SIDEエンド:一縷の希望
「あははははははははは……はは……なんだコレ……」
何もかもが馬鹿馬鹿しい。
捨てたはずの目標を達成してしまった。
「バカみたいだ。全部なくしてから……自分の間違いに気付くなんて」
今更、レイルががエンドに与えた役割を、ようやくこの時エンドは知った。
神になるのはエンドではなかった。否、エンドだけではなかった。
エンドだけなっても、他の誰も救えない。残るのは後悔だけ。
なまじ感情を持ったから。今まで起こした全ての罪に後悔してしまう。
取り返しのつかない出来事だと嘆くしか出来ない。
その失敗を知ってから、ようやく悟る出来損ないだ。
「何が神になるだ……結局私はただの出来損ないだった」
何もできない、誰かに守られて……何かを為そうとすれば失敗して……
失敗作だ!
そんな奴が完全なものになろうとすること自体がおこがましかったのだ。
だからこれは、愚かなエンドに与えられた……罰だ。
「助けて……」
呟きに反応するかのように……背後で何かが動いた。
全員エンドの視界の内にある。誰もがもう息絶えている。
じゃあ……後ろの奴は?
「……え?」
振り向いて……更なる悲劇に声を失う。
「なんだ……これ?」
今、一番エンドが会いたい人だった。
だけど、一番ここに……来て欲しくない人だった。
フオウ・ワウンが、自失呆然の顔で現状を見つめていた。
「フオウ……お兄様?」
「なんだよ……これは?」
自力で……抜け出してきたんだ。
そう思い、顔を見ただけで胸からこみ上げてくるどうしようもない嬉しさ。
だが、だがそれよりも……
言い訳できないこの状況に、恐怖する。
「お兄様……私……」
「……ああ。言わなくていい……分かってる」
分かってる? 違う! そうじゃない! 私は……
エンドの叫びは声にならなかった。
これから起こる悲劇の結末を知って、フオウに殺されるのならば、それも良いのかもしれないと思ってしまう。
「俺を……助けに来たんだよな? ミディとキリスと……それで。それ……で」
そして、フオウの顔が仇敵を見るように歪む。
それで察した。これをやったのがエンドであると、彼は勘違いしている。
エンドはただ助けたかっただけだ。フオウを助ける為に皆で来たのだ。
それを叫びたい。でも、絶対に分かって貰えない。それが、分かってしまっていた。
「私……じゃない……違う……これは……私はただお兄様だけいればよくて……何も望まなかったのに……」
「……満足か?」
「違ッ……」
フオウお兄様が右手を上げた。
やめて……私じゃない……違う……
エンドは叫ぶ。心の中で。
そして諦める。自分はそれだけのことをしてしまったのだと。自らの罪を受け入れる覚悟を決める。
しかし、その手はゆっくりと……
ゆっくりと……
……え? とエンドは驚愕に目を見開く。
フオウの右手は、フオウ自身の側頭部へと向けられる。
その瞬間、彼が何をしようとしているのか悟ってしまった。
咄嗟に一歩踏み出し、それを止めようとする。
「よかったな……これでお前は神様だ……」
「やめ……止めてお兄様ぁッ!」
「大気……爆発」
見た目には……何も起こらない。
ただ体内で起こった小さな、とても小さな破滅。
エンドは悟る。
ああ、これが……これこそが出来損ないの私に下った最大の罰なんだと。
「ああ、お父様……よくも残酷な運命を与えてくれました。私に、私にどうしろと、なぜこのような……」
出来損ないはそれ以上良くなどならない。ただ壊れていくだけだ。
フオウ……だったものがキリスに折り重なるように崩れ落ちた。
壊れかけた体で這い寄る。
エンドにとって、エンドの存在意義すらなくなった。
モノ言わぬ遺体と化した二人に縋りつく。
もうどうにもならないのだろうか?
この取り返しのつかない状況を、誰か救ってくれないだろうか?
私の力で……何が出来るというのか?
ただ相手の力を手に入れて、相手に写すしかできない能力で。
エンドは考える。泣きながら考える。絶望しながら必死に頭を働かせる。
……
…………
………………
……………………写す?
「あ……」
もしも……もしもそれが可能なら。
死んでしまった肉体を、蘇生させる事が可能なら?
不死鳥の力を写せれば!
「イルル・キリクッ!」
思い至ったエンドは立ち上がる。
フオウとミディの能力をコピーして、万全の態勢で外へと飛び出す。
ケリアルの風の力を頼りに匂いを探す。居場所を探す。
もう恐れる必要なんて無い。
あいつさえいればきっと何とかできる!
どんなに蔑まれてもいい。ただ居てくれさえすればそれでいい。
私は、お父様が私を生んだ……本当の理由に気が付いたから。
私の力の本来の理由。コピーして神になることじゃない。
集めた力を……別のシンキングセルへと写せる力!
