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SIDEフオウ:脱出

 なぜ……こんなことになっているんだろう?

 皆で仲良く、それでいいじゃないか。それが一番のハッピーエンドだろ?

 なのに……なのになんで?

 目の前で気絶するエンドを見て、フオウは信じられないでいた。

 いくらなんでもやり過ぎだ。


「ミディ姉さん、ヨーティをだしてくれ!」


 フオウは窓の外からこちらの様子を覗うミディに叫んだ。

 ミディは困ったようにケリアルを見る。


「ダメよ。私の邪魔をする馬鹿な妹をだすなんて」


「風、せめて風だけでもッ」


「嫌よ。お姉様に逆らった罰はしっかりと受けてもらわないと」


 そう言って下卑た笑いをあげた。


「頼む……皆姉妹なんだ。仲良くしよう……そうすれば……」


「姉妹? 必要ないわ。私は子供を生めればそれでいいの。それだけが父さんの目的であり私の生存理由なんだから。フオウ、あなたもよ。種付けさえ終われば用は無いわ」


 ……ああ……

 ああ、そうか……こいつは……

 フオウは……理解した。冷静に、的確に、こいつも……あの女と一緒だと……


 なら……敵だ。

 殺意にも似た感情は一気に膨れ上がる。

 あの女の下卑た笑いが脳裏にちらつく。


 目を閉じた。相手が一定位置に留まってくれるなら、こいつが使える。

 空間把握。位置確定。

 空圧、霧散……開始。


「凝固する空気、断たれた酸素…………失われし真空ヴァニッシュ・エア


 能力の開放。ケリアルの嘲笑が止まった。

 何かを声にだそうと口を開けるが、声はでてこない。

 息すらできず、次第青ざめはじめるケリアル。


「ケリアル姉さん……アンタに二つ、道をやる。一つはヨーティと俺の解放。もう一つは……言わなくても分かるだろ?」


 コクコクと頷くケリアル。でも、声はでない。

 身体を動かす音すら聞こえない。

 息苦しそうにしながらなんとかミディに合図を送る。

 必死の形相でジェスチャーするがミディは首を傾げるだけだ。

 全く気付いていない。


 ケリアルが焦りだす。ミディのバカと思わず罵るが、真空と化した彼女の周りから音が伝わる事はなかった。

 フオウに懇願の目を向ける。

 その間も、ヨーティは風の攻撃を受けている。

 フオウは心を鬼にして力を行使し続けた。


 どさり、音は鳴らなかったがケリアルが倒れた。

 ここでようやくミディが能力を解いてケリアルに駆け寄る。

 今までフオウがケリアルに何かしていた事すら気付いていなかったらしい。

 ヨーティが膜から開放されたのを見届けて、フオウは力を解放した。


 途端に咳き込み穴という穴から液を垂れ流し、肩で息をするケリアル。

 フオウは無言で背を向けてヨーティの状態を確認する。

 だい……じょうぶみたいだな。と、彼女の現状を確認したフオウは安堵する。

 まだなんとか息がある。急いで手当てすれば間に合う。


 どうする? 連れて行くには触れないといけない。

 フオウはそれに気付いてかなり焦る。幾らなんでもミディやケリアルに頼む訳にはいかない。自分が触れてエンドを連れて帰らなければならないのだ。


 焦るフオウは、ふと、それに目を止めた。何に使うのかはわからないが、工事用だろう。黒と黄色のストライプ柄の縄を見付けた。

よし……覚悟だ。覚悟を決めろ。元は俺が悪いんだ。だから、罰だ。これは耐えなきゃいけない罰なんだ。

 意を決し、フオウは縄を自分とエンドに結び付ける。


「くッああああああああああああああッ」


 背中に背負った。一瞬にしてゾクリと全身に駆け巡ってくる恐怖。

 離れないように縄で胴体を括りつけ、グッと足を踏みだした。

 負けるなッ! 負けるな俺ッ!

 必死に自身に言い聞かせ、一歩一歩足を踏みだす。

 もしもここで女性拒絶症が発動すれば、エンドは死ぬだろう。

 そしてその亡骸を背に巻き付け悶え苦しむフオウの一人永久機関が誕生する。

 絶対にそんな未来は嫌だ。と気力を振り絞り、必死の覚悟で一歩を踏み出し進んで行く。


(歩きじゃダメだ、走らないと、女だと考えるなッ! うああッ! やっぱ恐えぇッ! 女恐えぇッ!)


 絶望の世界というのはこういうものなのだろうか?

 フオウは背中に死神でも抱えているような気になる。

 吐き気を催す。頭がふらつく。力が抜けていく。

 それでもしっかりと……気力を振り絞りエンドを背負い続けた。




 暗い惰性のまどろみの中、ふと、エンドは振動で目を覚ました。

 重い目蓋を無理矢理押し広げ……でも半分も開かなかった。

 意識が少し回復すると、自分がゆれていることに気付く。


 体が何か温かく心地よいものにしがみ付いていた。いい匂い。安心する。

 誰かの息遣い。ぼやき。辛そうにしながらエンドを背負っている。

 相手は体中に鳥肌を立てつつも、必死にエンドを背負いきろうと手に力をいれてエンドを支えている。


 夢だ……死にかけのほんの一瞬垣間見た幸せな夢。

 それはエンドにとって初めて知る幸せ。いいな。と思った。願わくばこの幸せがずっと続けばいいのに。と。


 目蓋の重さに耐え切れず、エンドは再び目を瞑った。

 心地よい音程を刻みながら誰かが歩く。

 エンドはその背に揺られて、再び暗い世界に舞い戻っていった。

 恐怖は、全くなかった。

登場人物


 №001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。

   能力名:??? 死亡


 №274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。

  茶色の髪の毛と鳳眼ともいえる鋭い瞳。ヨーティ・ヒュリケを思わせるほどの妖艶なスリーサイズだった気がする

   能力名:風流操作

     真空の鉤爪エア・スラッシュ

       :真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。



 №275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。

  背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子

   能力名:防御膜生成

     遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)

       ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。

       地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。


 №441 イルル・キリク ???の因子を持つ女性体。

  麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。

   能力名:再生の焔

     優雅なる火炎のエクセレンス・フレア

       :掌から発生する炎の玉。

     消える事無き命のザ・ニューライフ

       :再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。


 №444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。

   能力名:空気操作

     失われし真空ヴァニッシュ・エア

 №445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。

  肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。

   能力名:禁止

     我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)

       :シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。


 №446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。

  ショートカットの黄色の髪の活発な少女。

   能力名:電撃

     雷撃を纏いしライトニング・ナッコ


 №482、ヤオ・ソーティア

  ポニーテールの女。

  黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。

   能力名:???


 №998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体

  金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。

  エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。

   能力名:光線操作

     駆け抜ける閃光フラッシング・レーザー

       :光を集め照射するレーザービームを放つ。


 №999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体

  金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。

   能力名:コピー&ペースト

     我は汝が力を複製する(コピー)

       :シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。

    コピー済み能力

     駆け抜ける閃光フラッシング・レーザー

       :光を集め照射するレーザービームを放つ。

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