SIDEエンド:潜入
何の因果か、エンドは目的であるフオウと行動を共にしていた。
さすがに荷物を目一杯に持っているので触ることはできないが、手を伸ばせば届く距離に獲物が二体、無警戒に歩いている。
予想以上の幸運に、思わず手を触れて力を奪いたい衝動を抑えるのが大変だった。
「ねぇねぇ、よ~ちゃんはどんな力を持ってるの?」
陽気な声でメイリィが聞いてきた。
都合良く彼らはエンドをヨーティと勘違いしてくれている。
「光ですお姉様。光を束にして打ち出すことができます」
「ほぇ~、凄いね。虫眼鏡と一緒なんだね」
「え? ええと……そう……なんですか?」
虫眼鏡? ……少し違う気がする。
エンドは反論すべきかと思ったが、それを行っても意味はないと気付いて押し黙る。
「で、あの追ってきてた人は?」
「イルルお姉様です。お父様が亡くなられたのを機にお兄様を狙ってこられたようで、周囲の女性体は皆殺しと言っておられたので対戦いたしました」
エンドは思う。まずは……私が味方だと宣言しておけば、私はお兄様の元にしばらくはいられることだろう。その間にできうる限りお姉様方を消していく。
それがエンドの今回の目的だ。男性体能力については隙を見て奪えばいいだけなので気にしてはいない。
どうせいつでも奪えるのだ。女性拒絶症というのがネックではあるが、触れて触れれないことはない。女性拒絶症の治療だとでも偽ればいつでも触って奪い取れるだろう。
「い~ちゃんかぁ、もう。次来たら許さないんだから」
憤慨するメイリィ。その横を歩くお兄様が苦笑いで返した。
「メイリィ、せっかくの姉妹なんだからもっと仲良く行こうぜ」
「もう、ふ~ちゃんったら。敵対する奴は倒さないと、こっちがやられるんだから」
メイリィの言うとおりだ。手を抜けばやられるのはこちら。
仲間などいつでも裏切る可能性のあるものだ。
姉妹などという絆なんてすぐに切れるものに頼るなどお人よしにも程がある。
エンドも心の中で溜息を吐く。これからこいつらと一緒に生活を偽装しなければならないというのは少々キツいモノがある。
「でも、この世界に唯一の姉妹なんだ、争うなんて間違ってるよ」
「大元はお兄様にあるのですが……」
「う、それを言われると弱いな。やっぱり皆俺の男性体ってのを目当てに集まってくるのか?」
「そうでしょうね……でも、お兄様は……」
「そう、ふ~ちゃんは女性拒絶症。名前も能力も分からないどこぞのシンキングセルのせいでね。見つけたらぶっ飛ばすんだからッ! よ~ちゃんも一緒にどう?」
「え? ええ、はい機会があれば……」
まぁ、そんな機会が訪れる前にお姉様は死んでいるでしょうけど……
思わず口元を歪めたエンドは、すぐに気付いて口元を隠す。
「っと、ここが俺の家。キリスはまだ帰ってないのかな? ま、いいか。メイリィも上がるか?」
「もちのろんであるですよふ~ちゃんさん」
促されるままにエンドはフオウの自宅へ向う。
手にした荷物……何時まで持っていればいいのだろう?
