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星天に想いは輝いて  作者: 榎元亮哉
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星天に想いは輝いて

「早かったねぇ。何があったのぉ?」

「やりきれない戦いと、戦友との出会い、かな」


 あの戦闘から一週間、俊二はほんの少しだけ四国に戻ってきた。約束の年数にはまだまだ早く、未だ成長も足りていないのは自覚していたが、それでも彼女の顔を見たかった。


「ふぅん」

「まぁ、またちょっと行ってくる。やっぱり旅はいいな、色々と得るものがあるよ」


 愛する者を失った時、俊二は彼のようになってしまう可能性を否定できなかった。不安になり戻ってきたが、その意味はあったと思う。


「いってらっしゃぁい。気を付けてねぇ?」

「ああ。今度は……そうだな。九州にでも行ってみようかな」









 中国地方にて起こった鍵里正輝による騒乱は、彼の死をもって終わりを告げた。

 しかしその爪痕は凄まじく、元の状態に戻るには十年以上の歳月が必要になるだろうことは容易に想像が出来た。

 まず陰陽陣のトップの大総長は既に死んでいる。各支社の主だった支社長、特に大総長にゴマを擂っていたような者たちはほとんどが出雲本社にて命を落としていた。各支社が鍵里によって簡単に蹂躙されたのも、この時にほとんどの支社長が亡くなったことが一つの原因だった。

 生き残った支社長は、兵庫総長兼姫路支社長の安松、あとは引き籠っていた岡山の津山と美作の支社長の三人しかいない。格的にも今回の騒乱の対処としても安松が陰陽陣の筆頭となり、反対意見もあったがそのまま安松が陰陽陣を束ねる大総長となることが決まった。三次支社の竹中は騒乱に直接関係しなかったが、部下の裏切りにあい暗殺されていた為対抗勢力はほぼ皆無だったのだ。その配下の暗天衆は散り散りになり野に下ったようだった。

 ちなみに安松の代わりに現場指揮官を務めた高遠幾真だが、二十一歳という異例の若さで兵庫総長と陰陽陣全体の副長という大抜擢を受けた。彼は任された任務を忠実にこなしていただけなのだが、高遠がいなければ上手くいかなかったのは確かだろう。


 各地には僅かだが魔獣の存在が残っていた。ぼろぼろの陰陽陣に魔獣たちを討伐する余力はなかったが、彼らが悩んでいる間に全ての魔獣は殲滅された。一度だけ目撃された報告だと、男一人と女二人の三人組の仕業だったようだ。









「はぁ……長いような短いようなゴールデンウィークだったな」

「二日ほどオーバーしちゃったけどな。まぁ長くて密度の高い旅行だったな」


 地元の駅に着いた和弥たちはようやく落ち着くような気分になれた。

 あのあと戦後処理を葵たちに任せ、高校生組だけで帰って来た。途中京都本部に報告の為寄ったが、ちゃんとした報告は葵たちから受けるとして彼らはざっと聞かれたことを話しただけだった。


「陰陽陣はこれからどうなるかな」

「安松さんと高遠さんが上に居る限り大丈夫でしょう。ただ復興には時間はかかるでしょうけど」


 白神会からの協力は勿論行うが、それは最低限のことになりそうだと隼人は言っていた。こちらから誰かを派遣するらしいが、それはもう陰陽陣も了承済みだ。

 今回の件、陰陽陣側から要請を受けて白神会は戦力を派遣してこの騒乱を解決した形だ。白神会の戦力を借りた以上、影響を受けることは避けられないことだ。そうでないなら白神会にメリットはない。大きな戦力を派遣しなかった背景には、これを口実に白神会が陰陽陣に攻め入る訳ではないという周囲に対するアピールがあった。だからこそ四流派の継承者が一人とその配下が数名ということになっていた。


「でもまぁリョージは今後も大変そうだな」

「まぁ拾った命だ。出来る限り、気が向く限りは協力するよ」


 良治には時々京都に来るようにと隼人から頼まれていた。術士の副属性に対する意見や定義付けを求められたのだ。それ以外にも色々と組織改革に助言が欲しいようだった。


「なんかこれからのほうが忙しそうよね、良治」

「まぁこれからも一緒に居られることの方が大事だから、まぁ仕方ないけど良いんじゃない?」


 心配そうなまどかに楽観的な結那。対照的な二人だが、根が素直なのは共通していた。

 結那は結局、このまま東京支部に所属することになった。既に隼人から許可は得ている。いつものようににやにやとした笑顔が少しだけ嫌だったが。


「まぁ今日はさっさと休むか。もう学園に行くには遅いしな」


 良治がそう言ってその場は解散となった。

 和弥は明日学校で細井あたりにどんな言い訳をするか、そんなくだらないことを悩みだしていた。










「……さてリョージ。どうするんだこれ」

「さて、どうしようか……とりあえず話を聞いてみようかと思うのだがどうかね和弥さん」

「それが一番かと思うのうりょーじさんや」


 口調が変わるくらい二人はびっくりしている。

 翌日学園に到着した和弥と良治、綾華の三人は正門を過ぎたあたりで立ち止まっていた。正門のその先に、一人の少女が立っていたからだ。

 少しだけ茶色の入った肩まであるウェーブの髪。落ち着いた雰囲気の一年生。


「おはようございます。先日はお世話になりました」

「……おはよう、ここには何の用で」


 静かに話し出した潮見天音に、良治が一歩前に出る。天音の対応はずっと彼がしていた為二人は良治に任せることにした。一応ポケットに入っている転魔石を握っておく。


「あのあと確認したのですが、どうやら契約していた魔族と主は殺されたようです。暗天衆も構成員は皆それぞれ散っていきました。なので、もう私は貴方たちと争う理由はなくなりました。

