SIDEミディ:策謀
フオウが去っていった後、ミディは荷物を持って公園へと歩きだした。
うず高く積まれた荷物は全て彼女の物ではない。
買って来るようにお金とメモだけ渡され、彼女一人で買ったものである。
前を気にしつつ荷物のバランスを取りながら、必死に公園へと歩く。
そこで、待ち合わせである。
何度か荷物を取り落としそうになるが、その度にあっちへふらふら、こっちへふらふらとバランスを取り、ようやく公園の中程へ来た所で、給水所にぶつかり荷物を全てぶちまけた。
折角買った荷物は再び地に塗れ、手提げ袋に入っていた中身が一つ放り出される。
自分のものではないので、思わず青くなるミディが慌てて荷物を拾い集めていると、彼女の背後から声が掛かった。
「うひゃい」と仰け反る様に驚き、再び荷物を散らけるミディ。
「アレが……男性体か。偵察ご苦労様、ミディ」
慌てて地面に飛び出た衣類を拾い、自身の小さな身体に隠すミディ。
冷や汗だらだらになりながらも背後に顔だけを向ける。
だが、声の主はそこに存在していなかった。
少しだけ安堵したミディは、散らばった荷物を近くのベンチに乗せていく。
「いい人ですよね。荷物持ってくれたりしましたし」
「でも、女性拒絶症……さすがお父様に捨てられた男性体と言ったところね」
「それは不可抗力ですケリアル姉さん」
「そうね、でも、問題はないわ。予定通りに行くわよ」
「……本当にするんですか……私……メイリィさんを敵に回したくないな……」
「じゃあ、私と貴女の同盟も終わりね」
姿なき声にミディは慌てる。
ミディにとってそれは死刑宣告にも等しい。
№274、ケリアル・ツェマド。彼女にとって一つ前に作成されたシンキング・セルは、ミディに様々な事を教えてくれた。
愚図で間抜けで馬鹿なミディを見捨てず生活を保護してくれたのである。
例え彼女にミディは利用価値が無かろうと、使い走りのような存在と思われていようとも、ミディにとってはケリアルはなくてはならない存在だった。
「ま、待って、ケリアル姉さん。私は……」
「そうね。私なしであなたは生きていけない。そうよね、馬鹿なんだから」
№275、ミディ・ネリィは生成中、ちょっとした欠陥を持って世に出て来てしまった。
それが、睡眠学習の有無である。
他のシンキング・セルたちはカプセル育成期間中に現代知識についてある程度の学習を終えて世に出て来る。
しかし、ミディの時は施設内停電や職員のミスにより本来知識として蓄えられるべき知識を与えられずに世に出て来てしまった。
白紙状態からではなく、自我を持って知識がないままにである。
それをサポートして知識を教えてくれたのが、彼女の一週間前に【チャクラポッド】で研修中だったケリアルである。
彼女がミディに現代で生きる術を教え、様々な知識を与えてくれた。
馬鹿だ馬鹿だと罵られつつも、最後はしっかりと救ってくれるケリアルに、ミディはべったり甘えるようになった。
だから、今回の偵察も、余り気は乗らなかったが引き受けたのである。
とはいえ、ついでに頼まれた買い物の方が彼女にとっては大変だったのだが。
「……う、 うん……ケリアル姉さんがいないと私……」
バサァッと近くの木から何かが飛びだした。
ミディの真後ろに飛んできたそれは、ミディを抱き寄せる。
暖かな茶色の羽毛に包まれ、ミディは幸福に満たされた。
「そうよ。貴女は私が居ないと何もできない。だから、私に従っていなさい。フオウ・ワウンを拉致するわよ、お馬鹿なミディ・ネリィ」
「はい……ケリアル姉さん……」
浮かない顔で、ミディは小さく頷いた。
ケリアルにとってはミディがどれほど重要度を占めるのかはミディには分からない。
手のかかる娘や妹として見てくれているのか、使い捨ての道具として見ているのか、どっちにしても、ミディは彼女に従うだけだ。
ケリアルには一生を懸けてでも返したい恩がある。
だからケリアルが自分をどう思っていようと関係ない。
ミディにとっては自分に知識を齎してくれた師であり、育ててくれた親であり、面倒を見てくれる良き姉であった。
彼女がフオウと交尾を行いたい。その為にフオウを拉致するというのであれば、ミディはその為のお膳立てを整えるだけである。
ただ、恩を返すために、非人道的であろうとも、ミディはそれを決行する。
そう、決意している。
「ところでミディ。あなた、私の荷物、落としたわよね?」
決意が唐突に崩壊した。
背後に居る為ケリアルの顔は全く見えない。
でも、感じる圧力にミディの顔は自然青く、脂汗が吹き出るのが自分でもわかった。
「やっぱりあなたは愚図でドジで間抜けだわ。お使いも満足に出来ないのね」
「い、いえ、その、あの、これは……」
「言い訳は見苦しいわよミディ。返事は?」
「は、はい。ごめんなさいケリアル姉さん」
「おしおき、ね?」
ミディの顔が絶望に染まった。
逃げようとするミディの身体をケリアルの両手が捕える。
バサリと茶色の羽が広がった。
荷物を放置して飛び上がる二人。ミディの泣きそうな悲鳴が空の彼方へとこだましていった。
登場人物
№001 ヲークス・ヲルディニア 蜉蝣の因子を持つ女性体
能力名:??? 死亡
№274 ケリアル・ツェマド 梟の因子を持つ女性体
能力名:???
№275 ミディ・ネリィ 燕の因子を持つ女性体
背丈は百四十前後で肩までの切り揃えた蒼い髪にカチューシャを填めた女の子
能力名:???
№441 イルル・キリク ???の因子を持つ女性体。
麦藁帽子を目深に被った白いワンピースの少女。炎の様に赤いストレートヘア。
能力名:再生の焔
優雅なる火炎の灯
:掌から発生する炎の玉。
消える事無き命の焔
:再生の炎に包まれることで自身を完全に復活させる能力。自動発動。
№444 フオウ・ワウン 龍の因子を持つ男性体。
能力名:空気操作
№445 キリス・ラーニリア 龍の因子を持つ女性体。
肩にすらかかってない自称ストレートヘアに左右から青いリボンを結び付けたいつもの髪型の少女。
能力名:禁止
我は汝の行為を禁ず(プロハビット・アラウズ)
:シンキングセルの能力を禁止する。禁止日数は最大で一年。
№446 メイリィ・スウ 蛾と蝶を持つ女性体。
ショートカットの黄色の髪の活発な少女。
能力名:???
№482、ヤオ・ソーティア
ポニーテールの女。
黒のタンクトップと太股の部分で乱暴にちぎり取ったようなジーンズを着ている。
能力名:???
№998 ヨーティ・ヒュリケ 鶴の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、170くらいの背丈に爆乳を持つ。
エンドのプロトタイプとして作られたためか容姿はそっくりになっている。
能力名:光線操作
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。
№999 オメガ・エンド 人間の因子を持つ女性体
金色のロングストレートに優しそうな眉、意志を宿した瞳、薄紅の柔らかそうな唇、小柄な体躯に胸は動きやすさを追求しこじんまりとしている。
能力名:コピー&ペースト
我は汝が力を複製する(コピー)
:シンキングセルの能力または身体の状態をコピーすることができる。
コピー済み能力
駆け抜ける閃光
:光を集め照射するレーザービームを放つ。




