SIDEエンド:罠
ミディと共にビルをでたエンドは、目の前で待っていたキリスを見つけて驚いた。
「キリスお姉様? 一人で行ったんじゃ……」
「なによ、せっかく待っててあげたのにそれはないじゃない。ほら、皆で探そ。手分けすればすぐに見つかるよきっと」
「……そう……ですね」
「ミディ姉さんだっけ、ケリアル姉さんの行きそうな場所って心当たりある?」
「ううん。私の知ってるところにはもういないと思う。ケリアル姉さん頭いいから……私が考えるよりずっと巧妙なとこにいると思う」
「そう、やっぱり地道に探すしか……」
思案顔のキリスに影が差す。
いち早く気付いたミディが顔をあげ、驚きで目を見開いた。
既に暗くなり、月に照らされる世界の中に、一人、赤茶色のそいつが夜空を舞って降りて来た。
「あらあら、こんな所にお揃いとはね」
「ケリアル……お姉様?」
「ヨーティ。あなたに復讐するために……フオウを捕らえさせてもらったわ」
月明かりを背景に、不敵な笑みの梟女が塀の上に立っていた。
「安心しなさい、まだフオウは襲わない。あなたを半殺しにした後で目の前で見せ付けてあげる」
「それはまた悪趣味ですねお姉様」
「明日。ヨーティ・ヒュリケにとってもっとも思い出の深い場所で会いましょう」
バサリと羽ばたいた。
空へと舞い上がっていくケリアルを見上げ、キリスとエンドは歯噛みする。
「当然だけど、あなた一人できなさいよ? フオウがどうなるかわからないわよ?」
声だけを残し、空の彼方へと飛び去る梟。
しばらく見上げていたエンドに、キリスが向き直る。
「思い出の場所?」
「ノアの箱舟……お兄様の家。そしてこのビル。でも、ケリアルお姉様の言ったのは……私ではなく、ヨーティ・ヒュリケにとって思い出の場所。おそらく、チャクラポット」
「場所さえ分かってるなら今から三人で救出に向かお! 私の力なら相手の力無効化できるし、いざとなったらミディ姉さんの力でお兄ちゃんを守れば……」
「いえ、せっかく明日来いと言っているのですから明日にしましょう。あの様子ならお兄様は私が半殺しになるまでは無事でしょうし」
「え? でも……」
「大丈夫。明日になれば……明日なら負ける気はありませんから」
心配顔のキリスとミディ。しかしエンドだけは、不気味な笑みを貼り付けていた。
「待ちくたびれたわ……」
フオウを攫い、縛り付けたケリアルは、エンドの到着を不敵な笑みで待っていた。
ケリアルがエンドの目の前に現れ、自分の居場所を伝えてきたとき、一体何を考えているのか全く分からなかった。
本当にただの復讐だということが理解できたのは、今、この部屋に来た瞬間だ。
「どうして……ここに?」
「あら? どこに呼ぼうが私の勝手でしょ?」
一番初めにお姉様の力を奪った場所……ヨーティ・ヒュリケにとってはもっとも忌まわしいだろう思い出の場所だ。
「ところで……一つ聞きたいのだけれど」
「何?」
不機嫌に答える。内心は何度も舌打ちしたい気分だった。
何か嫌な気分だ。
あの不敵な笑みは、まるで得意の領域に連れ込んだとでも言いたそうな顔だ。
周りを見渡す。隠れるような場所はない。罠の張ってある様子もない。
目の前にいるのはケリアルと地面に這い蹲るように縛られ倒れているフオウ。
壁に結わえ付けられた時計の音が耳障りなほどに五月蠅く響く以外他には何も見当たらない。
後ろを警戒してみるが、誰かがいる様子もない。
第一そちらにはキリスとミディがいるのだ。
誰かがいたら騒ぎになっているはずだ。
「どうしたの? きょろきょろとして?」
「別に……なんでもないですわ。で? 聞きたいことは?」
「……貴女が何者なのか」
やっぱりか……とエンドは納得する。
ここに案内された時点でなんとなく想像は付いた。
嗅ぎ当てられていたらしい。
今ここで正体をばらせば……おそらく後ろに控えているミディたちにも聞こえるだろう。だけど……
別にもう、隠す必要なんてありはしない。
だってもう、昨日の内に二人には話してあるのだから。
自分がいかに間違った行動をしていたか。
私にはもう、神になろうという思いは無い。ミディお姉様とキリスお姉様と、そしてフオウお兄様と共に暮らす。それがきっと、父、レイルの願いだったのだろうと、エンドはなんとなく、察し始めていた。
「何者か……とはどういうことかしら? ただのシンキングセルですわお姉様……」
「ヨーティ・ヒュリケ……病院に入院ですってね……どうしてあなたは重症を負っているはずなのにここに来れるのかしら?」
「ふふ、確信してるのに質問したんじゃない? そう、ヨーティ・ヒュリケは入院中。なぜならば、ヨーティお姉様は私がああしたんだもの」
「やっぱり……」
「ええそうよ。お父様を殺したのも、お母様の首をへし折ったのも、研究所を焼き払ったのもみぃんな私……」
背後で息を呑む気配がした。流石に二人とも驚いたのだろうか?
