
「あら、ハルカちゃんいらっしゃい。隣のは友達かい?」
入った途端、優しそうなおばあちゃんに話しかけられる。どうやら二人は知り合いのようだ。
「うん、友達。今日は彼にちょっとお礼がしたくて。おばあちゃんもんじゃ焼き食べに来たよ」
「おぉ、もんじゃかい。準備するから座って待っててね」
そして俺達は駄菓子がところ狭しと並ぶ駄菓子の棚を通り抜けて奥のお座敷の方へと向かった。
「はいよ」
おばあちゃんは手際よく食材を鉄板に盛っていく。ジュージューとおいしい音が辺りに鳴り響く。
「今日は私がおごるよ。近道を教えてくれたお礼」
「えっ?いいんですか?」
「今日はね。次はダイゴくんがおごるよ番だからね」
「ハハッ…。わかりました」
天然なのかしっかり者なのかよくわからない。でも裏を返せばそれがハルカさんの魅力なのかもしれない。
その間にも鉄板の上で調理されている食材達は混ざり合い「もんじゃ焼き」という1つの料理になろうとしていた。
「もんじゃ焼きを見てると私幸せな気持ちになるの。ほら、もんじゃってさ、いろんな材料がこの鉄板の上に集まって1つの料理になるじゃない?なんだかすごいことだよね」
しみじみとした口調で彼女はそう言った。たしかにその通りだ。こうしておいしいもんじゃ焼きを食べれてることに感謝しないといけない。
「あっ!駄菓子も私がおごるよ。ただし500円以内でよろしくね」
「500円以内ですか?なんだか小学校の時の遠足を思い出しました」
「いいじゃない?あの時はたしか300円以内だったでしょ。今の方が200円も高いよ」
「あ~!本当だ。そう言われるとなんだかお得な気分になりますね」
二人はよくわからない会話に花を咲かせる。そんな話をしている内になんだか小学生の頃がとても懐かしく感じた。
「さぁ!そろそろ食べましょう?もんじゃ焼き。焦げたらおいしくなくなるよ」
「そうですね。いただきます!」
その後、二人は山谷のおばあちゃん特製のもんじゃ焼きをおいしくいただいた。
「ハルカさん今日はありがとうございます」
帰り道、人気の疎らな商店街の出口で俺は感謝の気持ちを伝えた。
「いいって。その代わりあの近道、私も使うからね。また行こうね。もんじゃ焼き。」
「あっ!ハルカさんこれ見て」
二人の頭上には雪が積もった一本の木。その木の枝にも雪がほんわかと積もり光の反射と相まってなんとも幻想的なものになっている。
「なんだか綺麗ね。私達にとっては当たり前の光景なのにね」
「ハルカさんなんだかこれアミダくじに見えません?」
「あ~!たしかに。小さな枝がどんどん分岐してるもんね」
いつも見てるのにふと視点を変えると違った印象を受ける。そんなことをこの枝は私達に教えてくれた。
「ねぇねぇアミダくじってさどの道を選んでもゴールにたどり着けるじゃない。私とダイゴ君も同じゴールに行けたらいいね」
「えっ!?ハルカさんそれってつまり…」
「あっ!信号が青になったよ。行こう行こう!」
彼女はあえて俺の問いに答えを帰さないまま歩き出した。ふんわりとした彼女のショートカットが風に揺れる。
道は続く。どこまでも。
きっといつかはゴールにたどり着く。
ハズレや当たりなんて関係ない。
俺はその時、大切な人と一緒にいたい。
そんなことを考えるとなんだかさっき見た木の枝が「雪の羅針盤」のように見えた。
「あっ!ハルカさん待ってよ!」
そう言いながら俺は彼女を追いかけた。
その時、振り向いたハルカさんの笑顔がとても印象的だった。