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星天に想いは輝いて  作者: 榎元亮哉
新たな決意
21/28

~新たな決意~ 二話

「それは……」


 綾華の問いに、パティは僅かに顔を伏せ言い淀んだ。

 それは彼女も考えなかったわけではない。しかし結論は出ていなかった。


(半分人間、半分魔族……彼を助けるのは大いなる神に刃を向ける行為……?)


 パティは思考の果てに、一つの昔話に辿り着いた。しかしそれは良い結論ではなかった。


「……昔の話、なんですが。人間と恋に落ちた天使が居ました」


 ぽつりぽつりと話し出した彼女に皆が注目する。和弥は唐突な別の話に少しだけ面食らったが、これはきっと必要なことなのだろうと思い集中しだす。


「二人の行為は神の怒りに触れ、逃げ延びる度彼らの居る場所に天災が起こったとされます。そして最後は天使に宿った子供ごと、天災を恐れた人間に焼き殺された……」


 何処かで聞いた覚えのある話。それを聞いた綾華が口を開いた。


「つまり、それは……神の怒りに触れる可能性が高いと言う事ですね?」

「……はい、そう思います。過剰な接触は禁じられてますし、たぶん加護を与えるのがギリギリの線なんだと思います。だからきっと、半魔族である良治さんに加護を与えたら……」


 きっと神罰と言う名の天災が襲うだろう。友人の命がかかっている、それならば天災の一つや二つという気持ちは勿論和弥の中にはあった。しかしそれはなんの関係もない多数の人間に迷惑がかかるのは明白だった。


「……結局打つ手なしなのか……どうにもならないのか……?」


 和弥の言葉に答えられる者は居ず、空しく響いた言葉は消えていった。











「……どうぞ」

「失礼しますね……」


 足音がほとんど聞こえず、細やかに叩かれたノックに良治は入室を促した。すると現れたのは暗い表情をしたパティだった。


「久しぶり、パティ。と言っても四ヶ月くらいしか経ってないかな」

「そうですね……最初に会った時に比べたらすぐって感じですね」

「それで、何の話かな」


 彼女は何かを伝えようとしてここに来た。自分に会いに来たのだと良治は確信していた。でなければ彼女が地上に長居するわけがない。これまで会った二回とも彼女はすぐに天界に帰っていった。


「単刀直入に言います。――私の加護を受けてください」


 はっきりとした口調と覚悟を決めた視線。その提案の可能性を考えていたが、彼女の持つ雰囲気に呑まれてしまった。


「……申し出は嬉しい。本当に嬉しいよ。でも、ダメだ」


 その視線を真っ向から受け止め、否定の言葉を紡ぐ。目を逸らすことなどできない。その覚悟を受け止めた上で、彼は首を振った。


「私は貴方を助けたい。お願いします!」

「ダメだよパティ、そんなことをしてしまえば君は多分……堕とされる」


 罪を犯した天使は神の罰を受ける――堕とされる。堕天使になってしまう。


「それは……」


 真っ直ぐに彼を捕えていた瞳が困惑に染まり力を失う。彼女は否定しなかった。


「だから、ダメなんだ。パティを堕天使にするつもりはない。パティにはまだ悪霊や魔族を倒して欲しいしね」

「良治さん……」

「だから、大丈夫。――本当にありがとう」

「……わかりました」


 涙で潤ませた彼女に申し訳なさと共に感謝する。自分の身を犠牲にしてもいいと覚悟し、そして最後は良治の意志を理解した彼女。死んでも会いたいなと思うが、それは半魔族の彼には叶わないことだろう。


「最後に、一つだけ。都筑さんのことです」

「和弥の……?」


 以前彼女が和弥を気にしていたことは知っていた。だが天使である彼女がわざわざ言うというのはなんなのだろうかと彼は不思議に思った。


「はい。都筑さんは恐らく……天使です」

「和弥が、天使?」


 言葉の意味が理解できない。和弥は人間だ。良治は彼が白神会に入った時に家族構成など一通り調べたが不審なところは何もなかった。実際に彼の家にも何回か行ったこともある。両親と姉、和弥の四人でやや広めのマンションの一室に住んでいる。ちなみに綾華も同じマンション同じ階に住んでいる。彼女からも何も聞いていない。和弥と綾華が付き合いだしてからも特にそういった話はなかったはずだ。


「そうです。正しくは彼の魂が、ですけど。普通の人間として産まれましたが、その魂は天使の物です」

「天使……」


 ああ、なるほどと良治は納得した。そういうことなら死霊の王(ワイトキング)を一刀のもとに斬り捨てたことや、この間の悪霊たちをあっさりと倒していたことも理解出来る。死霊系には天使は天敵と言っていい。一撃で屠ることも簡単だろう。


「何故人間の身体に天使の魂が入ったのか、それはわかりません。天使はもう精神体のようなものなので、死んだら消えちゃうんです。人間の魂が天使へと至る可能性も零じゃないですけど、そのタイミングで転生することはないです。……本当に見当がつかないんです」


 良治としても言われれば確かにそうかもと思うところはある。納得もした。天使であるパティが言うなら和弥は天使なのだろう。いくらドジの多い彼女でも間違えるとは思えない。