お兄様の言葉通り、全てのシンキングセルがいて、初めて私は……私たちは神へと成れる。
いける! やれる! お兄様を救える! お姉様たちを助けられる!
自分の考えた能力転写なら確実に、絶対に皆を助けられる。とエンドは叫ぶ。
辿り着いた希望を、口にしなければ耐えられなどしなかった。
一縷の望みに全てを賭けてエンドはひたすらにイルルを目指す。
風が示したイルルの匂いに向かい、一番早く行ける方法を検索。
今できるのは……燕の羽。 ミディの力を使い自身の身体を半獣化させる。
燕の羽を背に生やす。力強い羽ばたき、急げ、急げ急げ急げ!
腹部から溢れでる血に意識が朦朧としかける。
ヨーティにより不意の一撃をくらったままだったのを思い出すがどうでもよかった。
これから手に入れる能力さえ入手すれば勝手に回復する。
まだ……諦められるかッ! 諦められる訳がない!
高速の直角向で地面すれすれを飛び交う。
やがて見えたイルルの屋敷に、エンドは迷うことなく突撃する。
「霧雨の隔壁!」
文字通りの水粒でできた最強の盾。
英語的な発音自体は間違っているがミディが訳し間違えただけなのだろう。
この際そんなことはどうでもいい。とエンドは結論付ける。
この防壁は、水粒一つ一つがウォーターカッター並の高圧縮で回転し、触れるもの全てを粉砕する凶悪な防壁だ。
例えキリスの禁止ですらも、この防壁には意味を成さない。
目に見えないほどの水粒一つ一つが盾であり武器なのだ。
例え掌で一瞬禁止したとして、高速で回転する水はすぐには止まらない。
だからこそ相手を削り潰し、欠けた水粒はまた新たに生成される。
屋敷ごと粉砕してイルルを探す。
幾つかの部屋を破壊したところで、ティータイムをしていたイルルの上半身を削り飛ばして急停止する。
見つけた!
防壁を解き、ソレの体に手をやって、力の複製。
すぐさま空へと舞い上がる。
突然のことに何もできずにいたイルル。
回復するなり憤然と追いかけてくるが気にしちゃいられなかった。
早く! 早く早く早く! お兄様たちを元に戻す!
エンドにとってはそれこそが最優先。イルルが追って来ようが全く気にならない。
イルルを遥か遠くに引き離し、チャクラポットへ舞い戻る。
着くと同時にフオウに駆け寄って、キリスの上に覆いかぶさるフオウに手を当てる。
「我得し力は汝が力!」
能力が発動した。自身が持つ再生の能力をフオウにコピーする。
「これで……これでお兄様は起き上がる! そして私は誤解を解いて、キリスお姉様とミディお姉様にもこの力を……力……を? あ、あれ? おかしいな。お兄様? いくら憎いからって、死んだふりは……止めてください。お願いします……お願いしますからっ。お兄様ぁっ」
いくら待っても……何の変化も無かった。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
霧雨の隔壁
水粒でできた最強の盾。水粒一つ一つがウォーターカッター並の高圧縮で回転し、触れるもの全てを粉砕する凶悪な防壁。
霧雨の訳が間違っているのは単にミディが間違って覚えていたため。
№441 イルル・キリク 鳳凰の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
焼け恋がれし舞踊
:両腕に炎を纏う事で火炎舞踏を踊っている様な接近戦が可能。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
大気爆発
:一定範囲の空気を圧縮し小爆発させる事が出来る。
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
:簡易版雷帝の鉄槌。
雷帝の鉄槌
:電気を拳に纏わり付かせ殴りつける特技。拳を前に突き出せば電撃が迸る。
№482、ヤオ・ソーティア ???の因子を持つ女性体。
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
運命の三択
:能力とは少し違うが性格上三択として相手の未来を告げる。
告げる事による運命改変はなく、ただ相手への注意喚起にすぎないが、抽象的すぎて相手に伝わらない事が多い。
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
我の痛みは汝が痛み(ダメージ・ペースト)
:自身に付いたダメージを全て相手に複製する能力
我得し力は汝が力
:手に入れた能力を任意の相手に貼りつける能力。
コピー済み能力
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
大気爆発
:一定範囲の空気を圧縮し小爆発させる事が出来る。
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
霧雨の隔壁
水粒でできた最強の盾。水粒一つ一つがウォーターカッター並の高圧縮で回転し、触れるもの全てを粉砕する凶悪な防壁。
霧雨の訳が間違っているのは単にミディが間違って覚えていたため。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
焼け恋がれし舞踊
:両腕に炎を纏う事で火炎舞踏を踊っている様な接近戦が可能。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。




