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前編

挿絵(By みてみん)


 雪重なる木々の中。

 この先に出口がある。

 普段通いなれた道ではあるが、通る度にちょっぴり心細い気持ちになる。冬に閉じ込められた俺が住むこの町は今の時期になると毎日雪と顔を合わせる日々になる。ちなみにこの道は正規の通学路ではない。俺だけが知る学校への近道だ。この「秘密の抜け道」を通ることによって学校に早く着くことができる。短縮できる時間はせいぜい10分ほどではあるが。


「ふぅ。それにしても今日は寒いな」

 緩く巻いたマフラーをしっかり首に巻き付ける。

 少しだけ暖かくなったような気持ちになった。空を見上げると相変わらず灰色の雲が重なりあっている。

 青空は見えない。

 その事が俺の心を余計に暗くした。


 その時だ。


「おっはよう!」

 突然、後ろから大きな声が聴こえた。この秘密の抜け道は俺しか知らないのにいったい誰なんだ?

 俺は不安の表情を浮かべながら、振り向く。

 そこには同じ高校の制服を来た女性がいた。


「キミずるいよ?こんな場所を知ってるなら教えてよ!」

 そう言いながらズカズカと雪を踏む音を鳴らしながら俺に近付いてくる。


「えっ!?あっ?何かごめんなさい」

 突然のことで頭が混乱する中、なぜか俺は初めて話した女性に謝った。


「いいよ。私こそ驚かせてごめんね。はい、これあげる!キミ手を出して!」

 女性は制服の上着から何かを取り出して俺の手にのせた。自分の手のひらを見るとそこにはコーヒー味の飴玉が1つ。


「えっ?これくれるんですか?」


「えぇ、あげるわ。そのかわりにこの道の案内よろしくね。学校への近道なんでしょ?ここ。あっ!自己紹介が遅くなりました。私、時野ハルカと言います!」

 ニコニコと微笑みながら彼女は俺にそう言った。


 これが俺とハルカとの最初の出会いだった。


 ***


「ふ~ん、あなた二年二組なのね。私は二年六組なの。もし廊下で会ったりしたら話とかしようね」

 二人で並んで歩くには窮屈な道を進む。彼女は俺にいろんな話題をふってくる。普段、女性と話す機会がない俺にとってこの一瞬、一瞬がとても緊張するものだった。


「あら、キミ顔赤いよ?熱?」

 そう言いながらハルカさんは俺のおでこに手を当ててくる。


「あっ!?ち、違います!俺、首にマフラーを強く巻きすぎたんです!」


「そう?キミ面白い人ね。それにしてもキミどうやってこんな近道見つけたの?」


「うちで飼ってる犬が散歩中に逃げて…。追いかけてる最中に…」

 緊張してうまく動かせない口を一生懸命動かしながら俺は喋る。そのかんにも雪はシトシトと降り積もり二人の髪を白くする。

 ふと彼女の頭を見ると雪のせいなのかまるで白い飾りが着いたヘアバンドのように見えた。


「私の頭好きなの?」

 俺の視線に気がついたのかハルカさんが一言そう言った。

「えっ?いや、何て言うか魅力的というか…」


「頭が魅力的?キミとことん面白い人ね」


 もうダメだ。

 緊張しすぎて何を言ってもおかしくなってしまう。ただでさえ女性と二人で並んで歩くなんて初めてのことなのに。

 ドキドキしすぎて挙動不審な俺とは対称的に彼女はその透き通った瞳で前だけを見ていた。

 まるで何かに導かれているように。


 ***


「ふぅ…!この抜け道、学校の裏側に繋がってるんだ!」

 抜け道の出口で大きく深呼吸しながらハルカさんがそう言う。

 窮屈な場所から一変し目の前には開けた道路がひろがる。みんなが通る通学路から少し離れてるせいもあり人気はあまりない。


「キミ!今日はありがとう!おかげで遅刻しないで済んだわ!じゃあね!」

 いきなり手を振りながら彼女はそう言った。

 そして走り出す。


「待ってください!」


「えっ!?何どうしたの?また飴玉欲しいの?実はこれ高級な飴玉なんだよ」


「ち、違います!俺の名前はキミではありません!俺、向江むこうダイゴといいます!ダイゴって呼んでください!」

 この時、俺は今日一番の大声を出した。

 恥ずかしいとかそんな思いはなかった。

 ただ、彼女に俺の名前を覚えてもらいたいだけだった。


「わかったわ!ダイゴ君!今日はありがとうね!」

 パタリと足を止めた後、ハルカさんは俺の方を振り向いてそう言った。


 もしかしたらこれから何か良いことあるかも。

 そんなことを感じた朝だった。


 ***


 今日も学校で過ごす1日が終わった。

 教室の窓から見る空は相変わらず曇っている。周りを見渡すと教室内に残っているのは数人ほど。

 相変わらずみんな帰るのが早い。


「よしっ!俺も早く帰るか。幸運にも今のところ雪は止んでいるし。やっぱり暖かい家に居るのが一番だ!」

 そうつぶやきながら筆記用具とノート類をリュックに詰め込んだ時だった。


「お~い!ダイゴ君居ますか~!」

 聞き覚えのある声が教室にこだまする。誰かと思い振り向いたのも束の間、俺の目の前にハルカさんが立っていた。


「はい!見つけた。行きましょう」

 ニコニコした笑顔を浮かべながら、ハルカさんは一言そう言う。それにしても彼女はいつも突然すぎる。

 と言っても今日の朝、知り合ったばかりだが。


「ちょっと聞いてるの?お~い!!」


「あっ!き、聞いてますよ。ど、どこへ行くんです?」


「良いところ…。かな?」

 彼女は俺の目を見ながら一言そう言った。


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