SIDEフオウ:不甲斐なき自分
誰もいない家に帰りついたときには、すでに夕方になっていた。
一足違いでキリスも帰ってきて、いつものように元気な声でただいまと言ってくる。
ダイニングルームの椅子に力なく座っていたフオウに気が付き、キリスは何かを察したらしい。
無言で台所に立つと、勝手に夕食の準備を始めた。
「……聞かないのか」
「聞いて欲しい?」
「……どうだろ?」
「話したくなったら勝手に話すでしょ。お兄ちゃんはそういう子だから。下手に聞いても言わないし」
キリスとは双子として生まれた。
正真正銘の妹なのだ。
だからフオウの気持ちを一番理解してくれるのも、きっと彼女だけなんだろう。
「……後悔してる」
だから、知らず口から零れた。
「……うん」
手元を動かしながら、フオウの話に耳を傾ける。
「……俺……馬鹿だからさ……酷いこと言った」
「……そっか」
「たぶん……そんなつもりじゃなかったんだ。あいつだって、だけど……言ってしまった」
「…………」
キリスはただ黙々と作業をこなす。
それでも、フオウの言葉を待っていた。
「メイリィが……死んだらしい……」
キリスの手が……止まった。
パリンと、皿の割れる音が一度、小さく響いた。
「……え?」
「今日……イルル姉さんに捕まった。ヨーティが助けてくれて、メイリィが……俺たちを助けるために……犠牲になったって」
「……そう……なんだ」
キリスの背中が震える。
自分の感情を押し殺すように、フオウの話の続きを待った。
それなのに、フオウは泣いてしまっていた。
涙が溢れて止まらない。
「必死で逃がしてくれた。ヨーティもミディ姉さんも……こんな俺を……なのに」
後悔してる。激情に駆られてビルをでたことを。
「ヨーティ……入院してるって、亮が言ってたから……」
後悔してる……きっとあいつは……
「ヨーティのこと、ヨーティじゃないって……メイリィ殺したのお前だろって……」
後悔してる。きっとメイリィは本当に俺とヨーティを見逃すためにイルル姉さんに立ち向ったんだろう。
じゃなければ……ヨーティは町まで辿り着く前にイルル姉さんに殺されていてもおかしくない。
だってあいつは……
言葉に出さずとも、フオウの言いたいことがキリスにも伝わった。
結局、キリスの目からも涙がこぼれる。
押し隠して作業を再開するが、涙で手元が見えなくなる。
「能力封印されてるのに、イルル姉さん相手に……俺を助けに来てくれた奴なのにっ」
「じゃあ……謝らなきゃ」
「でも……どうすればいい?」
「一緒に言ってあげるよ。だから、ごめんなさいって……言いにいこうね」
「……迷惑かける」
「せっかくの……兄妹じゃない。頼っていいんだよ迷惑なんかじゃないんだから」
夕食の用意を整え、四人分の食器を用意して、キリスはフオウの背中をお玉で叩いた。
御飯だけは未だに炊飯器の中だ。こればかりはあつあつを御馳走したい。
キリスの心配りに感謝して、フオウも立ち上がる。
「ほら、善は急げだお兄ちゃん! しょげてる暇があったら体を動かせ!」
「…………そう、だな」
重い腰を上げる。
キリスに励まされるように……ゆっくりと、一歩ずつ、フオウは置き去りにしてしまった妹の元へと歩き始めた。
家をでてきたフオウを見て、女は猛禽類を思わす目を思わず細めた。
顔に張り付くのは満面の笑み。
どういうわけか護衛の女は一人だけ。
あのムカつく女も、ミディ・ネリィもいやしない。
チャンスなんてものじゃない。
まさに一生に一度あるかないかの巨大な幸運だ。
こんな幸運をモノにしない奴はそれこそ本物の大馬鹿者。
背に生やした巨大な翼を広げ、獲物を前に舌を舐める。
夕焼けに照らされた赤茶けた羽を舞い散らし、一直線に獲物の元へ。
意気揚々と兄の前を歩く妹の目の前で、
立ち直るきっかけを、壊れた絆を戻す一歩を踏み出しかけた男の肩を、一羽の梟が無常にも奪い去る。
「なっ!?」
「え? お兄ちゃ……」
驚きの声の漏れる中、三つ足に掴んだ獲物を捕らえて再び空へと舞い上がる。
「あ、あんたまだ……」
フオウが驚きの声を上げる。
それを聞きながら、ケリアル・ツェマドは高らかに哂いを上げた。
結局、また連れ去られた。
柱に縛り付けられたフオウは、自分の運のなさを恨めしく思った。
「で、今度はどうする気だよ?」
「今回は……フオウはまだ襲わない。約束するわよ?」
「……え?」
「前回……まぁいろいろと屈辱的なことをされたから……あのヨーティでしたっけ? あの女に絶望を与えてやるの。その後で……あいつの見ている前で貴方と交わる。最高でしょう?」
この人は……ほんと根っから最悪だな……
「ふふ、それにね、フオウに力を使われるのはもうこりごりだから……事が済むまでは黙ってて貰うわよ」
「え?」
「まぁ、ここは絶対に見つからない場所だし……仕掛けもしないといけないから……あいつを呼んでくるのは明日になるけれど……まぁ、それまではここでゆっくりしていて」
言いたい事だけを言って、ケリアルは部屋を出て行く。
とりあえず縄取っとくか……空気を膨張させて縄に隙間作って……と、お、いけるいける。
解くより簡単に抜けれそうだこれ。
フオウは能力で縄を早々取り去り、肩を回しながら立ち上がる。
それにしても……ここって……
周りを見る。どこか懐かしい感じがする。
ここってもしかして……チャクラポット?
そうだ、確かキリスやメイリィと一緒に育った場所だ。
そう気付いたフオウの脳裏に、キリスと二人でメイリィの紹介をされた時を思い出す。
懐かしくて、涙がこぼれた。
メイリィ……ホントに、死んじまったのかよ……?
声にならない思いは、浮かんで消えて。
フオウはただ……無為な思考に埋没していく。
「夕闇に……妹泣かす馬鹿兄が…………なんだよ、短歌も最後まで浮かばねぇや……ホントダメ兄貴だな俺……」
ただただ時間だけが無常に過ぎ去っていった。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
№441 イルル・キリク 鳳凰の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
焼け恋がれし舞踊
:両腕に炎を纏う事で火炎舞踏を踊っている様な接近戦が可能。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
:簡易版雷帝の鉄槌。
雷帝の鉄槌
:電気を拳に纏わり付かせ殴りつける特技。拳を前に突き出せば電撃が迸る。
№482、ヤオ・ソーティア ???の因子を持つ女性体。
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
運命の三択
:能力とは少し違うが性格上三択として相手の未来を告げる。
告げる事による運命改変はなく、ただ相手への注意喚起にすぎないが、抽象的すぎて相手に伝わらない事が多い。
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
コピー済み能力
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。




