SIDEフオウ:決別
「今……なんて言った?」
喉が急激に渇いた。体中から嫌な汗が吹きでる。
聞き間違いだ。そうだ。そうに違いない。聞き間違いだといってくれ。
フオウの願いむなしく、エンドは……もう一度告げた。
「メイリィお姉様は私たちを逃がすためにイルルお姉様に殺されました」
その言葉に沈痛さは全くなく、ただ事実を事実として伝えた。
それだけの感情しか読み取れなかった。
「う……ウソ……だろ?」
「ですがイルルお姉様はああして追ってきましたでしょう? では足止め役に居残ったメイリィお姉様がまだ生きているとでも?」
「ウソだ……メイリィが……メイリィが……死?」
全身の力が抜け切った。
ありえない現実に頭の処理が追いつかない。
ウソだ。そんなの、こんなこと……
フオウの女性拒絶症で震えていた身体が一気に止まる。
それも気にならない程にフオウは憔悴していた。
つい先ほどまでの元気なメイリィが脳裏をちらついている。
「う、ウソを付くなよ……だって、メイリィが死ぬなんて……メイリィが死ぬはずなんて……ない」
「ウソではありません。第一お兄様に私がウソを付いてどうします?」
認めたくない。認めるわけにはいかない。認めてなんかやれない。
近しいものが、本当に身近にいたメイリィが……もう二度と会えない存在になるなんて。
それは嘘だ。俺を惑わせる嘘でしかない。
フオウはそう思わずには居られない。
…………
……待て……ある。あるじゃないか。
ヨーティが……コイツが俺にウソを付いているかもしれない証拠が!
ふと、フオウは一つの仮定を思い出した。
友人が告げた何気ない一言がフラッシュバックする。
「ヨーティ……」
暗い表情で、フオウは力なく言った。
その疑惑が、願わくば嘘であってほしいと。
ただ、ひたすらに願って。でも、決定的な質問をすることを、決意した。
「はい?」
「一つだけ……教えてくれ……」
「なんですお兄様? そんな怖い顔をして……」
不思議そうに首を傾げるエンドに向けて、フオウは絞り出すように声を出す。
聞いてはいけない。そう思いながらも、フオウには聞かずにいられなかった。
メイリィの訃報が嘘であってほしい。
目の前の少女が、フオウを命がけでイルルから救った少女がヨーティであってほしい。
二律背面のようにその想いがせめぎ合う。
その事実を決定的にするために、敢えて尋ねる。
「お前は……本当に……ヨーティなんだな?」
「……え?」
呆気に取られた表情……じゃなかった。
フオウの目の前にいた女。
その顔に表れたのは、呆気でも、何言っているのかという蔑みでもない。
明らかな――怯え。
それはまるで、予想していなかった人物から決定的な事実を告げられた犯罪者のような顔。
疑惑が徐々に確信に変わって行く。
認めたくない。認めたくはないが、もう、認めざるを得ない。
「な、何を言って……」
「どう……なんだ?」
せめて、ならばせめて真実を打ち明けてほしい。
自分が何のために近づいてきたのか、明確に教えてほしい。
フオウはそんな思いを込めて目の前の女に聞いた。
「そ……それは……」
考える。ヨーティらしき者が答えに困る。
それで分かった。コイツは……ヨーティじゃない。
フオウの疑問は完全な確信に変わった。
本当のヨーティは亮が言っていた通り、今は意識不明で病院にいる。
じゃあ……こいつは?
コイツは……誰だ?
「私は……」
意を決し、目の前のヨーティではない誰かが口を開く。
「私は……ヨーティ・ヒュリケです! いきなりなに言ってるんですお兄様?」
体中が硬直した。
偽られた。また……女性に裏切られた。
コイツは……この女は……アイツと一緒だったんだ!
その瞬間、フオウにとってエンドは一緒に暮らすべき姉妹ではなくなった。
「とりあえず、キリスお姉様を探して……」
「……るな」
「え?」
手を差し伸べてきた女に、呪詛でも込めるように言ってやった。
「近寄るな!」
「お、お兄様?」
「お前は誰だ! 何のために俺に近づいた!」
「なっ、え? お、お兄……様?」
「お前は違う! ヨーティじゃない!」
「へっ!? あの? なんで……」
激情に身を任せて立ち上がる。
「本当のヨーティ・ヒュリケはな! 父さんを殺した奴に重症負わされて入院……」
ああ……そうか。そういうことか。
自分の紡ぎ出した言葉が答えを告げていた。
父親を殺し、ヨーティを病院送りにした人物。
それは、最後のシンキング・セル。
名も知らない父の遺作となったシンキング・セル。
「お前が……父さんを殺した奴か……」
女の顔が真っ青になった。
「ま、待ってお兄様! 私は……」
「来るなッ! 近寄るな! メイリィもお前が殺したんだろッ! 俺も殺す気だったのか!? ちくしょう……よくもメイリィを……」
今までエンドに助けられたことは全て利用するために助けられていたことに反転した。エンドの笑顔が全て悪意ある笑みにしか思えなくなる。
敵だった。もはやエンドはフオウにとって自分の何かを狙って殺しに来る敵でしかなかった。
それこそ、無知に助けてしまったことを後悔する程に。
「ち、違うのお兄様! 私じゃない! メイリィお姉様は……」
「うるさいッ! 黙れ! 二度とその面を見せるなッ!」
「あ……お兄……様?」
フオウはフオウを欺いた女に背を向け、一人ビルから立ち去った。
振り返る事は……二度となかった。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
№441 イルル・キリク 鳳凰の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
焼け恋がれし舞踊
:両腕に炎を纏う事で火炎舞踏を踊っている様な接近戦が可能。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
:簡易版雷帝の鉄槌。
雷帝の鉄槌
:電気を拳に纏わり付かせ殴りつける特技。拳を前に突き出せば電撃が迸る。
№482、ヤオ・ソーティア ???の因子を持つ女性体。
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
運命の三択
:能力とは少し違うが性格上三択として相手の未来を告げる。
告げる事による運命改変はなく、ただ相手への注意喚起にすぎないが、抽象的すぎて相手に伝わらない事が多い。
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
コピー済み能力
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。




