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SIDEフオウ:空飛ぶベッドの行く先

 朝起きると、ベットが空を飛んでいた。

 ベットの上で上半身を起こし、二、三度瞬きをして、二回くらい目をこすった。

 それでもその状況に変わりはなかった。


 フオウは思わず周囲を見渡す。家々の屋根が遥か下方を流れている。

 自分の家はさて、どこだろうか? もはや判別不可能だ。

 思わず身を乗り出すと、半透明の膜に頭をぶつけた。


「な、なんで?」


「ああ、起きられたんですかフオウさん」


 声は上から聞こえてきた。見上げると、蒼い髪のカチューシャ少女。

 その少女の背中に羽が生えている。青く綺麗な翼だ。


「え、えと……ミディさん?」


「あ、はい。シンキング・セル№275のミディ・ネリィです」


「は? しんきん……シンキング・セル!?」


 驚くフオウにミディは「はい」と肯定する。


「ね、姉さんなのか!?」


「ま、まぁそうなりますね。妹ではないです」


 ミディは半透明の膜のようなものを掴むように持って空を飛んでいた。

 半透明の膜はベットを包み込み、フオウたちを乗せて空を飛ぶ……


「朝起きて、学校行くかと目を開き、空を飛んでる無数のイチゴ……って、んな訳のわかんない言葉遊びはいいから、ミディさん、俺学校あるんで下ろしてほしいんですけど」


「そ、それは……ダメです。っていうか、どこ見てるんですか~ッ!?」


 スカートを膜を押さえた手で素早く押さえる。


「わ、揺らすなッ!? 落ちるッ!」


 揺れが止まるのを待ってから、フオウは尋ねた。


「……で、どうして? ダメなんだよ」


「フオウさんはこれから、わ、私たちとこ、子供を作るんですッ!」


 顔を赤らめ叫ぶように言い切るミディ。


「い、いや、待て。俺は女性拒絶症で……ん? あれ? さっき私たちって言ったか? たち? 他にもいるのか?」


 しかし、ミディはフオウの言葉に何も返さず、呟くように言う。


「もうすぐ隠れ家に着きます。私、鳥目なんで夜中に運ぶことできなくて、結局こんな時間になっちゃいましたけど、すぐに済みますから、学校にそのまま送りますよ」


「いや、そういう問題じゃなくて……って、 ヨー……」


 ヨーティが一緒に寝ていたことに気付きフオウは慌てて横に視線を移す。

 いなかった。


「あ、あれ? ヨー……」


 もう一度、ヨーティと叫ぼうとして、布団の中からシィ~という静かにしろという合図が聞こえた。

 思わず覗きこみそうになって、ミディの挙動に気付いて何でもない風を装う。


「フオウさん、何か言いました?」


「え? あ、いや……ははは……」


 良い言い訳が思いつかなかったので苦笑いで返す。


「? 変なフオウさん」


 どうやら不審がられなかったようだ。

 しばらく空の旅を否応無くさせられていると、やがて廃ビルの一つの大きな窓に入り込んだ。

 窓ガラス片の散らばる部屋を通り抜け、妙に小奇麗な部屋へとベットごと担ぎ込まれる。


「ここでしばらくお待ちくださいです。ケリアル姉さん呼んできます」


 それだけ言ってミディが部屋を出て行く。

 取り残されたフオウは戸惑いながらも周囲を見渡す。

 半透明の膜はまだベット周辺を覆ったままだ。


 残念ながらこのままでは脱出すらできそうにない。

 廃ビルの中はドアや窓が無く吹き抜けだが、通路の先は壁で見えない。

 ミディやケリアルの姿はフオウ達からは確認できなかった。


「な、なぁヨーティ、なんで隠れてるんだよ?」


 ミディがいなくなったのを確認して、布団の中に隠れているヨーティに聞いてみる、すると、


「お兄様、良く考えてください。もし私がいることが知れればどうなるか。彼女にとっては私はライバルの一人でしかないのですよ」


 溜息まじりにそんなことを言われたフオウは頭を掻きながら困った顔をする。


「んなこと言われてもな……やっぱ姉妹だしさ、仲良くできないのか?」


 無理だとは分かっていても聞かずにはいられない。

 しかし、これを聞いたエンドはジト目でフオウを睨む。


「お兄様にハーレム願望と指導力でもあれば一夫多妻制でも構わないかもしれませんが。私が思う限りどちらもないように思います。ですからやはりお兄様の取り合いは必須ですね。せめて女性拒絶症が何とかなればいいのですが」


「俺が悪かった……とにかく、いきなりこんな場所に連れてこられても俺には……」


 望まぬ交配はしたくない。フオウとしても、エンドとしても、今、フオウが襲われることは望んではいなかった。

 そのため脱出方法を考える。


 とりあえず防壁を破ることは不可能なので、ケリアルとミディがこの場に辿りつき防壁解除が終わった後になるだろう。

 そこが唯一の好機であり、失敗は多分許されない。


「脱出しましょう。私に案があります。今無理矢理でもなんでも……お兄様を他のシンキング・セルに与えるわけにはいきませんので……」


「それってやっぱり、お前も俺狙いなのか?」


 フオウの言葉に、心にもなかったと言った表情できょとんとするエンド。少ししてふと思いついたように不敵な笑みを浮かべた。


「……ええ」


 やや間を空けて、ヨーティが抑揚のない声で呟くように言った。

 なぜだろう。そのときフオウは背筋にゾクリと寒気が走った。

登場人物


 №001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。

   能力名:??? 死亡


 №274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。

   能力名:風流操作

     真空の鉤爪エア・スラッシュ

       :真空波によりカマイタチ現象を引き起こす特技。



 №275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。

  背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子

   能力名:防御膜生成

     遍く全てを防ぎし壁よ(トランス・ルゥセントウォール)

       ミディのみ出入り自由な隔壁膜を生成する。内部の者はあらゆる攻撃から身を守ることが出来るが、効果が切れるまで脱出も不可。

       地面の中も合わせた球体状のため、土を掘って脱出という方法も使えない。


 №441 イルル・キリク ???の因子を持つ女性体。

  麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。

   能力名:再生の焔

     優雅なる火炎のエクセレンス・フレア

       :掌から発生する炎の玉。

     消える事無き命のザ・ニューライフ

       :再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。


 №444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。

   能力名:空気操作


 №445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。

  肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。

   能力名:禁止

     我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)

       :シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。


 №446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。

  ショートカットの黄色の髪の活発な少女。

   能力名:電撃

     雷撃を纏いしライトニング・ナッコ


 №482、ヤオ・ソーティア

  ポニーテールの女。

  黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。

   能力名:???


 №998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体

  金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。

  エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。

   能力名:光線操作

     駆け抜ける閃光フラッシング・レーザー

       :光を集め照射するレーザービームを放つ。


 №999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体

  金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。

   能力名:コピー&ペースト

     我は汝が力を複製する(コピー)

       :シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。

    コピー済み能力

     駆け抜ける閃光フラッシング・レーザー

       :光を集め照射するレーザービームを放つ。

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