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SIDEフオウ:日常3

 一日目。ようやく初めての合成に成功する。素体は蜉蝣。

 ヲークス・ヲルディニアと名づけ、【チャクラポッド】にて教育を施す。


 二日目。初めて言葉を話す。お父様と言われて涙がでた。


 三日目。やがて造られる男性体に思いを馳せ、全ての物に興味を示す。


 四日目。四肢が伸び、ようやく完成体となる。


 五日目。急に体力が落ち始める。


 六日目。衰弱が激しい。髪に白髪が混じり、体が老化を始めだす。


 七日目。ヲークス・ヲルディニア、シンキング・セル教育施設【チャクラポッド】にて永眠す……


 初めてフオウがそれを聞かされたとき、レイルは泣いていた。

 お前が生まれるのを待ち望み、そして死んでいった哀れなシンキング・セルが居たことを知って欲しかったと。

 そうしてようやく悲願が達成されると、喜びながらダブルベット一つ設置された部屋に通された。


 そこで待っていたのはフオウより先に生まれていたシンキング・セル。

 フオウと交わり素体の子孫を産む予定のシンキング・セルだった。

 でも……フオウが彼女の趣味に合わなかったらしく、レイルが出て行った瞬間……


「ふ~ぅ~ちゃ~ん」


 家をでて、考え事をしながら歩き始めたフオウに、声がかけられた。

 キリスは小学生なので学校が違うため、後片付けを終えてから悠々学校へ向う。

 その代り、フオウと一緒に学校に向う女性がいた。


 顔を上げて凝視、手を振って隣の家から駆け寄ってくる活発そうな少女。

 フオウの隣のじいさんばあさんに居候させてもらっている№446のシンキング・セル。蛾と蝶の混合合成体メイリィ・スウだ。


 №400番台のシンキング・セルは全て幾つかの素体を掛け合わせて作られているので失敗作が多い。

 フオウとキリス、そしてメイリィが作られた後は、確か482まで全て立て続けに失敗していたはずだ。


 ようやくコツを掴みだした頃が490番に入った頃で、500番台からはまた別の実験を始めていたのを記憶している。

 メイリィはいつものようにショートカットの黄色の髪をなびかせ、女学生用の制服を着て、手下げ製の学生カバンを所持しながら元気に駆け寄ってくる。


「お……」


 近づいてくるなりカバンの取っ手を両手で持ってくるりと回る。


「っはよ~うッ!」


 そのままフオウの鳩尾めがけてフルスイング。


「げぶるぁッ!?」


「うむ、今日もいい返事だね♪」


「い、いや待て、何度も言うがこれは返事じゃなくて断末魔の悲鳴……」


 敢えてもう一度言おう。男性体のフオウは他のシンキングセルに比べて身体能力が低く……

 逆に言えばこんな軽そうにフルスイングされたカバンも相当な凶器になるわけで……

 膝が笑う。鈍い痛みがやってくる……


 あ、意識が早くもブラックア……

 フオウはそこまで認識して早々に意識を手放した。

 ばたりと倒れたフオウにメイリィが慌てて寄ってくる。


「あ、あれ? ふ~ちゃん? ちょっと、こんな道端で寝ちゃダメ……ふ~ちゃん、お~い? ふ~ちゃぁ~ん……」


 悲鳴じみた声を聞きながら、妙に心地よい暗闇へと意識を拡散させるフオウだった……




 今日も気だるげに学園に通う。

 別に睡眠学習中に大抵のことは覚えてしまっているので、授業を受ける意味は全くないが、人の集団行動に慣れるため。

 ついでにフオウの女性恐怖症を治すためにも無理矢理に通わされている。


 フオウより後に連続して成功体として生まれでたキリスとメイリィも、とばっちりを受けて学校に通うことになった。

 学校に通いだしたのは一年程前のこと、初めてこの凸型校舎を見たときはメイリィと共に感嘆したものだ。


 校門をくぐると運動場があり、トラックを抜けたところに下足場が口を開いて待っている。

 校舎自体は四階建てで、一番下に事務所や保健室、職員室などがあり、二階に一年生教室。

 フオウはもう一年を卒業したので三階の二年教室に向かう事になる。


 校則はいたってシンプル。

 不順異性交遊の禁止と屋上への進入禁止、後は廊下さえ走らなければおっけーだそうだ。

 つるりと剥げた一本毛だけのこした校長が親指立てながらいい顔で話していたのを覚えている。

 あの入学式は妙に印象的だったとフオウは記憶している。


 校則破りは全裸で校庭数周の刑が待っている。

 一応私物も持ち込み禁止だが、見つかったら没収されるだけなので、学生たちにとっては大したペナルティではないらしい。

 放課後には返してもらえるようだ。


 人は大抵シンキング・セルと聞くと一目散に逃げ出すか、罵声を浴びせて攻撃的に物を投げてくるかの二パターンではあるものの、もう、一年以上通っているせいか、学園の皆は普通に友達として接してくれるようになった。