 だから、これまで通り学園に通うつもりなので宜しくお願い致します。――先輩方」

「……まぁ、これで潮見は自由だからな。好きに生きるといい。もはや君を縛るものは何もない」

「そうですね……。私を縛っていたものは何もなくなりました」

「ああ。だから……」


 近付いてそっと頭を撫でる良治。慈愛に満ちた手の動き。

 ここまで来るのに大きな犠牲があった。つらい事なんていくらでもなった。死にたくなる夜も数えきれない。

 その先に掴んだ自由を、良治はとても大切なものだと感じた。


「え……」

「もう肩を張らなくてもいいんだ。心を張りつめなくてもいいんだ」

「柊さん……」


 すっと流れる涙。今までの人生で張りつめていた糸が切れた瞬間だった。今までの苦労の人生が一気に噴き出し、止め処なく涙が溢れる。

 理解されたことが、とても嬉しかった。


「……ありがとうございます、私はきっと誰かにそう言って欲しかったんだと思います。その言葉を下さったのが柊さんで本当に良かったと思います」

「そっか。役に立てたようで何よりだよ」

「はい……。えいっ」

「!? どうした潮見!?」


 言葉と同時に良治の胸に飛び込む天音と驚く良治。

 完全に油断していて避けられなかった。殺気がなかったので仕方ないとも言える。


「いえ、もう自由に生きて良いと言われましたので、自由にすることにしました」

「そ、それがこれなのかっ!?」

「はい。一人の女の子として、してみたかったことの一つです」

「おお……そう、か……」


 苦笑いで諦めの表情の良治。少し恥ずかしそうな、してやったりの天音。

 そしてそれを呆れ気味に眺める和弥と綾華。特に害がないようなので止める理由もないようだ。


「……どうしましたか委員長様。というかいつの間に」

「ちょっと前からかな。ううん、なんでもないよ柊君。うん、本当に気にしてないから。だから、はい」

「電話……?」


 いつの間にか登校していた、笑顔の奥に黒い感情が見え隠れする真帆から電話を、嫌な予感がしながらも恐る恐る受け取り電話口に出る良治。こんな表情の真帆を見たら拒否権なんて存在しなかった。本当に怖い。


「良治ぅ? 水樹さんから今の状況聞いたんだけど、どういうこと?」

「……あー、まどか。これはだな」

「えーと、柚木まどかさんですね。一つ言いたいことがあります」


 電話をあっさりと奪い、笑顔を浮かべた天音が勝手に話し出す。



「負けませんから。……これは宣戦布告です」

「なあっ……!?」

「おい潮見……っ!?」

「ふふ、これからも改めて宜しくお願いしますね。……良治さん」

「…………」

「なんでもう、こんなに敵が多いのようっ!」


 電話越しに和弥の所までまどかの声が聞こえてくる。声というか悲鳴と言ってもいい。


「……平和になったなぁ」

「あれを平和と呼ぶにはまどかに悪い気がしますけど……」


 もう帰りたさそうな友人に同情しながら、初夏の陽射しに手を翳しながら空を見上げた。


「ああ、そうだ。綾華、一つ話が」

「なんですか?」


 ここまで忘れていた話。特に綾華にはしなくてはならない話だった。


「どうやら俺は昔天使だったらしい。羽はないけどな」

「なるほど……あの光は浄化の光、そしてパティが和弥のことを気にしていたのはそういうことでしたか」

「ん、気にならないのか」

「別に。和弥は和弥であって他の誰でもないですから」


 さらっという綾華。本当に気になっていないらしい。


「それもそうだな」

「もし私が同じこと言ったらどう思いますか?」

「そうだな、綾華と同じこと言うだろうな。綾華は綾華だし、ってな」

「でしょう。だからそんなことは些細なことなんですよ。少なくとも私にとっては」

「そっか……ありがとな」


 少しだけ怖かった。でもそんなものを吹き飛ばしてくれた小さな彼女。

 愛しくて愛しくて仕方ない。


「綾華」

「はい……っ!?」


 友人たちが修羅場を迎えているその目の前で、和弥は彼女にキスをした。それはもう情熱的なキスを。


「大好きだよ、綾華」

「こ、こういうのは人の居ないところでっ。……私も、大好きです、和弥」

「ああ、ありがとう。愛してる」


 二人は歩き出す。この世界にいるのは二人だけと言わんばかりに。

 ――修羅場を背に。





「星天に想いは輝いて」完



ども、榎元です。ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。読者の皆さんのお陰で最後まで書き上げることが出来ました。

和弥はついに自分の魂のルーツを理解し、良治は半魔族の自分を認めて未来を生きることを決めました。

彼らの進む未来は一筋縄では決して行きません。この退魔士という世界はとても残酷でつらいものです。でも、その中でもきっと彼ら彼女らは強く生きていけると信じています。

陰陽陣を中心とした中国地方の話はこれで完結となりますが、和弥たちの人生は続きます。ですがひとまずここで終わりとさせて致します。

「星天に想いは輝いて」、これにて完結です。またいつか皆様にお会い出来たら幸いです。

それでは!

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