SIDEエンド:獣から人へ / SIDEケリアル:疑心
その日の夜もエンドはフオウと寝ることになった。
フオウが連れ去られたために捜索に走り回り、キリスもメイリィも部屋を掃除することができなかったためらしい。
「ま、仕方ないよな」
とはフオウの言で、気まずそうに苦笑いを浮かべていった。
エンドは昨日と同じように窓際に陣取り、フオウが寝静まるのを待つ。
やがて小さな寝息を立て始めたフオウの背中にそっと……抱きついた。
普段は女性拒絶症のせいで触れる事も憚られるでも。寝ている状態なら反応はしないらしい。
とても暖かくて、胸が高鳴って……でも、物凄く安心する。
フオウは助けてくれた。
フオウを殺そうとしているエンドを……知らないとはいえ、あんなに必死に……
なぜだかとても嬉しくて……嫌な感情が芽生えてしまう。
その感情を認めたくない。けれど……止めきれない。
感情に蓋をしようとしても、物凄い力で溢れだそうとする。自分ではコントロールできない感情。それは……
お兄様を……殺したくない……
思ってはいけないその思いが生まれ始めていた。
この暖かく、心地よい人を……失いたくないと。
むしろ、この人の平穏を守って行きたいと。エンドはただ奪うだけの存在から何かを守りたいという感情を手に入れ始めていた。
(私は……壊れている。きっと致命的なものがいつの間にか壊れてしまったんだ……出来損ないだから……持つはずの無い感情を芽生えさせてしまった。ああ……お兄様の背中……とても……とても心地よくて……もう、能力集めなどどうでもよくなってしまう)
自分でも気付かないうちに、エンドは心地よい眠りに付いていた。
---------------------------
暗く狭い小さな部屋でペンライト片手に書類に目を通すケリアルの姿があった。
部屋の中には書類の保管された棚が両方の壁伝いと真ん中に所狭しと並べられていて、ケリアルは入り口から左端の書物を読みふけっていた。
それは一人一人、シンキング・セルの顔写真が描かれた書類である。
彼らの体格、趣味、その他もろもろの情報が掛かれたものである。
やがて、一枚の書類で目を止めた。
「見つけた。この顔……ヨーティ……ヒュリケか」
ペンライトを舐めるように滑らせ文字を読む。
はて……と何度か首を捻り、読み終わった後に腕を組んで考え始めた。
自分の記憶を探り、今手に入れた情報と組み合わせる。やはり何度考えても首を捻る結果となる。
「胸は……こんなに無かったはずよ? 背も足りない気がする……あいつは……本当にヨーティ・ヒュリケなの?」
顔写真は一致した。でも、身体的特徴が覚えているものと一致しない。
あのパジャマのインパクトが邪魔して定かではないが、ほぼ確実におかしいのは記憶違いではないはずだ。
「これは……調べてみる価値があるわね」
ケリアルは半ば確信めいた何かを覚え、舌舐めずりをする。
書類を仕舞ってケリアルは部屋を出る。
豪勢な廊下をゆったりと歩く。あまりこの施設には来たくないケリアルだったのだが、今回ばかりはここを管理する人物に挨拶をしない訳にもいかない。
溜息を吐きながら、入口とは反対側の廊下の先へ向った。
「直前までいたチャクラポット……行ってみる価値はあるかしら?」
呟きながら長い通路を歩き、巨大な扉を開いた。
目の前に広がる大聖堂。
司祭が祭壇に祈りをささげ、シスターらしき女がパイプオルガンを弾いていた。
祭壇の先に祀られるのは銀像と化したレイル・ディック。その荘厳な像は銀製でありさらに豪勢な装飾に宝石が惜しげもなく使われて見るのもまぶしい状態になっている。
そう、ここはシンキング・セルを尊びただひたすらに現人神と崇める者たちの集まりが創りだした施設。シンキング・セル教会。
シンキング・セルのために存在し、彼らを優遇し、崇め奉る施設である。
そのため、各地の信者たちが半ばスト―キングをしてシンキング・セルたちのあらゆる情報を集め資料として保管しているのである。
「これはこれは聖ケリアル様。もうよろしいので?」
教壇に立っていた男が立ち上がり、ケリアルに振り向いてきた。
「ええ。参考になりましたわ、司祭様」
「いえいえ、貴女様の頼みであればいつでもお聞きいたしますよ。またこのシンキング・セル教会にお顔をお出しください」
「ええ。暇があれば……」
優雅に答えて、後はもう、どうでもいいというように一度も振り返ることなくシンキング・セル教会を後にした。
もう二度と、ここに来ることはないだろう。
下手に何度も来て御神体に祭り上げられてはたまらない。
ケリアルはシンキング・セル教会から出ると翼を広げて大空を舞う。
次に調べるべきは【チャクラポット】そこで調べるのだ。あのヨーティなるシンキング・セルが一体何者なのかという事を。
ケリアルの邪魔をするクソ生意気なシンキング・セルに、地獄を見せてやるために。
ケリアルはまた舌舐めずりを行う。
彼女が持つ肉食獣としての狩猟本能に火が付いていた。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする
能力名:風流操作
真空の鉤爪
:真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:防御膜生成
遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)
ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。
地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。
№441 イルル・キリク ???の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
失われし真空
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
№482、ヤオ・ソーティア
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
コピー済み能力
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。




