SIDEエンド:措置
「我得し力は汝が力!」
キリスにもやってみた。変化は無い。
失った右手も、胸から背中まで突き抜けた穴も塞がらない。
「我得し力は汝が力! 我得し力は汝が力! 我得し力は汝が力! 我得し……」
何度繰り返しただろう? 何度絶望しただろう?
複製能力は……死体からでも取れたというのに。
なのに貼り付け能力は……使えない。
その事実を認識するのは絶望でしかなかった。
だからその現実を直視できずに今だにエンドは続けている。
「これは……」
後ろで誰かが呟いた。
エンドは無視して力を行使し続ける。
遅れてやってきたイルルは怒るタイミングを失くしていた。
目に見える惨状に呆れている様子だった。
「もう……諦めなさいヨーティ。死んだ奴が生き返ることは無いわ」
「だったら……だったら貴女はなんなのよ? あれだけ殺したのに生き返って! 生き残って……再生して……」
「私は死んで生き返ってるわけじゃありませんわ、死ぬ前に元に戻るだけ。消える事無き命の焔は死ぬ前に元の状態に巻き戻す力ですのよ。死んでしまえばもう二度と元には戻れないわ」
「そんな……」
「しかし……フオウがいなくなったんじゃ子作りは無理ですわね。全く、どうしてくれますのやら」
…………カチンときた。
こいつは……お兄様が亡くなったことを悲しむばかりか……
エンドにとってその言葉は殺意を抱くには十分過ぎた。
殺す事の出来ないはずのイルルだが、エンドには出来てしまう。
今のエンドには彼女を殺す手段も殺すべき動機もあった。
メイリィを殺したりしなければ、こいつがいなければ、そもそもフオウたちがこうなることはなかったはずなのだ。
「まぁ、こうなったら家でのんびりするしかありませんわね、全く、貴女たちが私の邪魔をしたせいで踏んだり蹴ったりですわ、どうしてくれますのこの状況?」
「どうする……って?」
エンドは立ち上がり、イルルの肩に触れる。
「……なんですの?」
「我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)……」
「え……?」
「真空の鉤爪……」
真空のカマイタチが、イルルの左肩を切り落とす。
「あ……な? え?」
「駆け抜ける閃光……」
右腕を光の筋が吹き飛ばす。
「回復……できない? な、 どうして!?」
「イルルお姉様。お兄様を人として見ない貴女のことを……お怨み申上げます」
「な、何を言って……」
「霧雨の隔壁!」
零距離での防壁展開。イルルだったものが一瞬にして掻き消えた。
手に残っていた肩らしき部分を投げ捨て、力なく外に歩みでる。
気分は最悪だった。
禁止の力はエンド自身が持ってしまった。
この能力はどうやら自分自身には効かないらしい。
それにイルルの不死の力まで手に入れてしまった。
死の直前自動で生き返ってしまうらしい。
つまり、エンドにはもう……自らフオウたちの後を追うことすらできなくなった。
チャクラポットを出た途端、崩れるように砂地に倒れる。
結局残ったのは、孤独な世界。
何もかもが煩わしい。
もう何も……望めない。
出来損ないが完全に壊れてしまった。
いったいどこで……何が間違っていたのだろうか?
どうしてこうなったのだろう?
私は何かを……望んではいけなかったのだろうか……
「一つは……獣」
選んだ道だ。
「残ったのは孤独」
いや……今の状況はむしろ……
「一つは人……」
今のエンドは孤独だけれど、心に残っているのは……
「残ったのは……後悔」
何かを為そうとして……結局為せず、ただ後からあの時ああすればと後悔するだけ。
あいつの言ったとおりだった。
「あは……」
結局エンドは……全部失ってようやく理解する。
何かを得る前には全く気付きもしなかったくせにと、自分で自分を哂っていた。
結局……何をしに生まれてしまったのだろう?
生まれて……何がしたかったのだろう?
