SIDEエンド:望まぬ結末
「霧雨の隔壁……」
半透明の靄のような膜がミディを覆う。
攻撃能力のないはずのミディを恐れることなどないはずなのに、キリスもエンドもなぜか危険を感じてしまった。
飛び掛ってきたミディから遠ざかるように左右へ飛ぶ。
目標を失ったミディがそのまま壁にぶち当たり。 壁は音を立てて削り取られた。
「な、なに? アレ?」
キリスが目を見開く。
ミディの膜に触れた壁や床がまるでそこだけ無かったとでもいうように掘削されていた。
ただの防壁ではない。それは一瞬で理解できる。
エンドは迷う。どちらに加担するべきか……
フオウを思うのならばフオウの妹であるキリスを助けるべきだろう。
しかし、相手は自分を慰めてくれた存在。
ケリアルを心底敬愛し、最後まで信じきったその姿に、尊敬すらしてしまったミディ・ネリィ。
そしてエンドは思ってしまっていた。
キリス・ラーニリアの危険な思考性がいつかフオウを必ず危険に晒すだろう事を。
だからこそ、迷う。
もし、もしもの話。ここでキリスが死んでしまえば、おそらくフオウは……
だから、キリスではなく、ミディとフオウを天秤にかける。
「うあああああああああああああああッ」
防壁を纏ったミディがキリスへと突撃する。
キリスはとっさに右手を前に、力ある言葉を紡ぎだす。
少しでも触れれば能力を解除できると踏んでの判断だった。
「我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)」
防壁に触れる寸前、力の発動……が、
接触の衝撃で勢いよく跳ね飛ばされたキリス、対するミディの防壁は未だ健在。 なのに……
「ひ、ぎぃいぁ……痛っ……何……これ……ッ?」
キリスの右手が跡形も無く消えていた。
「な……なんで? 禁止……したのに……消したのにッ!」
さっきとは打って変わって泣きじゃくるキリスにミディは何も答えない。
ただ、トドメを刺すべく突撃を開始する。
エンドは迷う。どちらに付くか。どうするべきか?
迷う迷う迷う。そして……
そして……エンドは力を解放した。
「渦巻く風よ、切り裂け、真空の鉤爪ッ!」
丁度ミディとキリスの目の前で。
「あ……え?」
思いもよらないその現象に、ケリアルしか使えないはずのその能力に、ミディ・ネリィは一瞬、我を忘れた。
決断をするには時間が無かった。だから、どちらか一人しか救えないのなら、エンドの取るべき行動は確定している。惚れた弱みだ。フオウを取るに決まっていた。
「ごめんなさいミディお姉様……」
「エン……ド? これ……」
ミディに掌を向けた。
光が集まる。収束する。
初めてだ。今まで初めて、生まれて初めて、殺すことがこれほど苦痛に感じる。
自然と溢れた涙で視界が霞んでいた。それでも、ただ真っ直ぐに手を突き出す。
「駆け抜ける……閃光!」
例えどのような防壁であろうとも、中が透けて見えるのならば。
少し曲げられようと、反射されようと、確実に光は通り抜ける。
エンドの目の前で閃光が迸る。平行な二つの閃光が。
(二つ……の……?)
「エンドッ!」
光が向かってくる刹那、エンドは誰かに押された。
光で何も見えなくなる。
何もかも真っ白に。
気が付けば……
気が……付けば……
目の前に見知った誰かが倒れていた。
右手と心臓を失った少女……
どこかでみたような……
ありえない……ありえないありえないありえない!
こんなの……嘘だ。
なんで? 貴女が私を?
思わずその人物に視線を向ける。エンドは現実感の無い現実に、膝を折って少女を抱き上げた。
「大……丈夫?」
呆然とするエンドに、キリス・ラーニリアは微笑んで見せた。
抱き上げた手が震えてくる。
「うそ……なんでッ! どうしてッ!?」
(どうして私を……ヨーティの放った閃光から庇った……?)
幻覚……そうだ幻覚だ。
死ぬ間際に見た。
本当の私は床に倒れたまま、胸を打ちぬかれて死んで……
エンドは夢想するが現実は変わらない。
なんで……どうして……
いつか消そうと心に決めたのに……
殺そうとしている私なのに……
なぜ、エンドを守ったのか、庇ったのか。エンドには全く理解できない。
「どうしてこんなことッ!」
「だって……妹だもん……守ってあげなきゃ……ね?」
血まみれの口が、エンドの疑問に答える。
そんなの嘘だ。そんなことで命を投げだすなんて間違っている。
禁止の力に龍の力。これほどの力を持っててどうして? もっとやれることはあるはずだろ。そう思いながら。どこかで納得してしまったエンドがいた。
「姉妹なんて絆、すぐに切れるものなのにっ!」
「そんな……こと……ない……よ……」
赤い何かが広がっていく。エンドの足元に触れた。
キリスの仇であるヨーティは既に息絶えていた。
最後の一撃だったのだ。エンドを殺すべく放たれた渾身の一撃。
それを、キリスが代わりに受けてしまった。
「嫌……だ。こんな結末は……神にならないって……お兄様だけいればいいって。そう……じゃない。私は、キリスお姉様も、ミディお姉様にも……いなくなってほしくなんか……なかったんだ」
キリスの体から力が抜ける。
私は彼女から離れ、まだ息のあるミディお姉様の元にふらつきながら歩く。
「やだ……こんな結末……嫌だよ。ミディお姉様ぁ」
「私だって……でも、ごめんね? ……もう……慰めてあげられそうに……無いの」
そういって無理に微笑んでみせる。
結局、エンドの選んでいた道は、共存の道でもなく、人の道でもない。
残ったのは孤独……獣の道だった。
「あは……」
ただ一人だけ……生き残った。
「あは……ははは……」
ここでは、今この瞬間、私が……全知全能だ。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
霧雨の隔壁
水粒でできた最強の盾。水粒一つ一つがウォーターカッター並の高圧縮で回転し、触れるもの全てを粉砕する凶悪な防壁。
霧雨の訳が間違っているのは単にミディが間違って覚えていたため。
№441 イルル・キリク 鳳凰の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
焼け恋がれし舞踊
:両腕に炎を纏う事で火炎舞踏を踊っている様な接近戦が可能。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
:簡易版雷帝の鉄槌。
雷帝の鉄槌
:電気を拳に纏わり付かせ殴りつける特技。拳を前に突き出せば電撃が迸る。
№482、ヤオ・ソーティア ???の因子を持つ女性体。
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
運命の三択
:能力とは少し違うが性格上三択として相手の未来を告げる。
告げる事による運命改変はなく、ただ相手への注意喚起にすぎないが、抽象的すぎて相手に伝わらない事が多い。
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
我の痛みは汝が痛み(ダメージ・ペースト)
:自身に付いたダメージを全て相手に複製する能力
コピー済み能力
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。




