SIDEエンド:不甲斐ない自分
部屋に飛び込んだ瞬間、エンドはイルルの手に引かれるフオウを見て即座にイルルを突き飛ばしていた。
「!? あなたはあの時の……」
倒れたイルルが何か呟いてくるけれど無視。
フオウを抱えあげて部屋をでる。
イルルがエンドを止めようとするが動きが鈍い。
何があったのか分からないけれど、イルルもフオウ熱に浮かされたような状態だったので連れだすのは簡単だった。
「お兄様? 大丈夫ですか?」
呼びかけてみるがフオウは答えない。
荒い息をエンドの首筋に吐きかけながらぎゅっと力を入れて抱きついてくる。
なんだかとても積極的でついつい心臓が高鳴っていく。
本来ならば女性拒絶の症状が出てくるはずなのに、彼は全く抵抗を行っていないのが気になる。
イルルに何をされたのかと不安になるが、今はただ逃げるしか出来ない。
「お兄様? 本当にどう……!?」
もう一度声を掛けようとして、フオウの手がエンドの胸をワシ掴んだ。
「なっ!? ちょっと!? お兄様!?」
(こ、これってまさか……お兄様……発情してる!?)
「やッ、ちょッ……お兄様! 今そんなことしてる場合じゃ……あう……」
(マズイ……ちょっと私もそんな気になって……)
事実、エンドはこのままフオウと交尾を行う事になっても良いかもしれないと思ってしまう。
しかし、すんでのところで思いとどまる。
今はまだ、イルルの脅威から逃れきれていないのだ。
「こ、これ以上はダメですッ! お兄様のエッチッ!!」
ありったけの力を込めて肘を側頭部に叩き込む。
それであっさりフオウの意識は落ちた。
「うぅ……ちょっとチャンスだったかもって後悔してる自分に自己嫌悪だわ……」
挫けそうになりながら屋敷を飛びだす。
とにかく一度家に戻るのがいいわね。と思いながらもそれでいいのかと疑問に思う。だが、今なら家にはヤオがいる。
自分の光線を訳のわからない能力で避けたあのヤオが。
屋敷の門をくぐった頃だった。
屋敷の窓から飛び出したイルルが憤怒の形相で私を睨み付ける。
が、そのまま落下したイルルは地面に激突してしばらく動きを止め動かなくなる。
やっぱりアレは馬鹿だな……と思いながら屋敷を後にする。
やがて復活したイルルが獣化する。
そして……ここに至ってようやく彼女の本来の能力が理解できた。
不死鳥フェニックス。何度でも死の淵から蘇ってくる炎の鳥。
確か一生に一度しか卵を産まないとか睡眠学習で習った気がする。
そして、今、一度死んだことで熱に浮かされた状態をリセットした彼女は、巨大な火の鳥と化して大空を羽ばたいた。
「とにかく、今の私に対抗する力はないし。ここからが本番……ってとこ?」
前をしっかりと見て走りだす。後ろから迫り来る怪物には目もくれない。
後ろを見たらその分速度が鈍ってしまうから。
でも……いくらも行かないうちに頭上を何かが飛び越えた。
そして目の前に悠々と舞い降りてくるイルル。
獣化形態から一転、腕に赤い翼と体に羽毛を生やした姿で私の前に立ちはだかった。
「一度は見逃されたものをよくもまぁのこのこと邪魔しに来ましたわね」
「お兄様は渡しませんよ」
内心舌打ちしながらもエンドは悟られないように毅然と立ち向かう。
「あらあら? 実力も伴わない下賎な女のクセに何を世迷いごとを」
両手に炎を出現させるイルル。
「悪い子にはオシオキが必要ですわね」
「冗談……こんな良い子は他にいませんよお姉様」
「舞いなさい! 火の粉のようにっ!」
突撃してくるイルルはやっぱり速い。
フオウを背負っている今の状態ではエンドには絶対にかわせない。
それでも、やっぱり愚直。
直線に迫ってくるイルルが目の前に来た瞬間、真下の砂地を蹴り上げる。
「きゃぅっ!?」
小さな悲鳴を上げて仰け反るイルル。
イルルが呻いている隙に笑いながら右に向かって走りだす。
「こ……このクソガキがぁっ!!」
激怒したイルルは口調まで変わって地団太踏んでいた。
私の姿を確認して再び地を蹴り駆けだした。
「殺すッ! このガキ殺してやるッ!!」
「だから愚直だって言ってるのよッ!!」
近づいてきたイルルに再度砂を蹴り上げる。
ご丁寧に突っ込んできたイルルはまたも無防備にこれを食らってよろめいた。
砂が目に入ったのか苦しそうに目を押さえている。
「あは……あはははは! 愚直! あまりに阿呆で哂いが止まりませんわイルルお姉様っ! 貴女の行動なんて手に取るように分かりましてよ愚図なお姉様ぁ! 愚直愚直愚直ッ! ワンパターン過ぎてお話にもなりませんわッ!!」
ようやくいつもの調子に戻った気がした。
やれる……このお姉様相手なら今の私でも煙に巻ける。
両手の炎を消して三度接近。パターン化すらしてしまった攻撃に笑みを浮かべながら砂を蹴り上げ……
……え?