そんな疑問は、誰にも気付かれることはなく、結局ずっとエンドが荷物持ちにさせられてしまった。
フオウは家に帰ってきた。
あのイルルと鉢合わせするかもしれないのでフオウはエンドを外に放っておくわけにも行かず、家に泊めることにした。
彼らはヨーティだと思っているが、エンドとの違いを知らない彼らはイルルとヨーティの証言しか彼女を判断する事が出来ないのでヨーティと信じ込んでいたのだ。
ついでに言えばお人よしであるがゆえに確認する事すらしなかった。
まぁキリスが何か言ってくるだろうが……メイリィと一緒に訳を話せば納得してくれるだろう。その程度の考えをするフオウは、居間にメイリィの荷物を散らかして、ダイニングルームに二人を案内する。
「家というものはこういう風になっているんですね」
物珍しそうに周囲を見ながらエンドが呟いた。
睡眠学習を終えたシンキング・セルはだいたいこの台詞を言うためか、フオウは懐かしい気分になる。自分も言ったなぁ。とキリスとここで暮らす事になった時を思い出した。
「飲み物、麦茶と紅茶とあるけどどっちがいい?」
「私、紅茶ぁ~ロイヤルミルクね~」
「私は……どちらもどのような物かわかりませんのでお兄様にお任せします」
そっか、まだ施設を出たばかりだから……あれ? 施設でお茶とかでなかったか? ……まぁ最近行ったわけじゃないから施設の食事も変わったのかな?
フオウは一瞬疑問に思ったが、すぐに、とりあえず紅茶でいいか。分けるのめんどいからいつものミルクティーで統一っと……ロイヤルではないけれど、メイリィは分かってないので気にしない。
と、エンドへの疑問をすぐに忘れてミルクティーを作り始めた。
「はいどうぞ~」
三人分用意してメイリィの向かいに座る。
エンドは目の前に置かれたミルクティを物珍しそうに眺めながら隣の俺に振り向いた。
「湯気がでてますが……飲んでも大丈夫なのですよね?」
俺もメイリィもその言葉に生返事を返す。
彼女は本当に施設で育ったのだろうか……
恐る恐るカップを手に取り、口に近づける。
「熱いからふ~ふ~しないとメ~だよよ~ちゃん」
一応といった感じで助け舟をだすメイリィ。
言われたことなど考えにすらなかったらしいエンドは慌てて息を吹きかける。
「……あ、美味しい」
一口毒見するように飲んで、口からでたのがこの言葉だった。
その顔に、フオウとメイリィは和んだ笑みを見せる。
「しっかし、やっかいだねふ~ちゃん。これから姉さんたちや妹さんがこぞってここに来るんだよね」
「だろうな。父さんが亡くなったから補助金も支払われない……まぁ遺産くらいは貰えるだろうけど、父さんたちの葬式に消えそうだし……バイトしないとダメかな?」
「あ、じゃあこの買い物ってやばかった?」
「もしかしなくてもやばい量だろどう見ても。こん中で着るものなんて一着二着だろ? あとは……」
思わずでかかった「古着屋にも売れやしない」という言葉を寸前で飲み込む。
「どうすんだ? もうそろそろお前ん家も服で一杯だろ?」
「売らなきゃメ~かな……ああ、憂鬱」
「どんな服なんですか?」
止せばいいのに、エンドが聞いてしまった。
途端にメイリィの目が輝いた。
余りの輝きに自身が禁忌に触れたことに気付いたエンドだったが、後の祭りだった。
「見る? よ~ちゃん見る? ってか着る? 着ちゃう? もう、一着と言わず二千着くらい着ちゃう?」
たじろぐエンドに詰め寄るメイリィ。
エンドが押し返そうとメイリィに触れようとしたとたん、その腕をつかまれ強引に居間に連れて行かれた。
フオウに思わず助けを求めるが、フオウはエンドに黙祷を捧げていた。
「お、お兄様ぁぁぁぁぁ―――――――――っ!!?」
「心せよ、大根柄に海老鬘。選びし服は死装束……おお、我ながらいい感じにできた気が……聞いてくれる人がいないとなんか空しいな……」
落胆しながら、フオウは二人の後を追って居間へと向かった。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体。
能力名:??? 死亡
№274、 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体。
能力名:???
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体。
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:???
№441 イルル・キリク ???の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。ダサい服が好きで大量に買い込む性格。他人にも無理矢理着せようとしてくる。
能力名:電撃
雷撃を纏いし拳
№482、ヤオ・ソーティア
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
コピー済み能力
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。