「だって……フオウ」
フオウに声を投げかけクックと哂う。
もしかして……私の正体をお兄様に晒すのが復讐? とエンドは呆れる。
でも残念。フオウはすでにエンドの何をしたのか知っている。
「さぁ、それで? あなたのお名前は? 最も末の妹さん」
楽しそうに笑いを漏らし、ケリアルが尋ねる。
「№999、私はエンド。シンキング・セル計画最後にして、最も神に近き者。私の名は、オメガ・エンド。全てのシンキング・セルを殺し、この世で唯一の神となる存在……」
そう。それが、生まれたときの私の全てであり、作られた目的。
「あらあらぁ? それじゃあフオウに近づいたのはなんのためかしら」
「決まってるでしょ? お父様を殺せば、自然唯一の男性体に他のシンキング・セルは集まる。貴女みたいにね、間抜けな間抜けなケリアルお姉様」
少しケリアルが眉根を寄せた。
「ずいぶん強気じゃない。フオウの前でよくもまぁそんな裏切り行為が言えるわねぇ」
「そうね。確かに私は……寄ってきたシンキングセルどもを一匹づつ消していくはずだった」
「だっ……た?」
思っていた事ではなかったのか、ケリアルが言葉を反復する。
「お兄様……私……謝らないといけない」
エンドは一歩、フオウに近づいた。
「私、出来損ないだから。こうなるまで気付かなかった……」
ケリアルなんていないとでもいうように無視してフオウに近づく。
「私、神じゃなくていい。そんなものなれなくていいっ」
ケリアルがエンドの行動に驚くがエンドには知ったことじゃない。
「ただ……側にいられればいい。他に何も望みません」
手を伸ばせば……もう届く……
「だから……」
「……今よ、ヨーティ(・・・・)」
……え?
ガバリと上体を起こすお兄様の姿をした女。エンドの腹へと手を当てる。
……え?
つぶさに観察すればすぐわかる変装だった。そのフオウには巨大な胸があった。
男にはありえない胸。俯き加減だったので見えづらかったが近づけば近づくほどその存在は露わになっていたはずだった。
エンドがフオウだとばかり認識していたため気付くのが遅れたのである。
「駆け抜ける閃光!」
エンドに最も恨みを持つ者の一撃が、エンドの腹に風穴を開けた。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
№441 イルル・キリク 鳳凰の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
焼け恋がれし舞踊
:両腕に炎を纏う事で火炎舞踏を踊っている様な接近戦が可能。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
:簡易版雷帝の鉄槌。
雷帝の鉄槌
:電気を拳に纏わり付かせ殴りつける特技。拳を前に突き出せば電撃が迸る。
№482、ヤオ・ソーティア ???の因子を持つ女性体。
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
運命の三択
:能力とは少し違うが性格上三択として相手の未来を告げる。
告げる事による運命改変はなく、ただ相手への注意喚起にすぎないが、抽象的すぎて相手に伝わらない事が多い。
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
コピー済み能力
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。




