SIDEエンド:懺悔
いつかはバレるとは気付いていた。
でも、覚悟以上に……罵られたショックは大きいものだった。
頭の中は後悔が渦を巻き、ヤオの言っていた言葉がお兄様の言葉と共に重くのしかかってきていた。
嘘をつくなと言われていたのは、このことだったのだ。
エンドは嘘をついた。自分の名を偽った。
でも、でも誤解だ。
メイリィお姉様を殺したのはエンドじゃない。
嫌だ。捨てないで……私を見捨てないでお兄様。
声にできない思いが頭に浮かんで消える。
何かを考えるのも億劫だった。
このまま自分が消えてなくなればそれこそ幸せだと思えるくらい。
神になることなんでどうでも良くなるくらい。
それほどに、フオウの存在が彼女の心の中を占めていることに、エンドは今更ながらに気付く。
一つは人。残るは後悔。
これ以上の後悔は、エンドには耐えきれない。
こんな思いを感じるのならば、獣のままでよかった。
何も考えず、ただ愚直に神になる事だけを考えていたのなら……
いや、やはり孤独は耐えきれないだろう。
最後になって気付くのだ。私は一人きりで存在なんてできないと。
エンドは気付いて、やはり後悔してしまうのだろう。
フオウに嫌われたくない。嫌われたままでいたくない。
今からやり直せるだろうか?
壊れてしまった関係をなんとかできるのだろうか?
(でも……もう……どうしようも……)
「あの……」
側でエンドたちのやり取りの一部始終を見ていたミディが遠慮がちにハンカチを差しだしてきた。
何も考えず、奪い取るように毟り取って目からこぼれた何かを拭いた。
ミディがハンカチを受け取り、困った顔でしゃがみ込む。
「……笑っちゃいますね」
「え?」
「笑ってよ……出来損ないのバカな私を」
「あ……あの?」
「哂ってよッ! 愚か者だって、バカみたいだってさっ! 神になるために他のシンキングセル殺そうとしてっ、お兄様に近づいてッ!」
エンドは咽る。
でも声だけは出し続けた。
誰かに聞いてほしかった。
懺悔というには程遠い、自分の愚かさをただ吐き出しぶつける。
「名前偽って準備万端整えたくせにさぁっ。お兄様が気になって、守りたくなって……好きになって。いつの間にか……捨てられることが……一番嫌になって……」
ミディが気を利かせてエンドの顔をハンカチで拭く。
彼女は涙を流し、鼻を啜りながらも未だに言葉を吐き続ける。
頭の弱いミディでは、その全てを理解しきれない。
それでも、ただ悲しんでいることだけは理解していた。
だから、慰めようとエンドを抱きしめる。
「どうして……こうなったんだろう? どこで……何を間違えたのだろう? どうすればいいのかわかんないよ。もう、神になんてなれなくていい……お兄様にだけ……嫌われなければそれでいい。なのに……」
背中をミディが擦ってきた。
まるで子供を慰めるみたいで、エンドはまた、泣けてきた。
「馬鹿ですよね。ケリアル姉様でもイルル姉様でもない。本当に馬鹿だったのは……私自身」
そっと優しく抱きしめてくれるミディにエンドは甘えるように泣きついていた。
ミディは何も答えない。けれど力を強めて強くエンドを抱き返す。
それはまるで、本当の姉の様だった。
初めから嘘などつかなければ、さっきの質問に本当のことを伝えていたならば。フオウはエンドを許してくれたのだろうか?
それはもしもの未来の話。
既に結果は出てしまっていて、エンドには辿りつけない未来の結末だ。
「嫌われた。嫌われちゃったよぉお姉様ぁ……」
今はただ受けたショックがあまりに大きくて、エンドはずっと泣き続けた。
ようやく落ち着いたエンドは、気恥ずかしさからついつい抱きしめられていたミディを慌てて突き放す。
「ち、違うの……私は別に慰めてもらいたかったわけじゃなくて……」
慌てて否定するが、ミディの笑顔に二の句が告げなくなる。
「気持ち、分かります」
「……そっか。捨てられた者同士だもんね」
言ってからしまったと思うが遅かった。
ミディの顔に影が差す。
ついで自分の言葉でまた欝になって泣きたくなった。
「ヨーティッ!!」
不意に聞こえた声に、エンドとミディは振り返る。
息を切らせたキリスが、エンドを見つけて満面の笑みを浮かべていた。
なぜここに彼女が来たのか理解できず、エンドは小首を傾げてしまう。
「キリス……お姉様?」
「お願い! お兄ちゃんを助けて!」
「え?」
「ケリアル姉さんがお兄ちゃんを! だから……あの……」
すぐに助けに行こうとして……思い直す。
「私は捨てられたんだ。それに能力使えないし……行っても意味ないです」
「そんな……そんなこと!」
「それに、私はヨーティじゃないし……お父様を殺したバカな末妹です……」
もう……嘘をつくことも、誰かを殺す気力さえもなかった。
正直ここから動きたくさえない。
エンドにはもう、何も無かったのだ。
「お兄ちゃん……後悔してた……」
「え?」
思わず顔をあげたエンドだったが、その顔を見たキリスはとても悲しそうな顔をする。
「ごめん……一人で探す」
キリスが走り去る。
「待って、今……」
何かを求めるように手が伸びた。
虚空を掴み……そのまま元の場所に戻ってくる。
「……行こう?」
「ミディ……お姉様?」
「今度は、正直に話そうよ」
「……うん」
手を引かれ、ミディに立たせてもらう。
エンドはよたよたとされるままに立ちあがり、ミディに支えられて動き出す。
「あの……」
「なに?」
「ありがとう……ミディお姉様」
「……え?」
「……行きましょう。お兄様の元に!」
「あ、うん!」
エンド達は廃ビルから歩きだす。
今度こそ、道を間違えないために。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
№441 イルル・キリク 鳳凰の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
焼け恋がれし舞踊
:両腕に炎を纏う事で火炎舞踏を踊っている様な接近戦が可能。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
:簡易版雷帝の鉄槌。
雷帝の鉄槌
:電気を拳に纏わり付かせ殴りつける特技。拳を前に突き出せば電撃が迸る。
№482、ヤオ・ソーティア ???の因子を持つ女性体。
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
運命の三択
:能力とは少し違うが性格上三択として相手の未来を告げる。
告げる事による運命改変はなく、ただ相手への注意喚起にすぎないが、抽象的すぎて相手に伝わらない事が多い。
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
コピー済み能力
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。