「一つは……」
声が……聞こえた。
「獣……残るは孤独」
聞き覚えのある声だった。
その言葉に哂いが止まる。
何故かはわからない。自然と涙が溢れ出した。
「一つは人……残るは後悔」
砂地を歩いて近づいてくるその声の主は、一歩一歩をゆっくりと、噛みしめるように近づいてくる。
「一つは共存……残るは……残滓」
もう動きたくないと駄々をこねる体に鞭打つように力を入れて、エンドは起き上がる。
振り向くと、待ち望んでいた姿があった。
まだ生存している。エンドに関わり合いのある人物。
ヤオ・ソーティア
「あなたには、三つの未来が用意されていた」
「……ヤオ……お姉様……」
今更来られても、もう遅い。
もう全てが終わった後だ。
結末を迎えた未来の予測など無意味。
「ごきげんようエンド。気分はどう?」
「……聞いてどうするの……」
「ずいぶんと泣いてるわね、目が真っ赤よ?」
エンドの顔を覗き込むように、心配そうに聞いてくる。
「貴女も……死にたいわけ?」
そんなヤオの態度に、思わず怒りが募った。
こいつがもっと分かりやすい予測を言ってくれていればと思わず責任転嫁しそうになる。
「ちょっとちょっと、いくらなんでも自棄にならないの。全く、自分が選んだ結末でしょうに……」
「だからって……だからってこんなのっ」
「受け入れられない? でも、あなたの望み叶ったはずよ? あなたは絶対に死ななくなった、相手の力を集められる。禁止できる。これから他の姉たちを狩っていけば確実に神になれるでしょうね。きっと私も楽に殺せるわ」
「……いらない」
「あら? 望んでたんじゃないの?」
「そんな神になりたくない! 私はっ……私は……孤独になるくらいなら……出来損ないのままでいいっ! それで、よかったのに……」
ポンと……頭に手が置かれた。
「ヤオ……お姉様?」
「私の言った事……覚えているかな?」
ヤオの……言ったこと?
「私に……三つの未来が用意されている……?」
「その後その後」
「今の私には前者が一番近く、後者がもっとも遠い未来。私はどれを選ぶ?」
「あ~、もう。惜しい!」
煩わしい。一体何が言いたいのかわからずエンドの方が苛つきを覚える。
「それじゃあまた、いつか会いましょう、オメガ・エンド?」
「だ~っ! もう! その前!」
「前……?」
前? この前の言葉は確か……
……そう、確か……
―――― 一度だけ、やり直す機会を与えてあげる。それを使うかどうかはあなたしだいよ。 ――――
「……あ」
どういう……こと? やり直す? 何を?
「さぁ、どうするかな?」
「やり……直せるの? また……やり直す事ができるの!?」
それは、かすかに見えた光明だった。
絶対にありえない。ありえるハズが無いと思いながらも、藁にも縋る想いで叫ぶ。
「もしも、願うなら……目を閉じて願いなさい」
期待と共に言われるままに、目を閉じる。
掌が額に当てられる感覚。
全てが白く染まっていく。
意識が、力が、経験が……
「泡沫未来の白昼夢」
ヤオの囁くような言葉だけが、エンドの耳をくすぐった。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
霧雨の隔壁
水粒でできた最強の盾。水粒一つ一つがウォーターカッター並の高圧縮で回転し、触れるもの全てを粉砕する凶悪な防壁。
霧雨の訳が間違っているのは単にミディが間違って覚えていたため。
№441 イルル・キリク 鳳凰の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
焼け恋がれし舞踊
:両腕に炎を纏う事で火炎舞踏を踊っている様な接近戦が可能。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
大気爆発
:一定範囲の空気を圧縮し小爆発させる事が出来る。
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
:簡易版雷帝の鉄槌。
雷帝の鉄槌
:電気を拳に纏わり付かせ殴りつける特技。拳を前に突き出せば電撃が迸る。
№482、ヤオ・ソーティア ???の因子を持つ女性体。
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
運命の三択
:能力とは少し違うが性格上三択として相手の未来を告げる。
告げる事による運命改変はなく、ただ相手への注意喚起にすぎないが、抽象的すぎて相手に伝わらない事が多い。
泡沫の未来の白昼夢
:???
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
我の痛みは汝が痛み(ダメージ・ペースト)
:自身に付いたダメージを全て相手に複製する能力
我得し力は汝が力
:手に入れた能力を任意の相手に貼りつける能力。
コピー済み能力
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
霧雨の隔壁
水粒でできた最強の盾。水粒一つ一つがウォーターカッター並の高圧縮で回転し、触れるもの全てを粉砕する凶悪な防壁。
霧雨の訳が間違っているのは単にミディが間違って覚えていたため。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
大気爆発
:一定範囲の空気を圧縮し小爆発させる事が出来る。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
焼け恋がれし舞踊
:両腕に炎を纏う事で火炎舞踏を踊っている様な接近戦が可能。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。