 特に男子生徒は女性恐怖症のフオウに同情してか、良く話しかけてくれる。

 多分メイリィ目当てではないはずだ。


「おい~っすフオウ、メイリィちゃん」


 教室に入ると、いつものようにかけられるいくつもの挨拶。

 フオウはこれだけで幸せを感じてしまう。

 隣のクラスのメイリィは、フオウの級友に挨拶だけ交わして自分の教室に入って行った。


「おはよう、亮。今日も元気だな」


 窓際最後列に座りながら、隣で怪しげな写真集片手におっほぉうッ! とか叫んでる男子生徒に声をかける。


「お~う、俺も息子も元気いっぱいだぜ」


 彼は十六年間彼女がいない。年も十六才。つまり独身街道爆進中だ。

 本当に子供がいるなどということは天地がひっくり返ってもありえない。

 ちなみに、フオウはまだ育成から数年しか経っていないが彼は先輩風を吹かす事もなく普通に接してくれていた。


「お前も見るか? 今話題のシンキング・セル、 №998のヨーティ・ヒュリケちゃんの育成中生着替え写真集」


「見ないってば……」


 どうも、無類のシンキング・セル好きらしい。

 時々いるのだ。こういった感じでシンキングセルを好きな奴。

 で、そういうのが集まって出来たのが【シンキング・セルを保護する会】とか、【温かく見守る会】とか、【シンキング・セル教会】なんて集会だった。


 活動内容は、主に警邏隊の妨害。人員の勧誘。シンキング・セル極秘情報試写会、キリス様寝姿討論会などなど。

 そしてこの団体に対を成すのが警邏隊。

 警察機関が対シンキングセル用に進化したもので、少しでも危険と判断したシンキング・セルを処罰する機関である。


 ただ……設立当初から各団体との衝突の方がメインになっていて、シンキング・セルを逮捕したなんて報告は今のところ一つも聞いたことがない。

 検挙率ゼロ%って存在意義ないよなぁという世論に反論すべく、努力している最中らしい。


「っていうか明々後日からテストだろ、そんなもの見てて大丈夫か?」


「あはは、な~にをおっしゃるウサギさん。補習が俺の戦場だ。今は体力の温存時期じゃないか!」


 何かが……間違ってないか?

 フオウは呆れていると、あ、そうだ。といった顔で亮がニヤリと笑みを浮かべた。


「そうそう、今日にでも出てくるらしいぜ、ヨーティちゃん。ってことはさ、次のシンキングセルがチャクラポットに入るってことになるんだよな時期的にいって」


「まぁ、そうなるかな」

「んでも、新しいシンキング・セルの情報がこねえんだよな。大体シンキング・セル教会辺りには情報がもたらされるはずなんだぜ? で、週刊誌にはでかでかとカプセル内の様子と名前と顔が載るわけだ」


 確かに、ヨーティというシンキング・セルまではしっかりと載っていた。

 でも、最近はたしかに出てない。

 どの週刊誌もヨーティの巣立ち特集だし、一部週刊誌は別のシンキング・セルの様子を独占取材している。


「同じシンキング・セルとして、何か情報ねェのかよ?」


「う~ん、そうだなぁ……そういやノアの箱舟で事故があったの聞いたか?」


「うんにゃ、そいつぁ初耳だ。もしかしたら教会に情報来てるかもしんねェな。明日にでも暖か情報教えてやるよ」


 と、またも写真集に釘付けになる。

 チラッと見えた写真……爆乳ヨーティちゃんの寝姿公開という題だった。

 そして、ホームルームのためにやってきた教師によって没収される写真集だった……

登場人物


 №001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体

   能力名:??? 死亡


 №444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。

   能力名:空気操作


 №445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。

  肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。

   能力名:禁止

     我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)

       :シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。


 №446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。

  ショートカットの黄色の髪の活発な少女。

   能力名:???


 №998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体

   能力名:光線操作


 №999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体

   能力名:コピー&ペースト

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