「其処に至った経緯がわからない、か」

「はい。以前鬼が復活した際、都筑さんの魂に触れたのでそれは間違いないです。これは絶対です。でも、なんで人間の身体に天使が宿っているのかは……」

「魂が天使だと、何か問題は?」

「わからないです……たぶん、何もないと思うんですが……」


 彼女もこんなことは初めてなのだろう。その歯切れは悪い。


「このこと、和弥には?」

「いえ、話してません。……他人と違うことを知らされるのは傷付くことですから。特にさして親しくもない私からは。だから、良治さんにお任せします」

「今にも死にそうな俺にそれを任せるの……」

「誰かに伝えるかどうかも含めて任せますね」

「天使なのに……」


 気まずそうに顔を逸らすパティ。和弥の為というのは嘘ではないだろうが、自分から言うのも避けたいというのもあるようだ。


(でもまぁ気持ちはわかるか)


 人の根幹に関することを話すことは誰だって気が進まないだろう。それは良治だって同じことだ。それにこれはきっと彼女なりの言葉。生きて伝えてくれ、と言いたいのだ。


「良治さんは死んでも天界には来られないでしょう。それでも」


 最後に微笑みを残して。


「――またお会い出来たらと思います。いつか、また」


 天使の少女は部屋を出て行った。










「――どうやら予想通り鍵里正輝は豊岡支社を狙っているようです。ただ怪我の影響か、移動速度は今までよりも遅く到着までまだ二、三日かかりそうです」

「なるほど……それなら先回り出来そうですね」


 良治と話し終えたパティはあっさりと天界に帰っていった。和弥の顔を見て何か言いたげだったが結局彼女は何も言わず、そのままいつかと同じように空へ浮かび消えていった。


「しかし先回りしようとするなら何処かで鉢合わせする可能性が……」


 彼女を見送った後、良治を除いた面々は会議室に集まり高遠の報告を聞くことになった。重傷を負っていた安松も何とか容体が安定し、車椅子姿で話を聞いている。見た目は包帯姿で痛々しいが、意識ははっきりしていて問題はなさそうだ。


「鉢合わせは避けたいですね。少しでも戦況を有利にするために豊岡支社の方々にも合流して貰いたいところですから」


 高遠と話し合いをしているのは綾華だ。今まではその役割は良治だったが彼はまだベッドで休んでいる。このあとのこともわからないままだ。


「なら偵察部隊の連絡を受けながらなんとか追い抜いてみましょうか」

「いえ、別の道を行きましょう。豊岡に向かう道筋は姫路経由以外にもあるます」

「いやそれ以外の道は……」

「彼が姫路を経由して北上したのは、もう一つの道が一旦東に逸れるからでしょう。つまり、白神会の領内を通る道は選べなかった。しかし私たちなら……」

「白神会の許可が下りる……!」

「はい。一応京都本部に連絡をしてみますが大丈夫だと思います」


 綾華が力強く頷いて笑みを浮かべる。葵や眞子も反対をしていない。問題なく許可は通るだろう。


「早速連絡をしてみます。他の相談をしていてください」


 携帯電話を片手に部屋を出ていく綾華。こういったことは、一応責任者の葵がするべきなんじゃないだろうかと和弥は思ったが、誰も何も言わないので黙っておく。今更だが規則などは割と緩い。トップである隼人がああいう性格なのも一因だろう。


(まぁそれで結構自由にさせて貰ってるから何も言えないけどな……)


 高校に通いながら、空いてる時間で退魔士としての仕事や訓練をさせて貰っている。それは隼人の意向でもあるし、東京支部の他の退魔士の協力の上に成り立っているのを和弥は理解していた。


「よし、では許可が下りるのを前提として準備を。別のルートと言っても、豊岡周辺で会う可能性はある。早く到着するのに越したことはない」

「了解です。私たちも準備しましょ」


 葵が皆を見渡して声をかける。和弥も準備をすべく部屋を出ようとした時、一人の声が響いた。


「――私は、残ります」

「まどか……」


 凛とした瞳。誰の目にもその意思を覆させるのは無理だと思えた。


「まどか、リョージのこと任せた」

「彼のこと、よろしくね」


 和弥のあとに結那が続く。彼女は少し複雑そうな表情をしていたが、まどかに任せることにしたらしい。良治が離脱している以上、まどかが抜け更に、というのは戦力的に厳しいのは明白だ。


「ありがと。良治のことは任せて。……たった一人の相棒パートナーですもの」









 鍵里正輝はゆっくりと、しかし確実に兵庫県を北上していた。幹線道路を脇に山の中を歩く。進みは遅い。道なき道を進んでいるのだからそれは当たり前なのだが、しかし最も大きな要因は彼の状態にあった。


「ぐ……」


 身体が動いているのが不思議なほどの重症。前回の戦闘で受けたダメージは治まったが、しかし回復しているわけではない。顔や身体の血や汚れは拭ってはいたが、その醸し出す深く淀んだ雰囲気は消し去れない。


(あと、少し……)


 彼の願望はもう少しで叶う。陰陽陣の壊滅という願望。婚約者を殺したこの世界で一番憎い組織。そんな組織は消し去らねばならない。


「くっ……!」


 足から力が抜け膝を着く。限界は近い。手に入れた、否陰陽陣によって開花させられた力を後先考えずに使用した影響だ。元々退魔士として力量は並以下。『開門士』としての力を扱うのも難しかったが、それを命を削り続けることで制御することに成功していた。しかしそれももうカウントダウンが始まっている。


「みゆき……君の仇を、絶対に討つ……っ!」


 陰陽陣を滅ぼすのが先か、自らが滅びるのが先か。時間はない。それがわかっているからこそ、鍵里正輝はまた一歩歩き出した。




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