SIDEエンド:崩壊の序曲
「我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)ッ!」
……え? エンドは思わず呆然とその光景に見入っていた。
光の槍は、目の前の手に触れた瞬間、まるでそこにないかのように……
一瞬で掻き消えた。
予想外過ぎて全く行動できなかった。
自分を、フオウとミディ以外どうでもいいと行動していた自分を助けようとしてくれる者がいるなんて、彼女には予想外過ぎて、その人物に視線を向ける。
エンドを庇うように前に出たキリスが、鬼の様な表情をしていた。
「な、何を!? あ、貴女ミディがどうなっても……」
慌てるようにケリアルが告げるが、彼女は自身の行動の失敗に気付いていなかった。
キリス・ラーニリアは規律に厳しい人物である。
犯罪行為を行うような者は彼女の粛清対象だ。
それも自身の目の前で下劣な人質を取る行為。
それはまさに、殺してくれと言っている様なものだった。
「言っておくけど……今、私怒ってるよ? 分かってるかな? 私の前で人質なんて取ってるそこの君。規律を破ったそこのオマエ……ユルサナイカラ」
その刹那、誰がそれを止められただろう。
誰が、そいつを前にして……何か行動が出来ただろう?
誰が、逆鱗に触れられた彼女を止めることができただろう?
キリスの頭に突き出た二つの角。
両手には鱗がびっしりと生え、大きく……次第に、あっという間に。
天井すら突き破る強大なバケモノがそこに現れていた。
それは伝説上の生き物にして神罰を与えし神獣。
周辺を放電が迸る。まるで怒りを体現しているようだ。
たゆたう髭を靡かせて、本来出会う事は絶対にあり得ない存在がそこにいた。
「禁則事項、監禁の罪、拉致の罪、人質の罪、傷害の罪、偽証の罪。よって、死罪」
「な……何? この生物は……」
反則だ。
青銀の鱗に覆われ、鋭い鍵爪を持ち、立派な髭をなびかせ、渦巻くように宙を泳ぐその長身。
見るものを圧倒させるそれは……キリス・ラーニリアの獣化形態……龍。
「い、いい! そんなこけおどしの姿をとっても! 動いたらこいつが死ぬのよ! 仲間なんじゃないの!?」
キリスから返答はない。代わりに髭がビリリと振動する。
「伏せて!」
突然聞こえたくぐもったキリスの声。
危険を感じて地面に倒れこんだ私の頭上で、稲光が弾けた。
誰かの悲鳴が聞こえ、次に誰かが倒れこむ。
ヨーティ……か? ケリアルは?
恐る恐る顔を上げる。ミディお姉様がしゃがんでいる姿が目に入った。
そして、何かの直撃を受けて全身が焼け爛れたケリアルが……立ったまま絶命しているのを見てしまった。
何が……起こった?
獣化形態から元に戻るキリス。
その真正面で、ようやくミディが顔を上げる。
そうして……見た。
キリスの声に反応して……自分が直撃を避けた結末を。
死滅の未来を避けた結末を。
そう、もしここで彼女がしゃがまなければ、きっとミディは死んでいた。
それはまさに滅び。残るは無。
しかし、生き残ってしまった。残るは二つの未来。
一つは共存。悔み、それはきっと、ケリアルを殺したキリスとの共存なのだろう。
「ケリアル……姉さん?」
そっと……触れる。
その力だけで、ケリアルの体は真後ろへと倒れた。
キリス・ラーニリア……危険だ。
改めて思う。禁止の力に龍という最悪な組み合わせ。敵に回してこれほどに恐ろしいものが他にあるだろうか?
しかも今の攻撃は、伏せ遅れればエンドたちすら……
(やっぱり……危険すぎる。私にとっても、お兄様にとっても……)
「ケリアル姉さん! ケリアル姉さんッ!!」
必死にすがりつくミディを見ながら、エンドはキリスに体を預ける。
「大丈夫? ちょっと血を流しすぎてたりしない?」
「……はい……」
声には出さない。
しかし、決意を持って発動した。
コピーの能力を。
(我は汝が力を複製する)
危険すぎる能力だ。
あまりにも強大で、エンドにとってもフオウにとっても脅威にしかなり得ない存在。
だから……
「……さない」
だか……ら?
「許さない……」
それは、エンドの言葉でも、キリスの言葉でも無かった。
ゆらりと立ち上がる、青き髪の少女。
カチューシャが可愛らしく頭を飾っていたが、その振り向いた表情は、憎しみに塗れ、今だ涙が止まっていなかった。
「よくも! キリスッッ!」
立ち上がったミディが叫ぶ。
怒りに震える眼を憎き敵へと向けた。
慌てたのはキリスだ。彼女は人質に取られたミディとエンドを助ける為にやったのだ。
なのに、なぜか仇とばかりに睨まれている。
「ちょ、ちょっとミディ姉さん? い、今のは貴女を助けるために……」
「許さない! 許さない許さない許さないッ!! 例えどんなに親しい人だって……私のためにしたことだってッ!! 共存なんてできない! できるもんかッ! ケリアル姉さんを殺した奴となんてッ!」
怒り狂ったミディは羽を広げる。
ふわりと飛び上がった彼女は両手を開き、血涙流して叫ぶ。
それは、ミディ自身の選択だった。
キリスとの共存? 冗談じゃない。
なら残るべき選択は……感情を全て怒りで塗りつぶす。
それはまさに狂気。青き愚かな一羽の鳥が、ついにその牙を向いた。
何かが壊れた……瞬間だった。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
№441 イルル・キリク 鳳凰の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
焼け恋がれし舞踊
:両腕に炎を纏う事で火炎舞踏を踊っている様な接近戦が可能。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
:簡易版雷帝の鉄槌。
雷帝の鉄槌
:電気を拳に纏わり付かせ殴りつける特技。拳を前に突き出せば電撃が迸る。
№482、ヤオ・ソーティア ???の因子を持つ女性体。
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
運命の三択
:能力とは少し違うが性格上三択として相手の未来を告げる。
告げる事による運命改変はなく、ただ相手への注意喚起にすぎないが、抽象的すぎて相手に伝わらない事が多い。
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
我の痛みは汝が痛み(ダメージ・ペースト)
:自身に付いたダメージを全て相手に複製する能力
コピー済み能力
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。




