表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/44

SIDEフオウ:妹からのお礼 / SIDEエンド:新たな決意

 フオウが朝起きると、すでにエンドはいなかった。

 腹を掻きつつ部屋を出てダイニングルームに行くと、台所でその姿を見かける。

 キリスの横に立って包丁を危ない手つきでキャベツに入刀しているのは間違いなくエンドだ。


 予想外の光景を見せられ一気に目覚めるフオウ。

 エンドの行動が理解できずにしばし呆然とするが、すぐに我を取り戻して二人の元に向う。


「どういう風の吹き回しだよ?」


「あ、お兄ちゃんおはよう」


「ああ、お兄様おはようございます。もう少し待ってください。もうすぐキャベツの千切りというものができますので……」


 ザクッと切れるキャベツは半玉から四分の一になったところ。

 時間からいっても後十分くらいはかかるんじゃないだろうか?


「なんかね、お兄ちゃんに助けてくれたお礼がしたいからって、急にさっき料理教えてっていってきたの」


 フオウの前に湯呑を置いて、急須からお茶を注ぎながら、とても嬉しそうに教えてくれるキリス。

 目に見えて嬉しそうなのはお姉ちゃんとして扱われたからだろう。

 妙に張り切っている。


「って、ヨーティ、指開いたままキャベツ切っちゃダメ~ッ!」


 と、慌てるように台所に戻っていくキリス。何時にも増して忙しない。


「猫の手?」


「そうそう、にゃ~ごって感じの手でキャベツを押さえてだね……」


 十分と思ったが、もう少しかかりそうだ。


「……猫の手に、かかる時間は十分か? キャベツ相手にかかりすぎだろ……う~ん、微妙……」


(とりあえず作ってみたものの……やっぱセンスないのかな俺……)


 短歌の道は厳しそうだった。

 結局三十分もの時間をかけて朝食が完成した。

 ご飯と味噌汁と、酢豚の皿に盛り付けられたエンド作成キャベツの千切りマヨネーズ付き。

 細いのや太いのや短いのやらが入り混じったそれは千切りというより雑切りだったものの、味の方には大した差も無く、時間までになんとか平らげることに成功した。


「それじゃ、私とお兄ちゃんは学校行くけど、ヨーティは家で留守番ね。イルル姉さんがうろついてるかもしれないから、外にはでないように」


「分かってます、キリスお姉様」


 エンドに見送られてフオウたちは家をでる。

 門前でキリスと別れてメイリィを迎えにいった。

 といっても、わざわざ呼び鈴を押すまでもなかった。


(まぁすぐ隣の家の前で待っとけばいつものように……)


「ふ~ちゃ~んッ。おっはよぉぉぉうッ!!」


 そう、いつものように、近づいてきたメイリィのカバンによって深い闇に吸い込まれるフオウだった……

 避ければ済む話なのに、メイリィが振りまわす鞄は見事綺麗に腹部に決まり、くの字に折れ曲がるフオウはそのまま意識を失ってしまう。

 彼はどうやら学習できないらしい。


 -----------------------


 フオウと別行動をするのは今のエンドにとって少し気が楽なように思えた。

 本当はこっそり付いていく予定だったものの、自分の感情を落ち着けることを優先することにした。

 さすがに学園内ではメイリィが目を光らせているから信頼しておこうと思ったのだ。

 フオウと出会ってからエンドは少し自分がおかしいと思う。


 思えば出会い頭の……アレからだ。

 そう思いながら脳内に浮かぶあの時の光景。

 即座に胸が高鳴り顔が熱くなり、眩暈にも似た恍惚が押し寄せる。


(やっぱりダメだ。いつの間にかお兄様を殺したくなくなっている)


 フオウを失ってしまうのが恐ろしいことになっている。

 昨日のぬくもりがまだ残っているように、自分の身体を抱きしめれば、フオウの背中を思い出す。

 その背中に抱きつけることを幸せだと思ってしまっている。


(私は壊れた。壊れてしまった。神に一番近くなるはずの私は、神になることよりもお兄様と共にあることを選びたいと思ってしまっている。)


 一つは共存……残るは残滓……


 あのヤオの言っていた言葉の意味が少しだけ分かってきた気がする。

 きっとそういうことだ。

 獣だった私は、お兄様と出会い人の心を手に入れた。

 そしてお兄様と共存する……

 全てのシンキング・セルから力を奪い、お兄様と契る。

 それが今の私の目標になってしまった。


 エンドはそう結論づけた。

 フオウから男としての能力をコピーして他のシンキング・セルを殺す。それこそが獣の道。何も考えずただひたすらに欲望を押し付けるだけの存在だ。

 そこからエンドは這い上がった。だが、彼女は気付いていない。

 それが共存の道ではなく、人として感情を持っただけの道であることを。


 お兄様が入ってきただけ。後は前と変わらない。

 お兄様に近づいてきた奴から狩ればいい。

 後、二日の……いや、明日午後五時頃までの辛抱だ。


 エンドは一人、決意する。

 姉たちは全て消す。その代り、フオウと契りを交わすのは自分だけであると。

 ならば父の当初の目的であった耐性を持つ動植物についても、自分の身体にコピーしてしまえば子を成せるはず。

 つまり、女性体は自分さえいれば問題が無いのだ。


 エンドがそんな考えに耽っていると、ピンポーンという音が聞こえた。

 一応、留守を預かる身として出ないわけには行かない。

 ガチャリとカギを開け、ドアを開けた瞬間、エンドは自分の無防備さに青ざめた。

登場人物


 №001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。

   能力名:??? 死亡


 №274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。

  茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする

   能力名:風流操作

     真空の鉤爪エア・スラッシュ

       :真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。



 №275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。

  背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子

   能力名:防御膜生成

     遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)

       ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。

       地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。


 №441 イルル・キリク ???の因子を持つ女性体。

  麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。

   能力名:再生の焔

     優雅なる火炎のエクセレンス・フレア

       :掌から発生する炎の玉。

     消える事無き命のザ・ニューライフ

       :再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。


 №444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。

   能力名:空気操作

     失われし真空ヴァニッシュ・エア

 №445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。

  肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。

   能力名:禁止

     我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)

       :シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。


 №446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。

  ショートカットの黄色の髪の活発な少女。

   能力名:電撃

     雷撃を纏いしライトニング・ナッコ


 №482、ヤオ・ソーティア

  ポニーテールの女。

  黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。

   能力名:???


 №998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体

  金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。

  エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。

   能力名:光線操作

     駆け抜ける閃光フラッシング・レーザー

       :光を集め照射するレーザービームを放つ。


 №999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体

  金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。

   能力名:コピー&ペースト

     我は汝が力を複製する(コピー)

       :シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。

    コピー済み能力

     駆け抜ける閃光フラッシング・レーザー

       :光を集め照射するレーザービームを放つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