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SIDEフオウ:日常2

 一度キリスの一個№が下のメイリィ・スウがうっかり背中の一枚、逆鱗に触れてしまったことがあった。

 その瞬間、その場は地獄絵図をも上回る凄惨な光景に変貌した。

 以降、誰もキリスの背中の鱗には触れようとすらしなくなった。


 フオウにはない能力だから彼はちょっと羨ましくも思えていた。

 フオウは今のところ唯一の男性体。ただ、せっかく生まれて来た彼には変態能力は備わっていなかった。

 男性体であるという以外は、女性体に全ての性能が劣っているのである。


 特殊能力こそ備わったがそれだけだ。

 変態能力は元となった生物になれないばかりか半獣半人にすらなれない。

 双子なのでキリスと同じ変態が可能なはずなのだが、一度もできた事は無かった。


 つまり出来損ない。

 身体能力も他のシンキングセルたちと比べると劣っている。

 女性体の身体能力はピンキリとはいえども、全てが人を軽く上回っている。

 しかし、フオウの身体能力は人間の男性と同じ程度の力しかなかった。


 そのためなのか温厚な性格になった彼は、下手な短歌を作るのが趣味という体たらくである。

 五・七・五・七・七の短歌、俳句ではない。下手の横好きとしか言えないが彼にとっては唯一と言っていい趣味だった。

 別に本格的に相手に聞かせるわけじゃないし、自己満足なので、隣でよく聞くキリスやメイリィがゲンナリとした顔になるくらいである。


『――――次のニュースです。反抗組織【シンキングセル保護を訴える会】の会員たちによる大規模なデモ行進が行われ、止めに入った警邏隊と衝突、九人が重軽傷、死者一名を出す……』


「どこもかしこもこの前からこればっかだね」


「仕方ないだろ、他にニュースないんだから」


 もう一度、ふぁっと漏れた欠伸をやって、フオウは目の前にあるお茶を飲む。

 ……ヌルい。

 キリスは猫舌なので、よくぬるくなったお茶をだしてくる。フオウとしては熱いお茶をのみたいところだが、毎日のことなので予想は出来ていた。


 温めるか……と溜息を付く。

 シンキング・セルには特異な能力が備わっている。

 一人一人その力は違うものの、超常現象を引き起こす。という点においては同じようなと言わざるおえない。


 これはシンキングセル生成時に使われている時空石の粉が原因ではないかとレイルが論文を上げているが、詳しい理由は未だにわかっていない。

 ただ、シンキング・セルが生成された時には必ず不可思議な能力が使えるようになっている。

 そして、一つとして同じものが無いのもまた理由不明だった。


 キリスはフオウの向いに座ってテレビを見ている。

 フオウはそれを覗き見て湯呑を中心にして両手を添える。

 湯呑との間を数センチ空けて、力を入れる。


 空間固定。

 目に見える変化は起こらない。でも、フオウだけにわかる。

 湯呑の周りの空気が固定されている感覚。


 挿入。

 湯呑と中のお茶部分を分け隔てるように空気が入り込む。

 これは目に見えて分かる。

 湯呑から剥がれるようにお茶が宙に浮く。宇宙空間の水のような現象だ。

 もちろん、キリスに悟られないために湯呑からお湯がはみださないように厚さ一ミリ程度の空気の断層がお茶と湯呑を分け隔てているだけなのだけど……


 圧力拡散開始。

 山頂以上の空気の薄さで沸点を下げて常温ですら沸騰させる。

 次第に気泡が現れ始めるお茶。そろそろ頃合か?


 空圧復元。

 程よく熱せられただろうお茶が湯呑の中に戻される。

 あったかそうな湯気が仄かに立ち昇る。

 上手くいったようで、フオウは思わずニヤついた笑みを浮かべる。


「そうだ、今日の約束覚え……あ……」


 あ? フオウが湯呑から声のした方に目線を向けると、キリスと目が合った。


「お兄ちゃん、何やってんのッ!?」


 湯呑みから立ち昇る湯気を目敏く見付け、キリスがギロリと目を剥いた。


「無闇に能力使わないって……約束しなっかったっけ?」


 もう一度言おう。シンキングセルには特異な力がある。

 フオウの力は空気を操ること。そして、キリスの能力は……


「ええと、その、なんだ、お茶がヌルかったっていうか、熱いお茶が飲みたかったっていうか……」


「ほほう、あっつぅいお仕置きがお望みと……」


「いや、待て、んなこと一言も言ってねぇぞッ!?」


 右手を突きだし、腕捲り。

 指を小指から順にゆっくりと折り曲げていき嫌な笑みを浮かべて不敵に笑う。

 その時、キリスの笑みは悪魔のように見えた。


「どうやら、また禁止させられたいみたいねぇ、お・に・い・ちゃん」


 自分の椅子を蹴り上げて飛翔するキリス。俺に向かって右手を突きだす。


「我は汝の行為を禁ずッ! ぷろはびったらぁーーーーうずッ!」


 そう、キリスの能力は禁止。

 手に触れたあらゆるシンキングセルの超常能力を禁止する。

 シンキングセルにしか効かない能力だが、相手のシンキングセルは触れられたら最後。キリスが許してくれるまでそいつの身体は人と全く変わらなくなる。


 ただ、フオウはあるトラウマを抱えている。

 キリスは知っているが、規律を乱す者に容赦はしない。

 お構い無しにトラウマを発動させてくれるだろう。


 だから、フオウはとっさにガードする。

 傍にあった湯呑を盾に、キリスの攻撃を受け止め……


「あっちぃぃぃぃッ!?」


「あっつぅあぁッ!?」


 予想以上に熱せられていたアツアツの湯呑みに二人は同時に触れ、そして同時に手を離していた。

 二人して湯呑に触った手を振りながら飛び跳ねる。

 湯呑みは運良くテーブルへと、こぼすことなく着地する。


「う、腕を上げたわねお兄ちゃん……」


 キリスは少し赤くなった手を押さえて恨めしそうにフオウを睨む。

 フオウとしても、まさかあれほど熱くなってるとは予想外で、泣きそうになりながら二人して流し台で掌に水をかける。 


「お仕置きを回避しようと欲すれば、妹含め無理心中……」


 本日初の短歌である。


「ワケわかんない事言ってないで早く朝食食べようよ……」


 これが、二人のいつもの日常だった。

 何のことのない平穏。世界から約束された安寧の日々。

 でも、彼らは既に予想していた。


 【ノアの箱舟】。

 そこにいたレイルが、もしも死んでいたとしたら……

 成功した男性体を待ち望む他のシンキングセルたちが、こぞってフオウの元にやってくるだろうことを……


 唯一の男性体となってしまうのだ、自分たちの子を産むために必要な存在はフオウしか居なくなった事になるのだから。

 致命的なトラウマがあるフオウには、彼女たちの子を生みたいという願いに答えてやることは出来ないのに……

登場人物


 №444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。

   能力名:空気操作


 №445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。

  肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。

   能力名:禁止

     我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)

       :シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。


 №999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体

   能力名:???&???


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