イルルは全く動じることなく私に接近し喉を掴み取る。
「あぐっ!?」
(な? なんで……)
「愚直は貴女の方でしょうが……」
そう言って笑みを浮かべるイルル……目がなかった。
両目の部分にぽっかりと空洞を空けた女が私を見て笑った。
ついでに目玉が砂地に転がっているのが見えた。
「砂が目に入るから目を瞑ってしまう。逆に言えば獲物の位置さえ掴んでれば目がなくても接近できてよ。不要なら消してしまえばいいのですわ。どうせまた生えてくるのですから」
(自分の目玉を抉って……イルルお姉様。まさかそこまで阿呆だったなんて……予想外……)
「さぁて、お姉様に砂掛けてくれた御礼に何をしてあげようかしら? 生きたまま全身火で炙ってあげましょうか? それとも穴という穴から内部を焼いてあげましょうか? ねぇヨーティ」
目玉のない顔で醜悪な笑みを浮かべるイルル。
この危機をどうすれば回避できるのか考えていると、イルルの肩に手が置かれた。
「誰? 今急がし……」
「ライトニングゥゥゥナッコォォォッ!!」
振り向いたイルルに向かって渾身のストレートが襲い掛かる。
目がないので全く見えていなかったイルルは真正直に真正面から拳を受けて盛大に吹き飛んだ。
「ようやく追いついたよい~ちゃんっ!」
そこにいたのは片手に制服らしきものを抱えたメイリィ・スゥ。
何がどうなっているのか分からないエンドだったがフオウを追ってここまで来たのだろうと結論付ける。
「よ~ちゃん大丈夫? 怪我ない?」
「な、なんとか無事です……お兄様も……」
「おっけ~。んじゃこのまま逃げちゃおう」
「そうは……させませんわよっ!!」
今更目が生えたらしいイルルが鬼の形相で立ち上がった。
「前回は不意打ちで不覚を取りましたけれど……今回はッ!!」
「じょーとーじょーとーっ! このメイリィちゃんの電撃ぱんち! 恐れぬのならばかかってこい!」
ぐっと拳を握り締め、イルルに向かって突きだすメイリィ。
手に集まっていた電撃だけが放電しながら空気中を走り抜ける。
その速度はイルルの走りの比ではない。
まさに光の速度でイルルを貫いた電撃は、そのまま体内を突き抜け地面へと放電されていく。
通り道となったイルルは全身を痙攣させて倒れこんだ。
遠距離からの一撃を放てるのなら、イルルの追撃を逃れて逃走することも可能になりそうだ。
「今のうちだよよ~ちゃん!」
「あ、そ、そうですね……お兄様を連れて帰ります」
フオウをしっかりと支え、エンドは走りだす。
背後でイルルが起き上がるのを感じながら全力で駆けだした。
悔しかった。エンドにとって他人に頼らなければならないということが物凄く。
でも、こうしなければエンドはイルルに殺され、フオウはイルルの奴隷みたくなるかもしれない。もしかしたらキリスによってイルルが倒されるやもしれないが、エンドは確実に助からないだろう。
(私は神になるんだ。そしてお兄様はその、神の夫に……だから……今回だけはメイリィを利用しておく。彼女にイルルを任せる)
屈辱をあえて受けよう。
ただし……覚えていてイルルお姉様……すでに攻略法は考えてある。
必ず私が……貴女を殺すから……
エンドは遠くなったイルルの人影を睨みつけながら、そっと呟くのだった。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
№441 イルル・キリク 鳳凰の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
失われし真空
:特定空間の空気を押し出し真空を作りだす。
弾力ある空気
:空気の密度を固める事で足場を作る。
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
№482、ヤオ・ソーティア ???の因子を持つ女性体。
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
運命の三択
:能力とは少し違うが性格上三択として相手の未来を告げる。
告げる事による運命改変はなく、ただ相手への注意喚起にすぎないが、抽象的すぎて相手に伝わらない事が多い。
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
コピー済み能力
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。




